紙の本
非常に懇切丁寧に詳細に、仏教の本質を解説。この問答集は、問いが卑俗的なら、答も具体的で解り易い。
2003/06/01 15:37
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
足利尊氏の弟である直義の発する世俗的問いに対し、臨済宗の禅僧である夢窓国師疎石が、様々な仏典を引用したり、具体的事例を示しながら、解答している。非常に懇切丁寧に詳細に、 仏教の本質を解説している。臨時宗の 禅僧による問答というと、公案に対する禅問答が思いだされ、何が何やら解らないことの代名詞の様に思われるが、この問答集は、問いが卑俗的なら、答も具体的で解り易い。それでいて仏教の本質的な部分が、宗門に囚われずに語り明されている。一流の人というのは、必ず平易に具体的に、懇切丁寧に何度も繰り替えし、人を教える偉大な教師である。原始仏典、嘆異抄、正法眼蔵随聞記、等を読むと感じられたことが、ここでも成り立っている。
夢窓国師が示しているのは、直に悟りに向かうのが重要で、方便(悟りに至る方法論、言語による説明)にとらわれて、肝心の仏教の目的を見失うな、という事であろう。悟りの内容を言葉や行動で人に示す事はできないが、手掛かりにはなる。それを本質と見誤らないで、それが指し示す先を会得せよという事であろう。今まで全く解らなかった禅というものが、いくらかわかったような気がする。
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何かを教えられるというより、確認をするような本。
現代語訳もわかりやすいので10代のころにきちんと読むのをお勧めする本ですが、これを読んでも頭でっかちにならないようにするのが大事かと思います。思想のベースではなく、単なる一部として知っていてもいいものかと。
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先日読んだ足利直義の本に関連して読了。
本書は時の幕府執政・足利直義が疑問に感じた仏教(あるいは禅)についての「問」に対し、国師・夢窓疎石が「答」という形式を取り、都合、93の問答により構成されている。
現代語の全訳が付いているのがありがたい。(笑)
解説によると、夢窓疎石は鎌倉時代後半から南北朝時代、室町時代初期にかけて、得宗・北条高時や貞時、後醍醐天皇、足利尊氏・直義兄弟といった、時の権力者たちに篤く敬われ、たびたび教えを乞われていたとのことである。自分の中では、室町幕府の宗教政策に深く関与し、天龍寺の開山や天龍寺船の派遣、それに全国に安国寺・利生塔建設を勧めるなど、政僧のイメージがあったのだが、時の権力者たちの招聘に対し、むしろ修行の妨げになるからと全国を逃げ回り、仕方なく招聘に応じたりしていたそうである。
先に読んだ『足利直義 兄尊氏との対立と理想国家構想』(森茂暁)によると、無条件に帰依していた兄・尊氏に対し、弟・直義は密教系にも理解を示す夢窓疎石について全幅の信頼を置いていたわけではなかったとのことで、そういえば半分くらいは舌鋒鋭い「問」に満ちていたような気もする。
本書の内容だが、直義の発する問いかけは、素朴なものも多いがその鋭さのために時空を超えて現代にも通じるものも多々あって、おのれの欲を振り返させ、それを捨てよ、あるいは貢献せよ、と迫る夢窓疎石の声はとても耳が痛く、身につまされるものでもあった。
一方で、回りくどく寺や僧をもっと厚遇せよと説教する場面もあり、これは可笑しかったのだが(笑)、解説を読むと、そのような俗な事柄からは達観していたようでもあり、ちょっと疎石の立ち位置がわからなくなってしまった部分もある。
直義への解答になっているのかと理解出来なかった問答もいろいろとあったのだが、疎石の「答」は様々な逸話を交えて素人にも分かり易くも語られていて、後に出版物として広く流布される要因になったように思う。
さて、肝心の仏教理論や思想、それに基づく用語の意味などについては全然わかっていないので、か細い理解しかできなかったのであるが、疎石が繰り返し訴えていた大まかな話とすれば、現世は前世の行いの結果に制約される、来世もそうである、こうした転生の苦しみから脱するには「本分の田地」(?)を会得して仏の真実を悟るしかない、本当は全てに仏性は宿っているはず、言葉や書で教えることはできない、「自分」も「他」もない、考えて理解するな、禅は有力な悟りへの道である、とかなんとかこんな感じであろうか・・・。本書でもたびたび繰り返されたが、仏教の教えの凄いというか、ずるいというか、人によって救いへの道を使い分ける「方便」という何でもありの手法があることで、ますます理解が混乱してしまった。(笑)
また、顕・密・禅・念仏などに分立した中世ならではの宗教状況がわかっていないと、多くのそもそもの「問」と「答」の対応関係を理解することは難しいかもしれない。
さて、解説によると夢窓疎石は秀才でありながら、真摯に求道する真面目で周囲からの尊敬に値する高潔な人物であり、時の権力者ともわたりあえ���剛直な人物でもあったようだ。次のエピソードは剛毅で理知的な側面を感じる話であるので、書き添えておくことにする。
師・高峰顕日より印可を受けた際、頂相にもらった賛への言葉を捉えて、「良い息子は親父の財産はもらわない」と言ったところ、師が「それなら自分で何をもうけたのか?」と訊くと、疎石はいきなり師にビンタをくらわしたという。師はからからと笑い、自分の師から受けた法衣をさらに疎石に渡し、伝法の証としたという。
う~ん、禅問答さながらに何て深いんだ。いつか自分も誰かにこの深さを味わってもらいたい。(笑)
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口語訳がわかりやすい。購入を検討中。
この問答集は無窓国師に足利直義がいかに修行をしていくかを質問しているのだが、なかなか鋭い切り込み方で、面白い。
無窓国師の返答も素晴らしい。
時代が変わっても人間の性分は似たような物だとも思う。