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主人公は、訳あって単身アメリカに送られたカール・ロスマンというドイツ人少年。ロスマンが新天地アメリカで波乱万丈の人生を歩き始める物語である。カフカの長編のうちで最もストーリーらしいストーリーを展開する。とはいえ、紋切り型のサクセスストーリーでは勿論ない。ロスマンの新生活は、不合理だが支離滅裂でもない出来事――いわば無合理な出来事――の連鎖に翻弄されつづける。翻弄されながらも、それを必要以上に悲観せずに健気に受け止めるロスマンのキャラクターが魅力的である。そして当然のように未完。
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カフカにしては軽妙でわかりやすい描写と明るい展開で物語が進んでいく
他と毛色が違いすぎる感があるからはっきりと言い切れないがカフカがカフカの文章力を越えたような仕上がり
筋に乗せられてわくわくしちゃうんだけど「オクラホマ劇場」の不穏な桃源郷的設定と、「ニーガー」という偽名で潜んでいた孤独に気付かされる
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これ好きだね~。
これも題名でビビッときたね。
ライ麦畑に似てるけど、こっちのほうが好きかな。
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カフカの孤独3部作のひとつ。異邦人・孤立がテーマ。美少年、賢く、人がよい、魅力的少年カール。人を惹きつけながらも何故か運命は彼を「孤立」させ「放浪」させる。読み手も、彼に惹きつけられるが、同化はできず、なんとなく寂しい。にもかかわらず、読み味は明るい。カフカ・ワールド・オブ・ワールド!
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フランツ・カフカは、127年前の1883年7月3日にオーストリア=ハンガリー帝国(現在のチェコ)のプラハに生まれて、86年前の1924年6月3日に40歳で亡くなった小説家。
ところで、フランツ・ファノンじゃなかったフランツ・カフカって、どこかエリック・サティに似ているとお思いになりませんか?
抽象する無機質なランドスケープといい、現代に生きる私たちの孤立感や閉塞情況の感嘆・強調といい、言い知れぬ不安と孤独感の恍惚的描写といい、未知なる隣人と時空を超えた憧憬の祝祭的喝采などなど、ほとんど何を言っているのか自分でも意味不明ですが、ほぼおおむね、だいたいそんなふうな感じですが、ただ表現方法が小説と音楽という違いだけで、ほとんど志向していたものは一緒のような気がしてなりません。
まあこれも、私の場合、読書の最中に音楽を聞くことが多いのですが、たまたま中2の時にいっとう最初にカフカを読んだ場所が音楽室で、それは『変身』でしたが、そのとき流れていたのがショパンとサティだったのですが、何故かサティの方がしっくりする感じがしたものです。それからというもの、カフカを読むときは必ずサティです。
あっと、思わずうっかり、肝心の『アメリカ』について書きそびれてしまいましたが、ここで突然ですが、ちょっと考えて思い巡らしてみていただけますか、もしあなたが16歳のカール・ロスマンという男の子だとします、それであなたは女中の誘惑にまんまと引っ掛かって、子供を産ませるようなことをしてしまうのです。
両親は勘当同然の決意で、あなたをアメリカに追放してしまいます。追われて行った先のニューヨークの伯父さんからも追っ払われて、さあ大変、あなたは放浪の旅に出るはめになります。
ヨーロッパ人にとっては、よその国というよりまったく見知らぬ異世界へ放り投げられたあなたは、さて、これからいったいどうすれば・・・・・。
渦巻く不安と恐怖との背中合わせではありますが、そこは好奇心旺盛な16歳の男の子のあなたのこと、悪に染まり危険な目に逢い、それはもうハラハラどきどきの冒険がはじまるのを、わが身のことのように体読(体験・読書)できる物語なのであります。
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喜劇的な要素をふんだんに含み、現実的なストーリーで、一見カフカっぽくない作品でした。
しかし、無経験な十六歳の少年が、異国の地アメリカで戸惑い、つまづきながらも必死で生活を確立させようとする姿は、現代の混沌とした社会で自身を確立しなければならない私たちの苦悩と共鳴します。
学生時代にこの作品を読むと、さらに深く感銘を受けることができたかもしれません。
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話は両親によって本国から追い出されたカール・ロスマン氏の新天地アメリカ放浪記ですが、ロスマンはトラブルを起こして次々に新たな目的地を目指します。第一章の火夫が短篇集にも収録されていることから分る通り、それぞれの章が自己完結しているので、分量の割には長さを感じさせない構成になっています。未完のせいもあって、最後の第八章がちょっと浮いてる感じもしますが、却って未来への出発っぽくてフィットしています。カフカの作品にしては、比較的ポジティブだと思いました。
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カタチやイレモノはカフカの「文法」そのものなのですが、色調が他の作品とはちょっと違う。比較的明るめじゃないかな。冒険小説的な。未完の三部作、これを最後に読んだのは良かったのかも。
