投稿元:
レビューを見る
少し前?の伝統的な生活がどのように形成され、現代の生活・社会とどう異なり、何を活かすことができるのか、知的好奇心がフルに刺激された。少し前読んだNHKのヒューマンとつながる部分も多く、宗教や貨幣経済の構築を考える点が特に面白かった。
投稿元:
レビューを見る
著者のニューギニアでのフィールドワーク経験を生かし、西欧世界に「発見」された新世界の状況と西欧的現代社会を比べよりよき社会のためにできることを言語学、医学、生物学、社会学を横断し考察する。現代社会の良い点は多いが、進化的に無理をしている部分もあり、その補強のためには昔の社会に学べることもあると説く。
司法では、西欧の法律では関係者が事後関係を持たない可能性も高く、罪と罰を重んじているため被害者の心の救済は考慮されていない。一方、「昨日までの世界」では加害者と被害者は関係が途切れない可能性が高く、親族や村の関係者を巻き込んで関係を修復することに重点を置く。
リスクへの態度では、「昨日までの世界」では頻度の多い事柄に対しては、細心の注意を払う。現代社会では車の運転などリスキーな事柄に対して意外と注意を払ってはいないのではないかとする。
病気については、「昨日までの世界」では、感染症がほとんどだが、現代は糖尿病、ガン,高血圧など非感染症が死因のほとんどを占めるようになり、これは食物がふんだんな状況が遺伝的にまだこなれていないためとして、食生活を以前の様式を取り入れることで改善できるとする。
投稿元:
レビューを見る
上巻では、伝統的社会の紛争解決、戦争、子供と高齢者、について書かれていた。下巻では、伝統的社会におけるリスク、宗教、言語、健康・病気について書かれている。
伝統的社会における危険・リスクは現代社会との大きな違いのひとつに違いない。「建設的なパラノイア」と著者が名づける伝統的社会の人びとの行動が描かれているが、その行動は奇異に映っても昨日までの世界においては正しい行動であることがわかる。
宗教の話についてはその起源について考察し、人類が因果関係の把握という能力を獲得する中で、不安の軽減、事象に説明を付ける、癒しの提供、忠誠の証し、などの役割を持つようになったのではと推察している。ほとんどすべての伝統的社会に宗教的な習慣が存在するが、ここでも伝統的社会においては多様性が存在し、その定義を行うことも難しい。ここで行われた考察は、様々な形で行われている宗教に対する考察の中でも、もっとも納得できる考察のひとつでもある。
ちなみに、宗教について分析をしなければならない、と書いた後に宗教を分析するということに対してある種の人は不快に思うかもしれないという言葉を後につなげている。600万年前からの人類の進化を前提に話をしているこの時点でキリスト教の教義とは外れているので、いまさらなのだが、こう書かせる心理的圧力があるのだろう。こんなところからもアメリカが思ったよりも宗教大国であることが分かる。
言語については、その驚くべき多様性とその喪失について書かれている。
著者が書くように、伝統的社会へのまなざしが現代社会を改善することになるかどうかは分からない。しかしながら、自分たちの遺伝的形質が伝統的社会の習慣によって選択されてきたものであることは認識しておくことが必要だ。糖尿病や高血圧は分かり易い例だ。
明らかに現代社会は効率的かつ安全になっている。しかしながら多様性はどんどん失われている。それが本書の初めと最後に置かれた空港の描写が象徴的に示すところだろう。
『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』のような書籍を期待していたのであれば、期待外れになるだろう。それでも、書かれなくてはならなかった書物なのだろうと思う。
投稿元:
レビューを見る
どこか遠い時代の遠い地域の話だった前二冊とは違い、明らかに昨日までの世界をつい最近まで生きてきたこの本の内容は今日の私たちと地続きに繋がっていて、考えさせられることも度々
