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心情の描写がとても緻密で繊細だった。「桜島」や「日の果て」の戦争における中での主人公や環境の息苦しさや理不尽さ、そして「幻化」における「死」にじわじわと向かっていく者の空虚さの表現が素晴らしいと思った。
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本のタイトルには無いですが、著者の最初の作品である『風宴』と『桜島』『日の果て』の初期三作品。そして、遺作となった『幻化』を収録。
『風宴』は学生時代、『桜島』戦中、『幻化』は戦後の著者の体験を交えて書いており、『日の果て』は兄の体験を聞いて創作。共通しているのは、どれも死を扱っていると言うこと。
『桜島』は「美しくて死にたい」と願っていた主人公が、後半の見張台で語る独白が、とても印象に残る作品です。ただ、高い本なのだから、兵器の名前を知らない人のために注釈は必要だと思う。
「銀河」は海軍の陸上爆撃機、「回天」は別名人間魚雷と呼ばれる特攻兵器、「震洋」もモーターボートの特攻兵器。ちなみに「銀河」の設計者は、特攻兵器「桜花」を設計したことから、戦後は平和を願い、新幹線0系を設計しています。
『日の果て』は、脱走兵を扱っている時点で珍しいですが、追っているはずの主人公の移り変わる心理描写と緊迫感がいいですね。絶望的なフィリピン戦線で、このようなこともどこかであったのではと思いました。こちらも地図も注釈もない不親切さです。サンホセやツゲガラオは、手持ちの『玉砕を禁ず』の掲載地図に名前がありますが、肝心のインタアルの場所がよくわかりませんでした。
『幻化』は、精神を病んだ主人公が病院を抜け出し、戦中に軍務に服した鹿児島に向かう飛行機で隣り合わせになった、妻子を失ったばかりの男との出会いから始まる物語。途中でいろいろな人との出会いの中で、過去の記憶を辿りながら正常と異常の狭間で煩悶する男。ラストは、狂気に苛まれて歩みを進める別の他人を見ながら、その姿を自分に置き換えて自分自身を鼓舞しているようなセリフが印象的でした。
ところで、精神を病んでいるとはいえ、ガラス製のビンを道端、崖下や防風林に捨てたりしているのは感心しないですね。ガラスビンが風化するのに100万年もかかるとか知らなくても、形状や材質から自然に帰りそうにないことくらい、わかりそうですけどね…
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「風宴」、「桜島」、「日の果て」、「幻化」の四篇。「幻化」は精神的な病をえた主人公が病棟を抜け出し、阿蘇へと彷徨する物語で、その渇いた文体とともに印象に残った。人生は賭けの連続なのだが、その結末は誰にも分からない。