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文庫解説に目をつけるとは!なかなか斬新な批評だった。文庫解説は誰のものというと、当然読者のためのはずだが、作者のためや自分のための解説が多いという。その取り上げ方、切り捨て方がなかなか痛快!作者の個人史に引きずられた解説や与太話に過ぎない解説も困ったものだが、こうやってこの本に取り上げられて読んでみると面白い。
作品の社会的背景を捉え、読書の指針となる、あるいは視野を広げる解説が優れているということらしいが、これが結構難しいことらしい。だめな解説や優れた解説の書き手の名前が挙げられていて、なかなか厳しいね。
松本清張のアリバイトリックの不備を突いた批評家がいて、「ええー、これじゃ作品自体が成り立たないじゃないか」とあきれてしまった。あの有名な「点と線」や「ゼロの焦点」ですよ。小林秀雄の文も解説もわけがわからんと切り捨ててあるのも留飲を下げる感じかな。
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「解説の女王」気分で文庫解説を書いてきた筆者自身が、古今東西の名作の文庫解説を斬りまくった(自戒の念に苛みながら)、文庫解説についての解説新書です。文豪の作品を読んで「よくわからないけど、スゴイ」という無根拠な権威に圧倒され、高尚すぎる解説文で「これが解らぬか」と追い打ちをかけられ「何が言いたいのかわからない」という淋しい感想しか残らないことがあります。最適な解説とは、中途半端な教訓がらみの誘導は無用であり、読者に判断の余地を残す案内を心がけた「お口なおし」となる存在であってほしいと述べてあります。
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2020年11月26日読了。文庫本の巻末に付きものの「解説」について批評する本。確かに文庫本は解説に当たり外れがあるとは自分も感じていたところ、こういうネタをこの毒舌で突いてくるあたりがこの著者のセンスなのか。本をもう一度最初から読み直したくなる・本の時代背景を調べたくなる・著者への理解が深まるような解説はよい解説、と理解していたが、「解説が読者を向いているか?著者におもねったり解説者自身の自己満足になっていないか?」という観点で解説の良し悪しは判断できる、というのは面白い。解説者の思いがほとばしりすぎる珍解説や、解説がマッチしておらず本文自体のリーダビリティが損なわれている著者があるなどの観点も興味深い。「解説は焼肉の後のペパーミントキャンディ」という意見には同意するが、それだけでない・本文とケンカするような解説にもそれはそれで読み応えのあるものだと思う。
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論壇誌や新聞の書籍解説などとは違い文庫の解説は大抵は一人なわけで、そこにおそらく緩み、油断が生じてしまう。
ある人は作品や作者に媚びへつらい、ある人はあくまでも自己顕示欲の発露として終始する。
つまり、どうしてもイキったりカカったりしてしまうツッコミどころ満載の不思議な風習なのであった。
こんないじりがいがある素材を見つけた斉藤先生の快刀乱麻は止まらない。三島由紀夫だろうが大江健三郎だろうが果てはおそらく精神的な師でもあろうと思われる小林秀雄までも。完膚なきまでにおちょくっている。本当に気持ちがいい。
それでも最後の二篇、戦争題材のものに関してはしっかりと重くシリアス。戦争への同調圧力はもちろんだが平和や民主主義のそれも同等に警告しているのが感動的。
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斎藤美奈子さんが岩波の小冊子『図書』に連載した文庫解説の批評集。著者らしい毒舌やユーモアに満ちていて、軽快に読める。本領発揮だなぁ。
文庫解説はどうあるべきかに正解はない、というのが本書の最後に書かれているが、著者自身は、国語(文学の鑑賞)よりも社会科(地理的歴史的背景)を重んじている。本が書かれた時代的背景は、十数年もすれば忘れ去られてしまうからだ。実際、本書でも、『小公女』の背景にある階級差と植民地の問題や、1940年に書かれた『走れメロス』を日本の戦時体制のパロディとして読む視点など、後世の読者にとって有益な指摘がたくさんある。
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<目次>
序にかえて 本文よりもエキサイティングな解説があってもいいじゃないか
第1章 あの名作に、この解説
第2章 異文化よ、こんにちは
第3章 なんとなく、知識人
第4章 教えて、現代文学
<内容>
文芸評論家(って何で食っているのか?)による文庫の解説をくさしたもの。『図書』に連載の記事をまとめたもの(だから、岩波新書)。確かに、文庫解説って、読むけど、何かわからないものが多かった。「解説」でないものが多いことがよく分かった。そして、ここまで抉っても大丈夫なのだろうか?という心配も。そして、この本を読んでいて、著者も含めて、「文芸評論家」には、出版社の編集上がりが多いことも分かった。しかし、やっぱり「文芸評論家」は何をしていて食っているの?こうした解説?
