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東日本大震災時の福島第一原発所長だった方をモデルとした、ノンフィクションに近い小説。
上巻は主人公が原発の可能性に魅力を感じ、電力会社に就職し原発の担当となる。しかし自然災害や人為的なミスにより、様々なひやりとさせられる事件や、社会の裏事情に接する。まぁこんなことは社会に出てみると、どんな会社でもありがちな話だ。
下巻に入りいよいよ3.11に遭遇する。それこそ対応を誤れば、東日本一帯を数十年にわたり人が住めない場所にしてしまう大事故の責任者として、不眠不休の努力をされて、(汚染水の大問題はあるが)壊滅的な事態を防ぐ顛末がリアルに書かれており、興味深く読むことが出来た。
確かに所長は奮闘しただろう。だがそうはいっても(小説の中のこととはいえ)電力会社がGEの原発を建設するにあたり、竜巻被害を想定し非常用電源を地下に設置したアメリカ仕様の原発を、津波被害を過小評価した挙句そのまま建設した愚や、原発を管理する通産省等の形式要件だけをチェックし自己満足で終わるお役所仕事等々の大罪が、終息不可能なこの被害をもたらしていることに戦慄を覚えるのである。
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元・東京電力(株)福島第一原子力発電所所長の、
故・吉田昌郎さんを、主人公(モデル)にした、
ノン?フィクションの社会派大河小説です…。
あえて、他作品と類似比較をしてみるならば…、
山崎豊子さんの『沈まぬ太陽』があるでそぅか?
両作品とも、舞台は、親方日の丸企業ですし…。
序は、小学校~大学院までの学生時代、
破は、東京電力への就職~中堅社員時代、
急は、東日本大震災の事故対応、となります…。
例えば、前述の『沈まぬ太陽』と比べてみると、
登場人物もエピソードも、深掘りされておらず、
終盤においても、も一つ緊迫感が感じられず…。
特に…、吉田さんの功罪の描き方が中途半端で、
本作品に込められたメッセージが、いまいち…?
題材のわりに、テーマ性に劣る内容だったかな?
むしろ、
原子力発電の、黎明期~衰退期(事故)までを、
ガッツリと描いてくれた方が、よかったかも…。
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色即是空。
親より早死にという結果に。
作品全体としては、作者の取材力に感服。が第一。
当たり前だとは思うものの、地震津波のことばかり出てくることには、少し違和感があった。
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下巻では原発事故が中心となります。現場の凄まじさも印象的ですが、日本のための夢の原子力エネルギーだったのに、という登場人物の言葉が心に残りました。
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福島原発のあの名所長をモデルにしたフィクション。フィクションとは言え、福島原発トラブルに関するストーリーはほぼノンフィクションと読んでも間違いはないように思います。やはり今回の事故は100%人災であり、正しく設計され建造され運用されれば原発ほどクリーンな発電所はないという思いが強まりました。
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2016.09.19
吉田所長のお話。我が社の名前も出てるし、評価もされていると思っていたが、この方の働きに比べたら、そして部下達の勇敢さに比べたら、とてもとても表立って話せるものではないと思った。
送る会にも、お墓にも、自宅にもお邪魔させて戴いたが、ただ頭が下がる思いでいっぱいである。国家の危機を乗り越え、日本の為に死を賭して1Fを守った吉田所長に再度感謝を伝えたい。
合掌。
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東日本大震災の際、福島第一原発所長だった故・吉田昌郎をモデルにした作品。
生い立ちから始まり、東京工業大学、東京電力、東日本大震災、そして亡くなるまでの生涯を描く。一応フィクションとなってはいるが、すぐに思い浮かぶ官僚や政治家も多数登場し、ほぼノンフィクション。
前半部分は、人となりを紹介するような形で進み、下巻途中より震災事故の話となる。原発を食い物にする政治家や企業、またそれらを取り巻くムラ社会の恐ろしさも描かれている。3.11の事態の推移は圧倒的な臨場感や緊張感に溢れ、内部の極限状態の様子が伝わってくる。事故の後、ガンにより入院していた彼を両親が見舞いに来たシーンは泣けてきた。
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震災の当時、福島第一原発の所長だった東電の吉田昌郎所長を題材にした書籍。生い立ちから3.11、そして亡くなるまでを書く。
原発に関連する専門用語が多いが物語をより臨場感溢れるものにしてくれる。事実に忠実に執筆することを可能とする取材力は圧巻。
あの日原発では何が起きていたかをリアルに書いた作品。
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過日「フクシマ・フィフティ」という映画を観たこともあり、福島第一原発の吉田所長をモデルにした小説を手に取ってみた。「沈まぬ太陽」のような描き方かな。普段読まないジャンルだけどなかなか興味深かった。
この小説では奥羽第一原発の富士祥夫の生涯が、原発と電力会社でのサラリーマン人生を軸に描かれている。いわゆる3.11の大地震が起きるのは下巻なので、上巻は富士の人格や電力会社内の人間関係・政治との癒着・隠蔽問題などを丁寧に描いている感じ。フィクションとはいえ、これだけの虚偽報告や癒着がまかり通っていたのか…と愕然とさせられる。そして、常に故障や誤作動といった危険と隣り合わせであっても、どこかコントロールできているとのんびりした空気感が存在していて、実際にそうだったんだろうなと思わせるじんわりとした怖さがあった。世の中の色々な仕組みが、こういう紙一重の安全に成り立っている部分は大きいのではないかと思う。
いくつかの安全策も予算カットや承認がおりずに実現できておらず、ひとつでも改善されていたら何か変わっていたかもしれないのに…と思わずにはいられない。
下巻では3.11後の緊迫した対応が描かれる。何が起きたかわからない中でもできることを行い、周りを鼓舞しながらも冷静な判断をし、命を最優先にするというリーダーシップを発揮する所長の姿には感銘を受けた。混乱の中の話し方や態度がとてもリアルで、実際の吉田所長の姿をよく捉えていたのではないかと思う。何が良くて何が悪かったか、専門家でないので問うことはできないけれど、必死に事態を収束させようとした関係者の方々には本当にお疲れ様でした、とお伝えしたい。
こんな時だからこそ「有事」に備えて、また起きた時どうあるべきか、どういう発想が危険なのか、を多面的に考えるうえで良い読み物だったなと思う。
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エリートサラリーマンの主人公は順調に原子力畑で出世していく過程で東日本大震災に現場責任者として遭遇する。ここで彼が現場責任者として本部、政府とも丁々発止の交渉することで世間的には英雄視されるが、実は本部で管理責任者としてコスト重視に傾き、大津波による被災の可能性を握りつぶしたことはあまり知られていない。著者は主人公の少年時代から東工大のボート部時代、東電のエリートとして執行役員まで上り詰めていく過程を丹念に描き、その功罪を公平に描いている。前編及び後編中盤までのある意味平穏な生活から311当日から逝去までのドラマが怒涛のような展開はあっという間の読書体験だった。