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あみ子のことは好きだけど、この小説からは何も感じない。周りの人達も結局何も変わってない。せめてハッピーエンドにしてほしかった。あみ子が何もわかっていない分、虚しさが増す。
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あみこは4人家族で、父と後妻と先妻の子供である兄と暮らしている。
あみこは一般的なルールを守るという概念が欠落していて、他者の感情を推察することができない。しかしあみ子は無邪気に他者を喜ばせたりしたいと思う気持ちは持っている。母の開く書道教室で見初めた少年ノリくんにつきまとい、一方的に自分の話をしたり自分の食べかけのクッキーを善意からプレゼントするが、それはノリくんに受け入れられない。母が死産し、失意からなんとか回復した母にあろうことか水子の墓をプレゼントだといって快気祝いに贈ってしまう。それを機に兄は不良となり母は精神を病んで寝たきりとなってしまう。ノリ君にいつぞや渡したクッキーがあみ子が唾液でなめまわしたものだったことが発覚し中学校の保健室で前歯を失うほど殴られる。あみ子は祖母の元へ預けられることとなり小さな子供を友として平穏な暮らしをすることとなるのだった。
アウトサイダーの物語だった。でも、わたしにもあみ子のような部分があるから、切ない。他者や世界は少しずつ異質なものだからこそ、一歩引いて相手を斟酌するものなのだと思う。あみ子の在り方は恐ろしく素直でストレートすぎて容赦がない。
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―――なんか、自由の象徴じゃのう。―――
「こちらあみ子」(「あたらしい娘」より改題)で第26回太宰治賞。
「ピクニック」を収録した単行本で第24回三島由紀夫賞受賞。
さらに書きおろしの「チズさん」収録で待望の文庫化。
今村夏子という作者が世に出している作品のすべてがこの文庫を買えば読めてしまう。
「こちらあみ子」はハードカバーの単行本が発売された頃から読むべき一冊だと目をつけていた。
なにかの賞をとったらしい、という印象しかなく、内容も知らないまま読んだ。
ヒリヒリした。
すごいひとが出てきている、とおもった。
文章は読みやすく、世界観に入りやすく、でも本質的なところがわからない。
登場人物の思考がわからないなんて、ほんとうはアタリマエのことだ。
アタリマエのことなのに、怯んだ。
あみ子はこちら側が、あーそれをやったらこうなってしまうよだからやってはいけないよと恐れることをどんどん実行してしまう。
ハナトルナの裏に書かせた文字も、小麦色のクッキーも。とにかくヒリヒリするのだ。
なにより、あみ子がわかっているのかいないのかわからないところにヒリヒリするのだ。
「ピクニック」は集団心理の怖ろしさのようなものを淡々と綴っている。有名芸人の彼女である七瀬さんと、同じ職場のルミたち。生意気な新人。
集団の、暇つぶしのような話だなあとぼんやり思ってゾッとした。
「チズさん」も、これまた。
主人公が何者なのか、理解するのに時間がかかる。
今村夏子の、触れたはずなのに、砂のようにサラサラと風に飛ばされてなにもなくなってしまうこの掴みどころのなさ、そのくせ、わかりたい、なにが書かれているのか知りたい、という興味心を動かす魅力は、高野文子のそれに似ている。
好きな作家だとおもう。
作品数は期待できそうにない。
でも、綿矢りさのように遅れてやってくることもあるかもしれない。
のんびり待っている。
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『こちらあみ子』
多数派の中に生きる異物を、異物の視点から描いている物語である。
あみ子が小学1年生から中学を卒業するまでの日々。
あみ子は重度ではないが知的障害、多動などがある女の子。感情をコントロールできず衝動的で、社会性はなく人の気持ちを考えられない。
幼いころは風変わりで済まされていたが、他の子供たちが社会の中に馴染んでいく中であみ子だけが取り残される。周囲はあみ子に振り回され、疎み、敬遠する。
あみ子はいじめを受けたりバカにされたりするがその意味を理解できない。
また、あみ子自身も多くの人に迷惑をかけ、傷つけるがそれが悪いことだと気づけない。
あみ子の母は書道教室を営んでいて、あみ子は教室にやってくる同じクラスののり君に恋をする。嫌われて疎まれても正面からぶつかって行く。
こののり君への恋心と、母が物語のキーである。
あみ子の母は子供を死産するが、それを発端とするあみ子の行為から母は心が壊れてしまった。
あみ子は自分の行動が及ぼす影響と結果を想像できない。母がどうしてそうなってしまったかわからず、事態はひたすら悪化して行く。
最初は独特のズレたテンポと発散するあみ子の言動についていけないのだが、
意図的に隠されていた母の事情がわかってからは一層深味が増す。
最初ぐだぐだに感じたあみ子の混沌が物語世界にどんな影響を与えるのか想像し、捉え方が変化する。
三人称で書かれているが、頭の回らないあみ子のレベルで物語は紡がれる。だが読者は世界を拡大して想像することができる。
書かれていない登場人物の心理変化、決定的な破滅を察し、あみ子に苛立ち、他の登場人物に同情する。
物語世界をつぶさに描く小説が、世にあるほとんど全てだけれど、これは書かれていない部分を読者が想像することで補完し完成される。高度な話だ。逆に読者の想像力に依存する部分もある。
あみ子は正常な世界において明らかな異物であるが、当然本人は自分と他者の差に気づかない。