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目の付け所がいいですね。赤川次郎の解説を鶴見俊輔が書いてるなんて、よほどのファンしかたどり着けない意外な情報とか、自分も読んで「何だかな〜」と感じた松本清張『点と線』は解説の平野謙や有栖川有栖がきっちり急所を指摘している事実など、思わず「そうだったか」と唸らされた。
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めちゃくちゃ好き。次はどんな解説の解説が出てくるのか!気になって夢中でページめくった。
町の図書館でピックアップされていて、「ちくま」の連載で気になっていた方だったので手に取りました。
わたし本でもなんでも、解説読むの大好き。ある意味答え見てるわけで思考停止しちゃうから良くないなーと思いつつ、みんな好きですよね?(答えに対して更に批判できればいいだけなんですが)
著者のおっしゃる通り、誉めてる解説より貶してる解説の方が得した気分になる。経験あり。
そしてこの本も、良い解説に対して誉める解説と、良くない解説に対して貶す解説を両方捌いてくれている。しかも明快・痛快。褒めと貶し両方くれてすごく得した気分。
漱石「三四郎」の解説を筆者は次のように分析する。
「三四郎」が描く世界の一つは「知識人予備軍の群れ」(野々宮、広田界隈)の世界で、同じ界隈の解説者にとっては共感を呼ぶものだったので素直な解説が多い。一方同じ漱石の「坊っちゃん」には捻くれた解説が多い(坊っちゃんの解説の解説は本の一番最初に出てくる)。その理由の一つは「坊っちゃん」が「知識人予備軍の群れ」(赤シャツ一派)にクサして出て行く小説だからなのだと。
この分析を踏まえると、反対の世界を表現できる漱石ってやっぱりすごいなあと。漱石はバリバリ知識人だけど反対側の視点も持っていたってことですよね。
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『日本の国語教育は、文学教育というより道徳教育だとよくいわれる。「主人公の気持ちになって考えなさい(共感読み)」と「作者のいいたいことを五〇字でまとめなさい(教訓読み)」のような質問はいまも授業につきものだ。』(p.90)
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『文庫解説ワンダーランド』
斎藤美奈子
2017年
岩波新書
『本の本』『趣味は読書。』などで知られる
文芸評論家であり全読者代表の美奈子姐さん。
730ページの鈍器本『本の本』で
自らのブックレビューを総まとめし、
『名作うしろ読み』では古今東西の名作の
ラスト一文を読み解いてきた。
そんなユニークなアイデアと縛りプレイで
本を読んで評論する斎藤美奈子姐さんが
今回批評という名のメスを入れるのは、
文庫本の巻末についている「解説」だ。
単行本刊行後、
数年もたたずに文庫化された本には
巻末に解説がつく。
著者のバクボーンや読者が見落としがちな
重要な項目などを端的に、丁寧にすくいあげる。
また読了後の余韻に浸るにふさわしい余談などを
披露してくれたりと
サポートしてくれるのが
中庸堂が考える「解説」の意義ではあるが、
美奈子姐さんは相変わらずに今回も
快刀乱麻、バッサバッサと鮮やかに
その「解説」たちを斬っていく。
気取った文章や自分語りを始める解説者には
ツッコミを入れる姿は爽快だ。
古典的名作や人気作は、
同じ作品が複数の文庫に収録されるケースがあり、
一つの作品に違う解説を読む機会を得る。
『坊っちゃん』『伊豆の踊り子』
『走れメロス』などがそれに該当する。
本書の意義はその「解説」たちの比較にある。
違う視点や表現、
多方面から一つの作品を見る視点は、
中々お目にかかることはないし
そこにはユニークな比較が生まれるからだ。
特に『走れメロス』の解説に対しての
