投稿元:
レビューを見る
北海道のホテルローヤルというラブホテルを舞台にしたオムニバスドラマ。1本目の物語はピンと来なかったが、徐々に時代がさかのぼり、様々なドラマが展開され、物語が交錯していく。新潟も雪国ではあるが、本州と物理的に繋がっていない北の大地の物悲しさはまた別なのだろうと想像する。巻末へ向かっていくにつれ、切なさが増してくる。切ないが、女性作家ならではの優しい文体が心地よい。全部読み終え、解説を読みまたホロリとさせられた。
投稿元:
レビューを見る
衰退していく街の一軒のラブホテルが取り巻く非日常を求める話。経済成長期における街を発展させる方法として、官能的な部分は効率が良い、しかし、街の発展に寄与する力が強い反面、老朽化してしまうと廃墟化されるケースが多い。技術も資本もいらず、簡単に儲けることができるという点では、(語弊があるかもしれないが)現在のコンビニや簡単なマッサージ店に似ている部分がある。本編では、創業者からその娘、パート、客の話が書かれているが、それぞれ闇を抱えている。その後ろめたい気持ちをラブホテルでなら、発散することが出来る気もする。求めるのは日常では得ることができない体験だからだ。また、その後ろめたい気持ちがスリルを生む。本編に登場する人物、同調することができた。
投稿元:
レビューを見る
これはラブホテルを描いた小説でもなく、そこに舞台を借りた人間観察の物語でもないと思う。
そうして、そう感じるのは私がもしかしたら大阪という、経済的には比較的恵まれた土地に暮らすからではないかと気づいた。
ここに描かれているホテルローヤルは、私が知るラブホテルとはまるっきり違う。現在のラブホテルは恐ろしく快適で、ラブホテルというカテゴライズを外しさえすれば、そのへんのビジネスホテルよりもくつろいで過ごせる。今の若者たちは、私のこの言葉に同意してくれると思う。
…そう、描かれているのは私が子供の頃、アメリカの真似でどんどん建てられ、すぐに飽きられて潰れていった…モーテルと呼ばれた過去の遺物の姿に近い。
かつて観光地に向かう国道沿いには、ある程度の間隔を空けて、きらびやかにネオンを明滅させて、1階のガレージと2階の部屋がセットになったモーテルが何軒もあった。
私が成長し、親と観光地に旅行に出かけることもなくなり始めたのとほぼ同じペースで、モーテルの外観は薄汚れ、ネオンランプのところどころが切れたまま放置され、やがてガレージ周りの鉄骨が錆びだらけになって…人の気配を失っていった。
だから最初は「これはその頃…昭和後期の物語なんだ」と思っていた。
しかし。
私は、言葉も文化も、関東や関西を中心に生まれたものがどんどん周囲に広がり、長い歳月をかけて、地方へと伝播してゆくものであることを、知識としても経験としても理解している。そのことをふと、思い出した。
しばらく前に、夕張はもはや無理ではないか…と、北海道事情に詳しい人から聞いた。
息子はそれを聞き、第二、第三の夕張が北海道にはできているらしい…と教えてくれた。
ホテルローヤルは大阪人の私には時代錯誤の幻影で、描かれる人たちも私の生活圏では聞いたこともないような苦悩と不幸に塗れているが。
これが…昭和30年代から50年代くらいまでの話でなかったとしたら。
これが…北海道の今、釧路の現実だとしたら。
ホテルローヤルが、まだ湿原にその廃墟をさらしているのだとしたら。
なんとも言えない気持ちで、とうとう最後まで読んでしまった。自分の記憶や現状認識とはあまりに異なる設定に、途中で嫌気がさしたのに。
投稿元:
レビューを見る
ずっと気になっていた直木賞作品が文庫になっていたので購入。
どのお話も、虚しくて悲しいんだけど、終わりには少しだけ希望が見えて少し救われた。その後が気になるお話が多かったけど、それが持ち味なんだと思います。
ラブホテルを舞台に、境遇はちがうのだけど、身近で、リアルで、かっこつけてない、ありのままの人間、をうつしだしたお話ばかりでした。
投稿元:
レビューを見る
2015.07.30
人は夢や希望だけでは生きていけない。恋や愛でお腹を満たすこともできない。日常というものが厳しい状況であるとき、人は優しさを失いはじめる。生きていくということは、それだけで大変なことであることをあらためて知る。
本作はホテルローヤルを中心に現在から過去に物語が展開する。短編連作であり、事情や立場の異なる登場人物が日常の厳しさに耐えたり諦めたりしながら毎日を過ごしている。共通しているのは経済的な悩み、家族の問題、が解決する手立てもないまま存在し続けるという点である。
人の幸せは物質的な豊かさで計れるものではない。しかし日常を生きることに苦しい状態ではそんなことも言っていられない。懸命に生きるということについて、優しさについて思いを馳せることができた一作である。
投稿元:
レビューを見る
この作者の小説を初めて読んだけど、全体的に面白かった。読みやすかった。
とくに、本日開店、バブルバス、星を見ていた、の3つは好きだった。
生活感のある性描写って、エロス、リアリティ、滑稽、悲哀、いろいろ味わい深さがあって好き。
投稿元:
レビューを見る
何小説か‥‥というジャンルが分からない。
ミステリーじゃないし、恋愛でもないし。
釧路の湿原に建つ寂れた「ホテルローヤル」にまつわるエピソードを描いた連作短編集。
登場人物(特に男)が、大体ひどい。
物語は段々と過去に遡っていく作りで、すこーしだけそれぞれの登場人物が繋がっている。
最初の話の彼女はその後どうなったのだろう。
心の中でひたすら「逃げてー!」と思ってたら、第1話が終わった。
3話で、三号室のベッドだけが乱れていた理由が明かされる。
娘もその後の人生は幸せに生きられたろうか。
ホテルローヤルで“休憩”した夫婦は?
