紙の本
受け継がれる少女小説
2016/12/06 22:53
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:休暇旅行 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦時下、三人の少女の手を渡るリレー小説を中心に据えた、ヤングアダルト向けのミステリです。
女学校でひそかに手渡されていく何か、というイメージが魅力的です。その中身はみんな知らなくて、でもうつくしく危険な、そして生きていくために不可欠なものだ(自分など一部の人にとっては、といううぬぼれもふくみつつ)ということはみんな知っているから、どうにかして受け継がれていく。
作中に絵や小説への言及が多く、付録として作品のうしろに作中に登場した絵のギャラリーまでつけているあたり、作者自身もまた読者へと何かを手渡そうとしているように感じてしまいます。あえて語り手の女の子を、上述のイメージから離れた地に足のついた女の子にしたことにも、本気で届けようとする意志を見てしまう。読者への思いを感じる小説でした。
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皆川博子が第二次大戦末期の女学校を舞台に織り成す、当時を知るものみによって成し得るリアリティと極上の幻惑の世界。
三人の少女たちが書いたリレー小説の形式をとった物語。
小説を書くに至った経緯を綴った手記と現実が交錯し、世にも美しく残酷な入れ子細工が出来上がる。
儚くも残酷な少女たちに酔い、地に足をつけた心身ともに健康的なべー様にホっとする。
惜しむらくは、私が作中の少女たちと同じ頃にこの本が存在しなかったことだ。
少女たちに、少女の頃に戻りたい人たちに読んで欲しい一冊。
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合う人は耽溺、合わない人は少女趣味、と一笑に付す、という感じであろうか?
驚くべきことに、この小説を書いたのは1930年生まれの方、単行本出版当時77歳である。
確かに、これほど克明に敗戦直後の少女たちの心に渦巻いた理不尽な世界と隔絶された心理を描くのは、実際に当時少女であった人でないと不可能であったでしょう。
なによりその当時の心理を老いてなお抱き続ける皆川博子というひとには脱帽する他ない。
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薔薇色の頬の頃をなんとなく思い出した。
結局の所、設楽久仁子が一番強いね。いろんな意味で。復興していく日本人って感じに。
表紙の雰囲気からもっと耽美な世界観かと思いきやそこまでではなかったたみたい。
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残酷なまでに好悪がはっきりしていてある意味潔癖なのが少女。
http://feelingbooks.blog56.fc2.com/blog-entry-801.html
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書籍として読みにくい…字体を変えるのは慣れたが、挿絵の入れ方がどうにも好きになれない。ストーリーとしてはとても面白く、少女の危うさと、大人への嫌悪感を綴ってある。途中途中で小説や絵画が登場するが、その説明がわかりやすく興味を持たせた。良い小説だったと思う。
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私にとってはミステリ、と言うよりは少女たちの物語と言う感じで読んでしまった。
現実と創作が入り混じりつつ、女の子特有の潔癖さと言うか、感情の触れ合いや動きが堪らない感じ。独特な雰囲気。
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少女の毒と甘味が合わさる、なにやらやたらと頭を使う物語。
表紙に惹かれて買ったのだけど、昭和初期の香り、毒を秘める少女たち、リレー小説、しをんさんの解説(笑)と好きなものが溢れていました。
個人的には、設楽久仁子に感情移入して読んでいました。なので、憧れのお姉さまたちが久仁子を誤解したまま殺されたのは悔しいです。
ただ、時系列が行ったり来たり。その上主人公はノートを順番通り読んでくれないので頭を使います。
あと、なぜかチョコレートと何度か出てくるので、糖分補給を兼ねて板チョコを一枚手元に置いておくことをおすすめします
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初の皆川作品。
戦争中を生きる女学生たちが主人公のミステリー。当時の女学生の生活、内面の不安定さが作品に漂っていて、あまりこういう設定のものを読んだことがなかった自分としては新鮮でした。
構成も凝っています。
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素敵すぎる!
戦中の女学生もの。
甘くて、美しくて、でもしたたかな女学生の
連作小説風小説でした。
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う〜ん面白い。
戦時中の話ながら、ドストィエフスキーだのエゴン・シーレだのハイカラなんです。でも「チッキ」てのが分かんなくて調べたら、鉄道小荷物のことなんですね。宅急便世代なので知らなかった。しかしヤマトの宅急便が始まったのが昭和51年とな。そんな昔の話じゃないよね。なのにすっかり消え失せている。そのことになんだか不思議な感じがした。
理論社YA!色んな版元に拾われて良かったな。
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これはまた毒のある美しさですね。
少女達の甘やかで退廃的な世界に魅了されたのか、
それとも皆川さんの筆力のせいか…すっかり引き込まれてしまいました。
舞台は太平洋戦争末期の女学校。
少し特殊な背景なのですが、しっかりとミステリとして成り立っている所が凄い。
「倒立する塔の殺人」と名づけられた一冊のノートを中心に、
ある少女の死、隠された過去の出来事がじわじわと明らかになります。
一種独特の世界観なので読む人を選ぶと思いますが、一読の価値ありです。
ますます皆川さんのファンになりました!
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「語り」自体に仕掛けがあるらしい……
という情報だけ仕入れて読んだ。
太平洋戦争末期の女学生たちの愛憎劇で、
複数の人物の手稿が連続するノートを読み進める、
という形で進行する物語。
誰が犯人で誰が被害者か、
そして、どこからどこまでが話中話なのか、
さして長くない小説だが、
気づかないうちに落とし穴に嵌まっているかもしれないと
疑心を抱きつつ、目を皿のようにして読み進めた。
結果……罠に掛からなかったのが嬉しいような、
逆にちょっと損したような、変な気分になった(笑)が、
文句なしに面白かった。
叙述ミステリ入門編として、
こういうジャンルに興味を持ち始めた方に、お薦めしたい。
騙されるのも一興です。
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皆川作品を何冊読んでも
いつも、違和感が残る。
言葉の選び方やシチュエーションの
勿体なさを歯痒く思う。
多分、ツボから微妙にずれてるんだな。
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戦中戦後のミッションスクールで、小説の回し書きされたノートが図書館におかれていた。
小説のタイトルは「倒立する塔の殺人」
一人の少女の死によって、物語は思わぬ展開を見せ始める。
中学高校にかけての女子ってそれはないだろうというぐらい残酷なんだよね。
っていうのを淡々と見せつけられる。
回し書きの小説の書き手が変わるように、主観もかわっていくのだが、これが相手に対して容赦がない。赤裸々とか、率直とかと、言えるのかもしれないけれど、やはり必要以上に残酷なのだ。
ま、この残酷さが、物語の根底にあり、それ故で、それが全てでもあったんだけどね。
そんな残酷さを持ちながらも、少女たちは夢見ることがやめられない。
残酷な現実と、夢想と、そのはざまで揺れ続けるしかなかった、そんな時代の少女たちの悲劇であるのかもしれない。