美奈子姐さんのツッコミはクスリとさせる。
『失楽園』で知られる渡辺淳一の解説には
女性作家の解説が多く起用されていて、
渡辺の性愛をテーマにした自著を
女性作家に書かせるという気持ち悪さを、
きちんと美奈子姐さんが技巧を凝らして
代弁してくれたのは爽快だった。
著者の経歴やその本が書かれた時代背景、
その本の特徴や要点、その本を読む意義、
著者の近しい間柄の人物が書く解説とは
名ばかりのどうでもいい個人的交友エピソード、
難解で哲学的な、もはや解説の解説が必要なものまで、多種多様な文庫本巻末の「解説」。
それを評論せしめた斎藤美奈子姐さんの「解説本」。
読書好きな人なら興味を持つ人も少なくはないだろう。そこはご安心を。
美奈子姐さんが肝っ玉母さんのように
テキパキ片付けていく様をご覧あれ!
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⚫︎目次情報⚫︎
序にかえて──本文よりエキサイティングな解説があってもいいじゃない
Ⅰ あの名作に、この解説
Ⅱ 異文化よ、こんにちは
Ⅲ なんとなく、知識人
Ⅳ 教えて、現代文学
あとがき
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いやー切り口が面白かった!
共感するものもそうでないのもあるけど、解説にここまでフォーカスして今まで考えてみたことのない角度からの分析は新鮮で面白かったです。
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文庫本には大抵つけられている解説に着目して批評した本。著者が結構好きなので本屋で見つけて購入。
文庫の解説って完全にオマケ扱いしてて、好きな作家なんかが書いてたらラッキーぐらいの感覚だったんだけど、解説にもタイプがあること、時として「解説してるのこれ?」と思った感覚は自分だけじゃなかったことなんかが知れて、ほんと読んでラッキーな本だった。
そして夏目漱石はやっぱり天才だと思った。「三四郎」、再読します!
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「基本はオマケ、だが人はしばしばオマケのためにモノを買う。夏目漱石、川端康成、太宰治から、松本清張、赤川次郎、渡辺淳一まで。名作とベストセラーの宝庫である文庫本。その巻末の「解説」は、読者を興奮と混乱と発見にいざなうワンダーランドだった!痛快極まりない「解説の解説」が幾多の文庫に新たな命を吹き込む。」
目次
1 あの名作に、この解説(夏目漱石『坊っちゃん』―四国の外で勃発していた解説の攻防戦;川端康成『伊豆の踊子』『雪国』―伊豆で迷って、雪国で遭難しそう ほか)
太宰治『走れメロス』―走るメロスと、メロスを見ない解説陣
2 異文化よ、こんにちは(サガン『悲しみよこんにちは』/カポーティ『ティファニーで朝食を』―翻訳者、パリとニューヨークに旅行中;チャンドラー『ロング・グッドバイ』/フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』―ゲイテイストをめぐる解説の冒険 ほか)
3 なんとなく、知識人(庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』/田中康夫『なんとなく、クリスタル』―ン十年後の逆転劇に気をつけて;吉野源三郎『君たちはどう生きるか』/マルクス『資本論』―レジェンドが鎧を脱ぎ捨てたら ほか)
4 教えて、現代文学(村上龍『限りなく透明に近いブルー』『半島を出よ』―限りなくファウルに近いレビュー;松本清張『点と線』『ゼロの焦点』―トリックの破綻を解説刑事が見破った ほか)
著者等紹介
斎藤美奈子[サイトウミナコ]
1956年新潟県生まれ。児童書などの編集者を経て、文芸評論家。『文章読本さん江』で第1回小林秀雄賞受賞