掃除婦は、また元気に仕事に行ったのか……?
最終話の不倫した二人の行く末だけを読者は知っている。
投稿元:
レビューを見る
直木賞。暗い…とおもいながら読み進めて、読み終わったあともなんだかすごく悲しい気分にさせられた。連作短編集で、救いがあるように見える結末でも(ほとんど救いがないけど)良かったねなんてとても安心できない。ずっしりと重い寂しさが残る。
投稿元:
レビューを見る
読了。この本は本当に直木賞の名に値する、良本だと感じた。それ以外に感想が出ない。
人の生き様が本当に細かく書き込まれていて、色濃い、という単語がぴったり。
投稿元:
レビューを見る
切なさにまみれながら読了。
普段何の気なしに使っている「切ない」という言葉が信じられないくらい陳腐に感じる。
また、各章で繋がりを見せるほそーい糸が心地好いスパイスになり、より切なさが強調される。
性別、年代、職業、家族構成…など、様々な境遇の人物が登場し、それぞれが現実味を感じさせるものだから、共感を得る読み手の幅も広いのでは。
切ないのに充足感を、そして切ないからこそ前向きになろうと思わせてくれる素敵な本だった。
投稿元:
レビューを見る
上手い。
人間、男と女、世間と個人、それぞれを飾らない言葉で書き綴ってるいる。心の裡を語っている。
それぞれの短編が時や背景が違うものの、微妙に絡み合っている所が面白い。
味がある文章、味がある作品だ。
投稿元:
レビューを見る
ラブホテルを舞台に7編の短編。
過去に戻っていくっていう、珍しい感じだった。
一気読みしちゃったwおもしろかった〜⭐︎
投稿元:
レビューを見る
先日の釧路出張の際に携行した本。
桜木紫乃『ホテルローヤル』(集英社文庫)読了。
7編の短編のチェーンストーリー。2013年上半期直木賞受賞作。
川本三郎氏が「解説」に書いているように、ラブホテルを舞台に据えていること、金額を具体的に示していることに特徴があります。
川本氏によればラブホテルっていうのは日本にしかないそうです。「客は日が高くても夜を求めてここに来る」場所[「エッチ屋」p.71]。このフレーズ、何度か使われていますがいいえて妙です。秘め事が繰り返される場所を舞台にする、それを女性作家が描く。悪くない。
そして金額の明示。たとえば生活にゆとりがない主婦が法事のために住職に渡そうと思っていた「5,000円」。住職のダブルブッキングで渡しそびれた5,000円を、一家の5日分の食費になる、家族4人で中華料理店に行けばひとり1,200円の定食が食べられる、1ヵ月分の電気代になると表現されます[「バブルバス」pp.99-100]。実にリアル。
『そんなこと、あるかな』と思わないでもない話もあるが、それが小説でしょう。
ラブホテルが舞台ですが淫靡な内容の小説ではなく、話はホテルにかかわる様々な人物の生活のありよう。釧路湿原近くで営業しているホテルにかかわる人間模様が描かれます。視点が面白い。独立した短編ではあってもそこで描かれる人物がどこかでつながっている。読後、井上ひさし『12人の手紙』を思い出しました。
小生が乗車した特急列車は、釧路に近づくにつれ深い霧の中を走りました。
『この近くにホテルローヤルがあったのかな』と車窓から霧を眺めておりました。
投稿元:
レビューを見る
街の外れの高台にあるうらびれたラブホテルの盛衰を舞台に繰り広げられる短編集。ラブホテルを経営する夢を語る男と年の離れた愛人の物語。ラブホテルの清掃婦として一生懸命働き、親孝行な子どもを育ててきたつもりが悲哀を味わうことになる女の物語等。女子高生から60歳の初老女性までどの時代の心理にもピタッと寄り添える筆力はさすがであり、相変わらずのそこはかとない寂しさが全篇に流れている。
投稿元:
レビューを見る
ラブホテルという特異な空間で紡ぎだされる人間模様。時間をさかのぼっていくようなストーリーの構成が面白いです。