投稿元:
レビューを見る
気になっていた本が図書館にあったので読めるかどうかわからないが、と思いながらも連れて帰り、昨日ふと読み始めて…二日であっという間に読み終わってしまった。
アーサー・ミラー、なんといっても『セールスマンの死』で有名であるが、私はそれは知らず、ただただ子どもの本『ジェインのもうふ』の作家として小さいころから名前を知っていた人である。
作中の短編、中編、すべて85歳を過ぎてから書かれたものと知って驚く。ああ、でも、だから…なんというか、どの作品にも「一歩引いた感覚」があるような気がする。それでも、その、少し置いた距離から、手放しで生きることのたのしみを謳っているかのようだ。
冒頭の、マンハッタン郊外に住む13歳の少年が犬をもらう話は格別にすてきだ。自分が、男の子のことはなんにも知らないお母さんなのだなとも思ったし、男の人たちはこれを読んだらどういう感慨を抱くのかなとも思う眩しい、短い作品。
『パフォーマンス』。本国では中堅どころのタップダンサーが、あろうことかヒトラーに気に入られ…という、本作の中では一番ドラマチックでスリリングな作品。わくわくしながら読んだ。
圧巻は中編『テレピン油蒸留所』。一足先にこれを読んだ友人は、この中編を読むだけでも価値があると評していた。たしかにたしかに。未開の地の奥に住み着いた白人の姿…はほかの多くの作家も描いてはいるが、それこそここでも「一歩引いた」距離と歳月を経て思いがけない味わいを教えてもらった。