投稿元:
レビューを見る
本書(下巻)では「危険に対する対応」「宗教、言語、健康」についての考察。中でも「危険」という概念に関する考え方が面白い。それは我々にも重要な教訓を与えてくれます。
言うまでもなく「伝統的社会」における危険とは、我々の世界とはかなり異なります。例えば「倒れてきた木の下敷きになる危険」というのは我々にはほぼ考えられないリスクですが、ニューギニアの密林の伝統的社会ではそれはリアルなものです。毎日のように密林のどこかで木が倒れる音が聞こえ、年間に100日くらいは村を離れて野営しているとしたら、その頻度は充分にリスクを計算すべき数字になります。我々が交通事故に注意するくらいのリスク回避はするべきなのです。それで彼らは「大きな枯木の下で眠らない」というルールを守っているのです。それを著者は「建設的なパラノイア」と名付けます。他にも病気にや怪我、あるいは見慣れぬ他者に対する病的なまでの警戒心は、一見過敏にすぎる反応に見えるかもしれませんが、それは生存するために必要な知恵を継承してきた結果といえるのです。
その考え方を現代に置き換えるとどうでしょう。原発の重大事故がが起きる確率が、仮に1000年に一度だとしましょう。しかし世界中に100基の原発が稼働したら、10年に一度は重大事故が起きることになってしまいます。現実的に我々はそんな世界に生きていて、残念ながら重大事故も一定のペースで起きているのです。「建設的なパラノイア」は現代社会においてもなお、失うべきではない生存の為のセンスなのではないでしょうか。
最後に言語の多様性について、著者はそれが失われつつあることを嘆いています。現在、地球上にはおよそ7000もの言語が存在しているそうですが、今世紀中に数百の言語を残して消滅するだろうと言われています。それが良いことなのかどうか。バベルの塔をはじめ、世界中の様々な神話において、人類は別々の言語を話すようになったことで意志を統一できず、争いが生まれたとも言われています。しかし著者は共通言語を学ぶ必要は認めながらも少数派の言語をなくすことはないと言います。多様性をなくすことの危険性を上回るメリットはないということでしょう。言語のみならず、部族や国家、文明の多様性を失うことは、一定の条件下において全滅する危険が大きくなる。その事実に逆行しているのが現在の文明であり、グローバリゼーションという言葉に表される単純化された構造の社会なのではないでしょうか。
投稿元:
レビューを見る
「銃・病原菌・鉄」でピューリツアー賞を受賞した人類生態学者である著者による一冊。上巻のテーマが、昨日までの世界と国家を持つ社会のマクロ比較であったのに対し、下巻である本書はミクロ アプローチ。
印象深かったのは死因の比較。パラグアイ アチェ族・一位 毒蛇、アフリカ南部 クン族・一位 毒矢、中央アフリカ ピグミー族・一位 樹上からの落下。生活違いすぎる。
その他、マクロがプラットフォームを同一性にした記述であるところミクロは異質をプラットフォームとしている。それだけに後半に語られる言語の多様性に対する賛美は秀逸。上下巻を通じて、大変有意義な旅に連れ出してくれたと感じます。
因みに、もっとも恐ろしいライオンは、老いてしまったり病気や怪我などで弱って、俊敏な動きができず群れから離れ「人間を襲うしか手だてがなくなってしまった」はぐれライオンだそう。気をつけます。
投稿元:
レビューを見る
「上」に引き続き。
ゆるゆると読んでいたおかげで、興味をひかれる部分が多く上を読んだ時のけだるさを感じないまま読了。
どのみち、他人事だと思って読んでいるからに他ならないのだが。
危機との遭遇や死亡原因、宗教、言語関連そして、健康について書かれてあるので、よけい興味をそそられた。
「宗教の定義の一例」や「暴飲暴食の事例」など挿入されている表が面白くて(失礼?!)
先に読んだ「銃・病原菌・鉄」に次ぐ薀蓄ネタ本として文庫になったらまた買ってみましょうか!
