紙の本
厨房へと導かれた、努力の人
2008/06/13 22:36
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikimaru - この投稿者のレビュー一覧を見る
長年フランス料理の世界で第一線で活躍しながらも、テレビ番組を通じて家庭向けの洋食を広めることにも貢献した著者。この本は、日本経済新聞の紙上に各界有名人が1ヶ月で集中連載する「私の履歴書」に基づくものであり、大幅な加筆の上で出版されたものだそうだ。
関東大震災の当時2歳であったため実際の記憶はないようだが、被災しなければ著者の父もまた洋食の店を持っていたとのこと。
店の再建よりも、親戚のつてで借地に家を建てアパート業をはじめた一家は数年のあいだ裕福な暮らしをし、著者は界隈では大家のところの悪ガキとして知られた存在だった。その状況もまた恐慌で一変し、著者は小学校卒業を待たずに(卒業式には出たが出席が足りないなどの事情で証書をもらえず)、珈琲ショップで菓子づくりの下働きをはじめた。
その後、その店の調理場を経て、紹介状なしでは応募すらできなかった帝国ホテルの厨房を目指すが、道のりは長いものと思われた。チャンスを待つ人が多いのに退職者は少なく、欠員募集自体がほとんどなかったためだ。だが帝国ホテルに呼ばれるまでのあいだをつなぐつもりだった修業先の店が、同ホテルに買収されるという好機が訪れる。
そして従軍や負傷、自分が間に合わなかったために代わって船に乗った仲間の死、シベリア抑留を経て著者は日本にもどる。いつかは帝国ホテルの厨房にもどりたいと思いながら職探しをしていると、おどろくほど順調に、約二ヶ月で再就職をすることができた。
苦労話も出るには出てくるが、晩年になってから人生をふり返るとき、人はそういったことを大げさには書かないものなのだろう。うっかりすると何もかも順風満帆であったかのような、軽い読み物を読んでいるような錯覚をおぼえる。
ソースの味を学びたくても、鍋を洗う人間(下っ端)には、水と塩(もしくは洗剤)などを入れた状態で鍋を突き出す先輩がほとんどだった。ようやく努力が認められたころ、底に少しソースの残った鍋が無言で渡された。そして出征を前に、何人かの先輩たちがレシピを伝授してくれた。伝授された料理人のうち何割もが帰らぬ人となったが、著者は生還し、厨房にもどってくることができた。
多くの運命が複雑に絡みあった時代の編み目にからめとられることなく、著者は料理の生涯を生きぬいた。戦争がなければ、同じように料理人生を送れるはずだった人たちもいたことだろう。けして自分だけが秀でていたなどとは書かず、正直に過去をつづっていくところに、人柄を感じる。
スウェーデンの料理「スモーガスボード」を帝国ホテルで「バイキング料理」としてスタートさせたこと(ネーミングは社内公募)や、東京オリンピックの選手村で料理の指揮をとるなどの活躍は、よく知られている。
晩年は一料理人として小さな店を持つ計画もあったそうだが、ホテルに顧問としてとどまり、店の計画は人にゆずったのだそうだ。最後まで料理一筋の人だった。
電子書籍
フレンチの父
2017/05/26 12:20
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:こぶーふ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本のフランス料理界のパイオニア、村上さんの自叙伝です。コックから帝国ホテルの常務までの生き様が非常に興味深いです。ベースは日経の私の履歴書ですが、掲載されていた時も、毎日日経を買って楽しみに読んでました。普通のサラリーマンにも参考になることがたくさん書いてあります。
投稿元:
レビューを見る
食べること、料理を作ることが大好きだった。だから一生懸命努力した。単純なことだけど、それをここまで成し遂げられる人って、そういるもんじゃないと思う。
投稿元:
レビューを見る
元帝国ホテル総料理長だったムッシュ村上さんによる自身の履歴を綴った一冊。
例えつまらない仕事でも与えられた仕事を黙々とこなしたり、
留学のチャンスがきたら逃さず即、決断!
