紙の本
ニコラス・ブレイクの代表作
2004/08/09 22:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ピエロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
詩人であるC・D・ルイスがニコラス・ブレイクの名で書いたミステリ4作目で(ちなみにミステリを書いたきっかけは、天井の修理代を稼ごうとしたからだとか)、シリーズ探偵ナイジェル・ストレンジウェイズが活躍する本格ミステリ。ブレイクの代表作に挙げられています。
前半は、息子を轢き殺された探偵作家が、犯人を探し出し復讐を誓う様子が日記の形でつづられています。これが迫力に満ちていて、最愛の一人息子を殺された悲しみと絶望感、復讐を夢見ることでどうにか自分を保っている不安定感、復讐に懸ける意気込みが痛いほどに伝わってきます。
犯人の側から犯行を描いた倒叙ミステリのように見えたものが後半は一転、本格的な犯人探しとなります。ミステリを読み慣れた人なら、途中で犯人を当てることは難しいことではないでしょう。かく言う私も「もしかしたら…」と見当をつけた人物が犯人でした。が、決して底が浅いミステリというわけではありません。犯人の人物像と心の動きが丁寧に書き込まれていて、最後まで興味をそがれることなく読み通すことができました。
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これは面白い。「頼子のために」がニコラス・ブレイク風って書いてあったと思ったけどこういうことだったのかと一人納得。最初に愛するものを失った者の日記があるんだけど、その生々しさというか滲み出てくる悲しさなんていうのがとてつもなくうまいと思う。またそのせいで感情移入しちゃって第三章からの仮説が飛び交う展開でこの人は絶対に犯人ではないと思ってしまう。いや、これはうまいね。見事にやられた。脱帽。
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戦地を渡り歩いた通信社の元カメラマンが、翻訳の仕事に身を隠しながら、一匹の野獣となって、管理社会の安穏とした生活に犯罪で挑む姿を描く。
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1938年の作品ということだが、さほど古臭いものではない。ミステリーの代表作のひとつとして、読んでみても損はないと思う。そんなに長くもないし。
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今年度読んだ中で一位。
まず読みやすい。展開が早いのにきちんとついていける
自分の息子が殺された恨みを晴らすために、息子を殺した男に近付く様子を手記形式で残す話で第一章。
第二章は探偵の捜査パートで、第一章の息子を殺した男が本当に死んでしまい、犯人を解き明かすもの。
あの手記によって犯人を第一容疑者から外すやり方が面白い。
最後の犯人と探偵のやりとりが実に気持ち良く、両人が善人であると感じた。被害者がくずすぎるw
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息子をひき逃げされたミステリ作家が復讐を誓い、犯人を捜して追いつめていく。日記形態の倒叙ものとして物語の幕は上がります。
少ない手がかりから犯人像を絞り込んでいき、次第に近づき犯行に及ぶプロセスにスリルあり。一人の人間を犯罪に駆り立ててゆく、細やかな心理描写も巧い。
読み進めていくうちに、これはあの有名作のアレみたいになるのか、それともあの人のアレか、と変なドキドキ感を味わいましたが、そこは一味違いました。
構成が面白い、古典の名作でした。
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訳:永井淳、解説:植草甚一、原書名:THE BEAST MUST DIE(Blake,Nicholas)
フィリクス・レインの日記◆仕組まれた事故◆この死の体より◆罪は顕われたり◆エピローグ
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すごい。
ミステリとしても出色の完成度だけど、文学としても十分鑑賞に値する。
主要テーマは物語中盤、食事時にかわされた会話にあると思う。
そのテーマをめぐるいろんな人のいろんな葛藤、そして最後のあまりに悲しい結末。
だけど結末が絶望的であったがゆえに、そこに残ったわずかな希望がより輝いて見えるような気がする。
読後感は、なんだか映画『トラフィック』を観た後の感じとよく似ていた。
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ナイジェル・ストレンジウェイズ・シリーズ
息子マーティンをひき逃げで殺されたフィリクス・レイン。犯人を探すために接近した女リーナ・ロースン。彼女の義兄ジョージに疑いを持ったレイン。ジョージを殺すために計画を立てるレインの日記。次第にリーナに魅かれていくレイン。家庭の暴君ジョージに辛く当られる妻ヴァイオレット、息子フィル。家を守ろうとするジョージの母親ラタリー老婦人。船に乗せて溺死させようとするレインの計画。計画直前にジョージから日記を弁護士に送ったと告げられ計画を中止したレイン。中止した日にストリキニーネで毒殺されたジョージ。日記に隠された秘密。ナイジェルの捜査。
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主人公の手記から始まる物語。
ひとり息子を轢き逃げされた男が、運転手への復讐を仄めかす。
手記で始まったため、最後まで手記で復讐をいかに遂げるのか、成功したのかしなかったのか、そういったことを綴っていくものだと思っていた。原因があり結果に至るまでを読ませる、よくある形だと思っていたら途中でスタイルが変わる。
復讐する人物が殺されてしまう。
あれれ、ミステリーだったのこれ。
突然グイッと方向転換をされ、戸惑いつつ読んでいく。
最後は誰が殺したかも明らかになり落ち着くところに落ち着く。
こういうのがハードボイルドというのだろうか。
物語の中で結構唐突な感じで“22の質問”が出てくる。
いくつか挙げると
オランダボウフウの味をよくしないためには、甘い言葉がどれだけ必要か?