あみ子は邪魔者扱いされボロボロになっていくのだが、そうなるにつれだんだんと不思議な愛しさを感じてしまう。
頭の弱い子だからしょうがない、我慢しよう、という諦念が、あみ子を排除し、正常な世界を運営するために必要なのだと判断する物語の中の人々に、そしてそれは当然だと思ってしまう私自身から守ってあげたくなる。
そういう心理になると、さらっと描写された内容のひとつひとつにあみ子と世界の壁を感じる。
最後は父もあみ子を諦めてしまうのが、それすらあみ子には理解できない。
世界を共有できない人と一緒に生きるのは難しいのだと残酷にも納得してしまうのだ。
朝日新聞に掲載されたほむほむの書評が収録されているが、それも秀逸。
あみ子は正常な世界で生きていくことは出来ないと感じながらも、世界の外側に行ける彼女に少し憧れてしまう感情。
『ピクニック』
あみ子とは逆に、異物ばかりで構成された世界に、正常な人間が”空気がよめない子”として登場している。
正��表題作がずば抜けているため他の2作が霞む。
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料理上手な母、いつも優しい父、登下校を一緒にしてくれる兄。大好きな男の子。
あみ子の純粋さゆえに振り回される周囲の人々、そしてあっけなく崩れていく日常。
切なくて、もどかしくて、誰かをぎゅっと抱きしめたくなる作品。
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多分障害(発達障害?)を持っているであろう、あみ子を中心としたお話。
あまりにさらっと描かれすぎていて、
それが小説というものなのだろうけれど、
読むのがちょっとしんどかったかな…。
どうしても現実と比較してしまうので。
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夏のこの蒸し暑い、どうしようもなく打ちひしがれてしまう季節に読むことができて良かった。読み終えて顔を上げ、ぼんやりと見つめた窓の先、私の目の前には小刻みに揺れる影は見えなかったけれど。
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不思議な吸引力を持つあみ子のあまりにも純粋無垢な日常を描く表題作が味わい深い。風俗店で働きながら夢見るような恋愛に身を焦がす女性が主人公の「ピクニック」は、彼女を巡って繰り広げられる同僚たちのざわつきが女子会的な賑やかさで楽しい。
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打ちのめされたような気分。
正しい顔して座ってた子どもの頃の自分も、今の自分がもってるやさしさも、全部並べて違うと言いたい。全然違う、そういうことじゃない。いちからやり直しだ。
ちゃんと寄り添える人間でありたい。
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表題作では、あみ子が何故かひょうひょうとたくましく生きている姿に、ほっとする感じがした.のり君との長い付き合いでのエピソードがどれも面白かった.「ピクニック」では七瀬さんの行動にルミたちが巻き込まれて楽しんでいる様子が楽しめた.「チズさん」のようなちょっととぼけたようなおばあさん、居ますね.
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登場人物の性格や日常が、ニュアンスとしてはよく伝わり作品を成り立たせ面白さにつながっていたのだが、「書かれていることこそが全て」と捉えるならば、あやふやな部分の多い、読んでいく内にストーリーを忘れていってしまう、そんな脆弱さを感じる作品群だった。ざっと読んで「あー面白かった」なんだけど、思い返して何が面白いのか人に説明したくても出来ない、そんな印象。
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あみ子の生き方にこわいなあと思いながら読んだ。でもたぶん、それは惹かれてるのと同じことかも。心の中に刺さってぬけないと思う。
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全く聞いたことのない作家さんでちょっと迷いましたが、町田康、穂村さんのお二人があとがきを書いているので買ってみた。
「こちらあみ子」は西さんの円卓ぽいけど、もっと状況的には悲しい設定。でも悲しくはない。けどなんともいえない不条理感が満載。
私は2つめのお話「ピクニック」がよかった。
笑えて、せつない。
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こちらあみ子…評価はこの作品。ストーリーからすると重いはずだけれど悲愴感はなく、むしろあっけらかんとしていて楽天的で不思議と安らぎみたいなのを感じる。優しい心を失うことなく自分に嘘をつかず正直に生きている稀有な人の純真無垢な心に触れたよう。
ピクニック…こちらは妄想の世界に生きる純真無垢な女だと思う。恐らく嘘で塗り固めた自らの殻の中で幸せを貪っているのではないか。
チズさん…もはや孫の名前しか口にしない静かなおばあさんの深い愛情がそこにある。
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無垢ゆえの残酷さ、だとか、善意に見える悪意、だとか、収録された3篇とも根底に「へん」な空気が流れてて面白かった。町田康の解説もよかった。