そして、外国人とのコミュニケーション方など学ぶべきところは非常に多いです。
投稿元:
レビューを見る
帝国ホテル料理顧問、村上 信夫氏の半生を描いた良書。幼少時代での料理との出会いや、戦中での意外(?)なエピソードなど、中々歴史を垣間見て楽しめました。
投稿元:
レビューを見る
覚えてる度:★★★★☆
日経「私の履歴書」シリーズ。
帝国ホテルの料理長を務めた村上信夫氏の自伝。
料理人というと職人や特殊といったイメージがあったが、
実際に本を読んでみるとタメになる話がたくさんある。
特に印象的なエピソードは、見習い時代の鍋洗い。
今はそんなことないと思うけど、戦前のコックは個人の実力主義が当たり前で、
自分の味を下の者に盗まれないよう、鍋を洗うときは洗剤をぶちまけたりしてから渡したらしい。
そこで村上氏は・・・続きは本でどうぞ。
料理に興味がある人もない人も、読んでみて損はしないです。
投稿元:
レビューを見る
こういう本は。ボクにとって有無を言わさず五つ星となる。お金もなく両親も亡くし12才の少年は料理の道に入る。帝国ホテル取締役総料理長。60年余に渡り帝国ホテルの味を守った男。バイキング発案者。人に優しく自分に厳しく真心を込めて。戦場のカレーライスはどんなに兵士たちの腹と心を満たしてくれたことだろう。何かひとつに人生を賭けるってほんとうに輝いてる
投稿元:
レビューを見る
以前から読みたいと思っていた、帝国ホテルの料理長の自叙伝。13歳で働かざるを得なかったこと、戦中戦後、シベリアでの生活等大変なことがたくさんあったはずなのに話に暗さがないのは、とても前向きに生きてきた人だからなのだろう。
投稿元:
レビューを見る
日経新聞「私の履歴書」を基にした一冊。帝国ホテルの名料理長の生涯を綴った一冊だが、フランス料理が格式高い時代から一般的なもん者になっていくまでの時代を描いているので実に面白い。この人自身がどうこうというよりその時代の移り変わりとどういうことが起きてきたか、であったり、帝国ホテルの舞台裏みたいな話がすごい。芸能人が住んでいるとか、皇族の扱いとか…我々にはうかがい知れない世界が潜んでいるということですな。
投稿元:
レビューを見る
もう少し色々深いところまで書いてくれれば良かったのにな,という物足りなさが少しあるものの,おもしろかったです.ちゃんとしたフランス料理食べに行きたいな.
投稿元:
レビューを見る
あぁ、フランス料理が食べたい。村上さんの料理食べてみたかったなぁ。
オテル・ドゥ・ミクニに行きたい、、、。
投稿元:
レビューを見る
帝国ホテルの総料理長を務めた村上さんの日経新聞「私の履歴書」を
元にした書籍。
仕事に対する熱意がすごい。前のめりに、できることを考えて
真綿のように吸収していく。
随所に「楽しくて、充実していて疲れている暇が無かった」という記述が
あります。
そういう人は、どんな種類の仕事でも伸びていくし、周りもかなわない
存在になる。
その原動力はやはり「夢」なのか。本人は「欲」といった記述を
していましたけど。
「これをしたい」という熱意を持つことが、人生において大きな差になるなと
改めて思わされることになった一冊。
「38年間、帰宅してから1日1時間、料理の勉強を欠かさない」とあった中、
それを読んだ私が何ができるのか。何をするべきか。
考えたいと思います。
また、東京オリンピックについても書かれていました。
東京オリンピックの食事のために、日本の有名ホテルから選抜された
メンバーで食事を作るくだりを見ると、2020年に東京にオリンピックが
来ると、各産業で、またこういった一大的な集団が作られ、国として、
成果を残すことが出来るのだなぁと、スポーツにとどまらないオリンピックの
影響力についても改めて考えました。
投稿元:
レビューを見る
苦労も努力も人一倍しているのに、一切そう言わない。ひけらかしたり、自慢などしない。
ただ、笑顔で精一杯生きていた。
ムッシュすごい。
投稿元:
レビューを見る
☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB04387195
投稿元:
レビューを見る
エリザベス女王が来た際、スタッフの方に
英王室紋章入りの財布をくれたらしい
「中に入れるお金は社長さんにもらってください」
チャーミングな話だ。
お酒を誘う、有名人。断ると、では終わったら、バーにでも寄ってと、ジンフィズ2杯分の支払いを済ませておいてくれていた