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家族、主に親子関係を軸にした短編を、6つ揃えた作品集。
短編集というと、さほど構えることもなく読み始めることが多い。裏を返せばそれは、長編に取りかかるときのような大きな期待に欠けるということ。
でも、この作品はいい意味で裏切られた。
生き別れや死別、虐待など、何かが大きく欠落した親子関係が、主として描かれている。ストーリーに派手さはないけれど、その分じわじわと静かに浸透してきて、心の奥底に大きな波紋を広げていく。気がつけば、何度も涙がこぼれていた。
とくに最後の「成人式」は、途中まではちょっと無理があるんじゃないと思っていたけれど、式の当日の出来事が胸を打つ。
作者のおふざけモード全開の作品も好きだが、本作のように心の傷に目を向けて、それを癒していくような大人の穏やかな作品もいい。
作者とともに自分も年を重ねていることを、改めて感じた。
追記 直木賞受賞、おめでとうございます! デビュー作から全作品を追いかけている身にとっては、あれまだ取っていなかったんだっけ、という感じ。よかった!
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どれも切ない短編6編。
それぞれに味があるけれど、多くを語らない『海の見える理髪店』や、なんだかやっぱりなの『時のない時計』が好み。
時計屋のおじさんはいらないことまでしゃべるのだけれど、それがかえって父のことをわからせてくれるんだよなぁ。
語るも語らないもアリかぁ。
こうやってみると、あたしは父との関係を描いた作品が好みということらしい。父親好きだしね〜。
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#読了。短編集、6編。
親子間、夫婦など、家族の繋がりをを切なさを盛り込みながら描く。表題作「海の見える理髪店」。高齢な床屋の主人が、ずっと話をしながらお客の紙を切る。多くを語るのだが、多くは語らないところに切なさが・・・
胸がスカッとするようなハッピーエンドではなく、どちらかというと荻原さん得意の最後にほろりの話。最終話の「成人式」。いくらなんでもそこまでは・・・と思いつつ読み進めると、最後の最後が泣けてくる。
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主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめた伝説の床屋。ある事情からその店に最初で最後の予約を入れた僕と店主との特別な時間が始まる「海の見える理髪店」。
意識を押しつける画家の母から必死に逃れて十六年。理由あって懐かしい町に帰った私と母との思いもよらない再会を描く「いつか来た道」。
仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発。子連れで実家に帰った祥子のもとに、その晩から不思議なメールが届き始める「遠くから来た手紙」。
親の離婚で母の実家に連れられてきた茜は、家出をして海を目指す「空は今日もスカイ」。
父の形見を修理するために足を運んだ時計屋で、忘れていた父との思い出の断片が次々によみがえる「時のない時計」。
数年前に中学生の娘が急逝。悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた夫婦が娘に代わり、成人式に替え玉出席しようと奮闘する「成人式」。
人生の可笑しさと切なさが沁みる、大人のための“泣ける"短編集。
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表題作「海の見える理髪店」の
床屋さんの描写が秀逸で
子供のころに行っていた床屋さんを
思いだし、その匂いまでしてくるような
錯覚を覚えるほどのものでした。
内容もコンパクトに床屋のじいさんの
人生をちりばめラストには切ない余韻を残しました。
他の5編もそれぞれ面白く
個人的には「空は今日もスカイ」と
「成人式」がよかったかな。
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久しぶりに読んだ感のある荻原節。そうだ、こういう文章を書く人だったな、と思っていたら、結構前の作品を集めたものになってました。
どれが、と選ぶのは難しいけれど、やっぱり表題作に1票。
2015/5/23読了
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家族をテーマにした短編集。どの物語もしんみりとして、そのあとほっこりさせられる印象です。一番身近でありながら何もかもを理解できるとは限らない「家族」がテーマなだけに、きっと誰にでも少しは思い当たる節があったりしそうです。
お気に入りは「時のない時計」。時計ってなんだか好きなので、ここに登場する時計店がとても魅力的です。少し悲しい物語も印象的。
そしてラストの「成人式」。これだ最後ってのがいいよねえ。幸せ満開の物語ではないのだけれど、ほのぼのと面白くって楽しい雰囲気にさせられました。
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親子、夫婦。
家族をテーマにした短編集。
どれも読みやすく、後味は悪くない。
ただちょっと冗長。
この作品では店主が話さないと始まらない(笑)が、
個人的に理髪店の店主は寡黙な方が好き。
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直木賞を受賞した短編集。
「ひとつ大きな悲しみを乗り越えた人間たちの穏やかさ」
「人間としての大きさ・深さ」
がテーマとして裏に一本通っている。
著者の人柄なのか文章はとても穏やかで角立つところは全くない。
そのため、読後感は爽快。
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父親と息子、母親と娘など家族をテーマにした短編作。色々な形の家族があります。当時許さなかった気持ちや感情や環境は年を重ねる度に変化をしていきます。この作品を読み終え、何故かふと自分自身が幼かった頃、親や親戚、兄妹に対するエピソードを良い事、悪い事をひっくるめて思い出し、じんわりと心に沁み込む一冊となりました。
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短編集。
じんわり、涙が出るような
お話たち。
失ったものを、ゆっくり取り戻す人たち。
何かを失う、得る、
私はこれから、何をつかんで、何を手放すのかな。
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「成人式」は設定があり得ないと思いつつも、心に響きました。あとの作品も悪くはないけれど、それほど響かなかったかなぁ。
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6編の短編集。どれも趣が違う家族の在り方いろいろ。表題作は場所も分からない、知る人ぞ知る理髪店の話だが、店主がお客を相手に自分の今までの半生をおだやかに語る。店主の「仕事っていうのは、つまるところ、人の気持ちを考えることではないか」という言葉が胸に響く。2度目の来店では、どんな話を聞かせてくれるのだろう。「成人式」という短編にはホロリ。もう年を重ねる事の無い娘のために、両親がその子の代わりに振袖と袴を着て成人式に出席する。彼らの心の中で何かしらの一区切りが欲しかったのではないだろうか。これが親の愛の形。
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家族をテーマにした ちょっと切ない6つの短編集。
結末が想像できるものや 突拍子もない展開のものもあり ん?ん?ん?って感じでした。
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選考結果がどうなるかこれを書いている時点では分かりませんが、私の心の第155回直木賞は本短編集になりました。
全6編、いずれの作品も家族の繋がりについて描かれていますが、表題作「海の見える理髪店」をはじめ、「時のない時計」「成人式」では愛する人との死や別れが物語の中で効果的に挿入されており、割と先が読めてしまう展開であるにもかかわらず非常に胸に迫ってくるものがありました。それ以外の3作は平均レベルの作品ですが、前述の3作がお釣りがくる程の出来栄えであり、総合的な読後感としては非常に満足度が高かったです。
本を閉じたとき、多くの読者が家族や大切な人に対する思いをいま一度巡らすに違いない秀作だと思います。おすすめです。