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著者の香田洋二氏(1949年~)は、第36代自衛艦隊司令官(海将)を務めた元海上自衛官。海上幕僚長の有力候補であったとも云われる。最近は報道番組にもしばしば登場している。
本書は、2017年半ば以降の雑誌・新聞への掲載文・インタビューを改稿した4つの章に、書下ろしの2章を加えたもの。
近時、北朝鮮情勢を分析・解説した書籍は少なくないが、学者やジャーナリストとは立場を異にする元自衛官として、現実的かつ楽観性を排除した分析を展開している。内容は概ね以下である。
◆北朝鮮が核ミサイル開発をやめ、既に製造した兵器の廃棄を行わない限り、アメリカは軍事力を行使する(核開発の一時的凍結では妥協しない)。既に時限爆弾のスイッチは押されており、現在アメリカは自分たちがいつ何をすべきかを見極めている。
◆アメリカは、北朝鮮の核武装とアメリカ本土に届くICBMの保有を許すつもりは毛頭なく、それをきっかけに、世界中に核兵器が拡散することを絶対に容認しない。そのためには軍事力行使も厭わないのであり、冷静な現状判断からは、「戦争にならない」という結論を導く方がむしろ難しい。
◆アメリカが武力行使をする場合、韓国などの被害を最小限に食い止めるために、奇襲攻撃で北朝鮮の攻撃能力を一気に無力化し、短期間で決着をつけるだろう。Xデーは、火星14型がICBMとして完成する可能性のある来年6月以前で、2月の平昌オリンピックを外した時期、早ければ12月~1月の可能性すらある。
◆戦争となった場合、それは単なるアメリカと北朝鮮の戦争ではなく、世界が制御不能な核兵器拡散の地獄を見る負の連鎖を事前に食い止めるための戦争である以上、日本は、(北朝鮮からの攻撃を防御するだけではなく)、責任ある支援を行い、国際平和に貢献しなければならない。
◆戦争となった場合、北朝鮮は、アメリカからの核兵器での報復を恐れるため、日本を核攻撃する可能性は低い。日本が通常兵器で攻撃されれば、日本のミサイル防衛システムは世界でも最も進んではいるとはいえ、被害はゼロではすまないだろう。
◆アメリカの狙いは北朝鮮の核・ミサイル能力を排除することであり、国家体制の崩壊は目指していないため、38度以北へ攻め込むことはない。その範囲において、この戦争は中国・ロシアともにギリギリ許容できるものであろう。
◆アメリカ・北朝鮮両国が強硬な挑発を控えた結果、アメリカが武力行使をしない可能性もある。その事態は、戦争を望まない関係各国にとって短期的には最良の結果と映るが、いずれは北朝鮮が核兵器と世界のあらゆる地点を攻撃可能なICBMを保有することになり、更に、中東や南米の地域大国が北朝鮮に倣って核・ミサイル保有に驀進し、世界中に核兵器が拡散するという、真の最悪の結果を招くことになる。
北朝鮮が核兵器を放棄し、上記のような事態が避けられることが望ましいのは言うまでもないが、希望的な観測のみに流されることなく、そうならなかった場合の事態を冷静かつ現実に根差して想定する必要があるのは間違いなく、今一読しておく意義のある一冊だろう。
(2017年12月了)
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度重なるミサイル発射実験、相次ぐ制裁決議、国家同士の激しい言葉の応酬と、ワイドショーや雑誌などで米朝衝突のXデーも取り沙汰されて久しい2017年冬の時点で、この冬にアメリカが北朝鮮の非核化に向けた武力攻撃に踏み切る可能性は高いと分析する、元SF司令官などの経歴を持つ香田洋二氏による著作。2017年12月現在、まさにいまこのときに読むべき内容となっている。
TVニュースや大衆紙のみを追ってると、なんとなくボールは北朝鮮にあって、あるとすれば、北のなんらかの新しい挑発的アクションに対してアメリカが武力攻撃するんだろうと思ってたけど、アメリカはアメリカの都合で前触れもなくやるときはやるということで、すでに条件は整っており、確かにいつ米朝衝突があってもおかしくはないのかもしれない。
香田氏としては、必ずしも対北武力攻撃の前触れとしてアメリカがNEOを実施するとは限らないという、これも軍事専門家の分析として興味深い。在韓自国民への被害を出さずに北を攻撃するオプションがあるとする。
つまり全体として、もはやいつ米朝衝突が起きてもおかしくないし、それはなんの前触れもなく、お正月直前にでもありうることであると。
本書のインタビュー部分で、9.11が起きたときの、香田氏が海幕防衛部長時代の横須賀での空母キティホーク護衛のエピソードに触れているが、このときの当事者からすれば、米軍等の武器等防護が法律上可能になり、実際に行ったというのは、感慨もひとしおなんだろうな。
北の話ではないが、中国の南シナ海人工島の軍事化について、太平洋戦争時の日本がせっせと造成した各地の南の島の飛行場が米軍にとられて日本空襲に使われたように、米中衝突があれば奪い取って中国封じ込めに使えるかも知れないというのも、可能かどうかはわからないが、なるほどと思った。
非常にタイムリーな著作であり、今後、北が自主的に核放棄するか、対米核抑止体制を確立してしまうまでは、アメリカが前触れもなく北朝鮮を武力攻撃するという事態はあり得ないことではないという気構えだけは常に持っておかないといけないと感じた。