また、未完の著作とされていますが、私にはそうでもないように感じられました。こういう終わり方もアリだなあ。結論に重きを置く人には不満ですかね。
「主人公がふいに日常から切り離された世界に投げ込まれ、そこでの存在をどうにかこうにか保とうと画策していく」のが彼の織り成す世界構造だという認識です。日常に生きる私や私たちに示唆を与えてくれます、読み方によっては。そのあたりは、読み手の、受け取り方の自由だね。
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賢い美少年カールは、年増の召使を孕ませ親に追い出される。
そこから彼は、不条理の道を歩み続ける。
大国アメリカへ到着した船上でのやりとり、自分の大切なスーツケースを他人に預けたまま、他人の厄介事に首を出す。
彼の自信は若さに由来するものだろうか。
ごったがえす人の波、赤の他人の問題に巻き込まれ、この先の混乱した道を予想させる。
お偉い伯父に預けられるが、途中で厄介払いされる。
10代半ばの少年が、大国アメリカに放り出されたわけだ。
その理由は読者にも提示されない。
この先の物語も、不条理と茨の道が続く。
この少年は、孤独を感じる間もなく、生きるのに必死なように描かれている。そんなわけはないはずだが、それはこの物語を明るく感じるからだ。
途中の章が抜けているのだろう。突然始まり終わる第8章は、もっとも希望に満ち、もっとも先行きの不安に満ちた場面だった。
「身分証明書」を持たない彼は、この先どうなることだろう。
自分は自分であることを、1枚のカードが証明するわけだが、
本来、自分を証明するのは他ならぬ自分自身である。
アメリカという未知で広大な国にポンと放り込まれた少年は、
この先どのような大人になるのか、最近読んだ物語の中では、
一番想像力を掻き立てられるものであった。
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カフカを読むとどうにも気持ちが重暗くなってしまう。こういう不条理を客観的に読むにはそれなりの素質が必要な気がする。自分が経験しているような辛さがある。この作品は比較的明るいのだけど、そのぶん不条理な出来事の落差が激しい。
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審判、城に続く、孤独三部作。
審判や城では、手探りで何も見えない大きな機構や仕組みに取り残された、閉鎖空間に閉じ込められた叫びが感じられた。その一方で、このアメリカは、そういうところから離れてどこかのびのびとしているような気がする。
どちらかと言えば、偶然に偶然が重なって、システムの中を漂流し続けなければならない、そういった類のものであると感じられる。行く先々で、システムに溶けこもうとするも、ちょっとした縺れからすぐに異分子として爪はじきにされてしまう。どこまでいっても、この広大なアメリカという土地では、カールは異邦人でしかない。
転々としていくだけでは、おそらく書いていて辿りつく場所が見えなかったのだと思う。漂流に漂流を重ねても、カールがカールであることに変わりはないし、いくらでも漂流先を変えることで、引き延ばすことができる。おそらく、船や叔父の家、ホテルや奇妙な共同生活だけでなく、カフカの中には、徒弟や政治家秘書といった、多くの漂流先が用意されていたに違いない。漂流なんて、ちょっとしたことがきっかけで決まるし、行った先のことは行った時に考えればいいだろうから、わざといくつかのスケッチを残しただけで筆を置いたのだろう。
この作品では、漂流というものがある種、独特の不条理さを生んでいる。漂流先が決まるのも、漂流が決まるのも、偏にカールの望んだものではない。ヘッセのの漂泊の旅は、基本的にしたくてしているものだが、このカールの漂流は、望んだわけでも、望まれたわけでもない。ちょっとした行き違いや誤解、そういうものによって転がり落ちていくような、そんな感じ。しかも、シェイクスピアのように強い思惑があってのズレではなく、ほんの些細なズレによるところが大きい。何気ない行動のひとつがいとも簡単に、漂流の種となってしまうのだ。びっしりと描かれたカールの行動のいきさつや様相も、簡単に、数行の出来事の後には、漂流へとなってしまっている。その緩急の使い分けが、閉鎖空間にあっても冗長さを感じさせないのかもしれない。漂流するとは、追放されることだが、追放されても、いつまでもふらふらしてるわけではなく、辿りつく先は、これまた意図せずちょっとしたことで決まってしまう。「たまたま」、そういうことばが最もよく似合うのが、カールの漂流であると思う。
終盤のサーカスの場面は、明らかに審判や城の様相を呈している。やはり、カフカにとって、未知なる閉鎖空間というテーマは外せなかったものなのだろう。残念ながら、閉鎖空間の最初の部分だけでその不可解さや複雑で不条理なものはわずかしか描かれていない。けれど、わずか数十ページで城や審判同様の設定を敷いているあたり、スケッチや思考実験としての機能をこの作品は果たしていたのかもしれない。
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カフカの「孤独の3部作」最後の作品である。
ドイツから追い出された純朴な青年が、アメリカを放浪するロマン小説。落ち着く先が見つかっても、不条理に追い出され続ける青年。しかし、それでも青年は希望を捨てなかった。
青年が未知の土地を冒険する小説はいくらでもあるだろうが、この作品は異質だ。未完なのである。しかし、未完という事実が読者の想像力を豊かにし、本作が名作であることを確固たるものにしている。