〈ライオンの保母兼乳母〉とはだれのこと、あるいはなんのことか?
九英傑とはどういう意味か?
……ナンダコレ。
これが事件解決の鍵なのかと読んではみたものの、何言ってるんだかよくわからない質問ばかり。
結局この“22の質問”が物語にどう繋がったのかよくわからないまま終わってしまう。
この“22の質問”に関しては翻訳された永井淳さんもよくわからなかったらしく、巻末に原文と翻訳とを記しておられ、不明とかよくわからないといった考察のようなものが記されている。
翻訳されたかたがわからないことは勿論わたしにもわからないわけで、こっちの方がどんだけミステリーだよとツッコミを入れたくなる。
よくわからないこともあったりだったが、面白いというかこういう作品もあるのかというのが最も感じたこと。
本屋さんでこの本を棚に見つけたとき、『あっ、松田優作さんの映画の原作だ。』と手にとって、全く別の作品と気づいて、ひとりコッソリ笑ったのもいい思い出だ。
それにしてもこの作品のタイトルは江戸川乱歩がつけたらしい。
死ね、じゃなく、死ぬべし。こう表現するところに乱歩の並々ならぬ言葉のセンスの秀逸さを感じる。
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2016/09/23
子供を轢き殺されたパパの復讐物語
手記→事件発生→探偵→解決編な流れ
復讐というか、殺したかった人が死んだという点ではハッピーエンドなのでは?
相手の身になってのパパ推理だけど、ぶっちゃけ見つけられたのは幸運だったと思う。あ、不運なのか?
証拠がないことが後にこんな意味を持つなんて思わなかった。
ハッピーっつったけど、復讐劇なんて悲しみしか産まないわ。
会話や何気ない一言
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男手ひとつで育てていた幼いひとり息子を交通事故で失った探偵小説作家ケアンズは、深い悲しみのなか復讐を誓い立ちあがる。遅々として進まない警察の捜査に業を煮やしたケアンズは、個人でひき逃げ犯の分析と捜索に着手する。偶然も手伝って加害者の目星を付けることに成功し、目標達成のために作家としてのコネも利用しながら犯人への接触を試みるケアンズは、同時に復讐を果たすための構想を練りつつあった。
作品の舞台はイギリス、時代設定は、会話においてナチスドイツの名前が挙がることや、ラジオ放送を通して日本が中国を攻撃するニュースを伝える箇所が存在することから、発表当時の1938年頃と思われます。冒頭で記載した内容が第一部となっており、ひとり息子の復讐を誓ったケアンズが犯行にいたるまでの日々が描かれるのですが、これが日記形式で綴られていることがポイントです。ここまでのストーリーだけであれば犯罪小説として読むこともできるのですが、事件当日を描く第二部で趣きが変わり、第三部のおしどり夫婦である探偵夫妻の登場にともなって、完全に本来の探偵小説としての形式に転調し、この探偵パートと呼ぶべき第三部に続く解決編で完結する全四部の構成となっています。
事前に情報を調べず、犯罪小説を予期していたこともあって、大きくは第一部にあるケアンズの日記形式による記述と、典型的な探偵ものとして描かれる第三部以降という、異なった形式と視点が同居する特徴的な構成には驚かされました。ただし、構成だけの作品というわけではなく、作者の描写からはそれぞれの人物像や情景が自然に伝わり、全体を通して楽しく読むことができました。探偵であるナイジェルが天才型ではないことも、本作については有効に機能していると思えます。また、真相を知ったあとになって、ある有名なミステリ作品を思い出すことになりました。
最後に書名に関して。本来探していた大藪春彦の同名ハードボイルド小説が書店になく、本作が検索機の在庫情報にヒットしたのが読書のきっかけでした。刊行の順序から、大藪氏の小説タイトルは本作から取られたものなのでしょう。激しい印象を受けるタイトルですが、作品のイメージとは違っていました。