投稿元:
レビューを見る
(以下、「上」のレビューとおなじ)
1.ジャレド・ダイアモンド『昨日までの世界 文明の源流と人類の未来』日本経済新聞出版、読了。『銃・病原菌・鉄』の著者による新著。「今日の世界」とはヨーロッパ化された世界。前著でその経緯を辿った。本書では工業化以前の「昨日までの世界」と対比する中で、文明の危機への処方箋を提供する。
2.J・ダイアモンド『昨日までの世界』日本経済新聞出版。「今日の世界」の根幹は国家の成立だ。しかし600万年に及ぶ人類の歴史の中で、国家の成立は5400年ほど前に過ぎないし、ここ百年で「今日の世界」となった事例も数多くある。歴史的にも人類は「昨日までの世界」で長時間過ごしてきた。
3.J・ダイアモンド『昨日までの世界』日本経済新聞出版。豊富なフィールドワークと人類学的調査から著者は、子育てや介護といった現代社会の岐路となる問題のヒントを「昨日までの世界」に求めるが、その論証は説得力に富んでいる。しかし、著者は同時に「過去への憧憬」も手厳しく否定する。
4.J・ダイアモンド『昨日までの世界』日本経済新聞出版。ヨーロッパ文明のおごりも否定する。成功は文化的に優れていたからではない。安易なイデオロギー批判とロマン主義趣味を柔軟に退け、叡智を学び未来へ開くこと。著者の文明論の集大成の本書は柔軟な思考と公平さの指標となるだろう。
5.J・ダイアモンド『昨日までの世界』日本経済新聞出版。なお9章は「デンキウナギが教える宗教の発展」(下巻所収)。文化人類学的宗教の役割変遷論のまとめ。7つの項目で検証した図表があるので紹介しておきます。
https://twitter.com/ujikenorio/status/340477492215291906/photo/1
投稿元:
レビューを見る
私たちの社会は私たちの身体が適応出来ないくらいすさまじいスピードで進歩してるようだ。いかに人類の歴史で「近代」が最近始まったことかと実感させられる。危険のあり方も変わってる。豊かになったように見えて貧しいままのこともある。色んなことに興味持って視野を広く知識は深く生きていきたいと思った。
投稿元:
レビューを見る
現代の西洋的な社会が出来上がる過程で、得たもの失ったものは何か。それを今に残る伝統的な社会(昨日までの世界)と比較することで提示されています。
下巻では、危険に対する対応までは、上巻と同じく比較調査をされています。その後、宗教、言語、病気が、昨日までの世界から、西欧的な世界に至る過程でどのように変わってきたのかを見せてくれます。
今の世界になって得たものの素晴らしさ、過去から学ぶことのできる失ったもの。その両方を取り入れて、未来を作っていかなければならないのだと、著者の熱い想いに、後半感動しました。
投稿元:
レビューを見る
ページ数が多く読了に時間がかかった割に、得たものは少ない。
テーマがぼやけていて散漫な印象。
エピソードを絞れば新書程度でも十分なのではないか。
投稿元:
レビューを見る
やっと下巻読みおわった。現代先進国の生活がいかに特殊か。相対的な視点を持つのに役立つ本です。新しい古いという固定観念をとっぱらって、様々な問題に対する解決法を考えて実行していけたら、私たちはもっとハッピーになれる。豊かであるとはどういうことなのか。選択肢の多い時代だからこそ、自分で考えて選びとっていきたい。
投稿元:
レビューを見る
伝統的社会と現代社会を、戦争と平和、子どもと高齢者、危険に対する対応、宗教、言語、健康それぞれについて比較している。
昔の伝統的社会の戻ったほうがいいとか、現代社会がすべてにおいて優れていると断定するのではなく、現代社会においても伝統的社会のいいところを少しでも学んで、取り入れられるところは取り入れたらいいのではないかと述べている。
例えば、塩分摂取量については、塩分摂取が少なければ血圧が低いというエビデンスはすでに証明されているので、無駄に多く摂取いないようにする。事故に会う確率が高い、自動車、アルコール、脚立、お風呂での転倒はできるだけ避けるか、注意を払って接する。二言語を話す人はアルツハイマーの発症が4,5遅いという報告がある。など自分自身の行動だけで変えられるものも多い
投稿元:
レビューを見る
これを「温故知新」と言う。
日本人にはなじみの概念だが、これだけの文章を尽くさないとアメリカ人にはわからないのか。
前2作に比べて衝撃は無く、ネタ尽き感がある。
投稿元:
レビューを見る
ニューギニア、アマゾン、イヌイット、アフリカ、北アメリカのインディアン等の「昨日までの世界」と現代社会を比較しながら、人間社会の事象の本質を明確にしていく現代の古典ともいうべき名著。
項目別に説得力の優劣はあるものの、下巻において特に出色は「戦争」「宗教」「言語」「死因」についての深い洞察。
個別に感銘を受けた部分を、今後時間をかけて引用していきたいと思う。