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元海上自衛隊の将官だった著者による各種雑誌新聞原稿を新書にまとめたもの。
章によっては新書のための書下ろしもある。
時系列的に米朝対立がまとめられていて、今日に至るまで何があったのかがよく理解することができる。
日米同盟の位置づけは、おそらくは論者によって見解が異なるのだろうし、
著者のバックグラウンド的に批判できるものでもないのだろうが、
まあ、そういうものかな、と思ったりもした。
印象深いのは、ロシアが北方領土を返還することがない、という点。
まさしくおっしゃる通りなのだろうし、現実的な物事の捉え方というのは、こういうことを指すのだろう。
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北朝鮮にアメリカが武力行使するというシナリオは考えたことなかったが、実は起きる可能性がかなり高いという説。核とミサイルの保有が世界に与える脅威を考慮し、政権を覆すことなく核とミサイルの能力を破壊するごとく動くだろうというもの。
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読了。
毎度のことだが、タイトルと内容に少々乖離がある。売ることを考えるとタイトルの決定権は出版側にあるのだろうが、米朝会戦というよりは、アメリカの先制攻撃が成功して、最終的に北朝鮮の米本土攻撃能力が殺がれることを予見している。アメリカは大局的には北朝鮮の出方に細かく反応するのではなく、彼らのみの都合で攻撃に着手するだろう。”アメリカは、北朝鮮の核武装とアメリカ本土に届くICBMの保有を許すつもりは毛頭なく、それをきっかけに、世界中に核兵器が拡散することを絶対に容認しない。そのためには軍事力行使も厭わないのであり、冷静な現状判断からは、「戦争にならない」という結論を導く方がむしろ難しい”とある。この状況下、6月12日は如何なる顛末を迎えるのか。最近の香田氏の予想は7月攻撃開始だが果たして。。。
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何となく心の中では、どうせ北朝鮮は攻撃してこないだろうとたかを括っている。一昔前ならミサイルの精度が低く、日本領海内や国土の何処かに落ちるのでは?そうなったら政府は自衛隊は米軍はどうするだろうと考える事もあった。だが最近はその心配も無くなる程、北朝鮮のミサイル技術は進歩している。真偽の判らない点はあるものの、狙った位置に正確に落とせていると、いつもの強気な口調で発表している。一時期は朝からJアラートが頻繁になる事もあり、何故国民が飢えているのにそんなに毎日打つかなと疑問に思う事もあったが、内心はそろそろ本当に危ないのではと不安になる事もあった。そして核開発。いよいよ核弾頭が出来上がればうかうかしていられない、との心配をよそに、やはり心の中ではどうせ打てないという何か根拠の無い確信もあった。
私の心を縛っているのは日米安保だ。だから沖縄県の基地廃絶論がニュースに上がるたびに、県民の気持ちを察しつつも、本当に大丈夫だろうか、との別の不安が生まれてくる。
今日本の周囲には筆者が言う通り、北朝鮮と中国という大きな不安を抱える。そしてウクライナ侵攻により新たに「危険な国」に加わったロシア。中国やロシアの様な大国は物分かりが良いから、日本と事を構える事は無いに等しい。だが北朝鮮が本格的に核弾頭を配備したミサイルをアメリカ本土に落とせる様になると、わからないのはアメリカだ。
アメリカはこれまでにも疑いがあれば、若しくは疑っても大丈夫な状況が作れれば、突然武力行使に出る。勿論過去に行った攻撃は、近隣に重要度の高い同盟国がない事が前提だったから、韓国や日本が陸地や内海を隔てるだけの様な近さにある事への配慮はあるだろう。だがそれ(北朝鮮の振る舞い)がアメリカの将来の安全保障にとって許容できないレベルに達すれば、躊躇なく叩くだろう。だから本当に怖いのはアメリカだ。
彼らの世界の警察としての軍事力は他の国の追随を許さない。例え中国が空母軍を作り、F22クラスのステルス戦闘機を持ったとしても敵わない。それは誰の目にも明らかだろうし、万が一正面からぶつかれば、そうした戦闘部隊の衝突ではなく互いのミサイルの撃ち合いになるから、より多くのミサイルと正確に当てる技術、核兵器数においても優位な技術力を有するアメリカが勝利するだろう。それにアメリカは過去何度も実戦経験がある。
今我々が本当に恐れなければならないのは、そうした北朝鮮が徒にアメリカを刺激し、アメリカの攻撃判断を早めたりする事だ。そしてやはり中国の台湾に対する動きにも要注意だ。習近平は数年以内に台湾を手に入れる(元々自分たちの国だが)事を明言している。この動きをアメリカはどう見るだろう。恐らくこちらは動かないだろうが、北朝鮮を攻撃する絶好のチャンス(タイミング)でもある。
そう考えると、北朝鮮・中国・台湾・韓国・日本がそれぞれが、その様な事態にどう動くか、アメリカの動きを読み切るしかない。
いずれにしろアメリカ次第。朝ニュースを見たら突然、燃え盛る平壌の街並みが映像として流れる。そんな朝を迎えずに済みたいものだ。