投稿元:
レビューを見る
久々に胸の奥にずしんと来る本を読んだ。
アメリカの奴隷貿易は
人類史上最悪の罪悪だと私は考えているが
その思いが一層確かになった。
自由を求めて逃げ続け
自由を保障されてもなお
いつか必ず鎖につながれて引き戻される恐怖を
当事者以外の誰が理解できるだろうか。
アメリカの黒人差別問題は
私たちには想像できないぐらい根深い。
そんな社会に生きる彼らの力強さに胸が震える。
「アメリカこそがもっともおおきな幻想である。
~この国は存在するべきではなかった。~
なぜならこの国の土台は殺人、強奪、残虐さで
できているから。
それでもなお、われらはここにいる」
終盤の章「インディアナ」で
自由黒人のランダーが語る言葉には実に説得力がある。
アメリカという「実験国家」はこれから
どこに向かっていくのだろうか。
リアリティに満ちた上質のフィクション。
すべての人が読むべき本だと思う。
投稿元:
レビューを見る
ほぼ一気読み。奴隷制時代の米国、人名と州が交互に来る章(米国の週に土地勘がないので地図で確認)、特に州のパートが当時の社会の様子や奴隷の状況を綴っているのだが、子どもの頃「ルーツ」を見ていて覚悟していたつもりでも、時にはそれ以上に辛い描写に本を閉じ、でも目をそらしてはいけないと読み続けた。人物のエピソードがどれも意外で驚きに満ちていて効果的。フィクションだが現実にこれくらい劣悪な環境だったのだろう。とても人間を扱っているとは思えない。逃げ出した女主人公がたびたび奴隷狩りにつかまり、助かるのだろうかとひやひやしながらページをめくる。こうした背景を持って米国は発展し、その背後には英国を中心とした奴隷貿易があり、そしていまだにその問題を抱えているのだとてきたのだと、読了して少しばかり違った目で彼の国々に思いをはせる自分がいた。見事な構成・内容だった。ここに扱われている問題が黒人問題だけでなく他の差別問題や、現代の米国で起こっている不法移民やイスラム教徒のへの国の対応だったとしても通じるような、とても普遍的な内容を持っていろんなことを示唆している一冊だと思う。ピュリッツァー賞納得。原文もこうしたリズムだろうか。ぐいぐい引き込まれた。何か所か今は使用が控えられる所謂"差別用語"的な言葉が出てくるが、それが効果的。良い訳だった。ただ1箇所だけ疑問。115ページの17行目、「勘定」は「感情」ではないだろうか。
映画化されるそうだが黒人が残酷に扱われる様子を見る自信がない。
投稿元:
レビューを見る
「地下鉄道」(コルソン・ホワイトヘッド : 谷崎由依 訳)を読んだ。
これは何小説と言うんだろうか。
黒人迫害という史実の中に『地下鉄道』というフィクションをぶち込んでとてつもない物語に仕上げている。
「面白い」という言葉を使うのは躊躇われるが、間違いなく一気読みです。
驚いた。
投稿元:
レビューを見る
奴隷少女のコーラは、農園から逃亡する。
奴隷たちが受ける残虐な暴力、それは彼らを匿った白人にも及んだ。
奴隷制度の冷酷さを容赦なく描写しながら、そこから逃げるのを架空の地下鉄道が手助けする。
切迫した逃亡劇に、地下鉄道が希望となって、最後までスリリングな展開だった。
投稿元:
レビューを見る
この本が書かれたこと、出版されたこと、そしてなんと日本語で読めること、にまずは感謝したい。
本当に読めてよかった。
奴隷制に限らずだが、歴史から学んだことを未来につないでいくときに物語が持つ力を私はいつも(批判的な態度を忘れないようにしつつ)信じている。この本にもやっぱり強大な魔力があった。
一人の奴隷少女コーラが、「所有されていた」農園から北へ北へと逃亡する、その手助けをするのが「地下鉄道」。史実としては「地下鉄道」というのはコードネームで、実際に物理的な駅があったりしたわけではないが、そこから発想を得てホワイトヘッドはこの本を書いたそうだ。血なまぐさく苛烈を極める奴隷への抑圧描写のあいまに挟まれる、ゴトゴト不器用に進む地下鉄道は、この時代、血塗られたアメリカの数少ない良心の象徴なんだろう。
地下鉄道は、もうない。でもその先に、アメリカ史上初の黒人大統領が誕生したことを、コーラが知れたらよかったのに。
まだ、コーラはまだ逃げ続けているんだと思う。
差別の問題は根深く複雑で、まだ一向に消える気配はないもの。でも今、私達がその歴史を知ることはけして無意味ではないし、知らなきゃいけないことだと思う。
黒人が文字を読むことすら禁じられていた時代で、ある一人の御者が言ったこの言葉。
「おれの主人は言った。銃を持った黒んぼより危険なのは、本を読む黒んぼだと。そいつは積もり積もって黒い火薬になるんだ!」(p.343)
これは作者のメッセージなのかもしれない。御者、って、物語の手綱を握る人だから。
幸いなことに、私は読むことも書くこともできる。
それはとても大きな力になるってことを、絶対に忘れちゃダメだ。
どうか多くの人たちがこの本に出会えますように。
投稿元:
レビューを見る
黒人奴隷の子供として農場で生まれ育った少女が逃亡したくましく生きる話。最初の奴隷生活の様子が生々しく気が滅入る。しんどく始まるが、逃亡生活に突入すると駆け足で話は転がりだし読みやすい。続きは気になるしすぐに読み終わる。確かによく調べて詳しく書かれているが、書き方が話題に上るような、映像化を見越してるというか、なんか鼻につく。もっと静かに重たく書く方が心に染み入るぜ。あんまり好きな書き手じゃないなあ。少女に共感できない部分がでかい。
投稿元:
レビューを見る
登場人物が多い上に、独特の文体ではじめは読みにくかった。が、慣れると引き込まれて一気に読んだ。
コーラはアマンドラ・ステンバーグのイメージで読んだ。
地獄巡りみたいな話。はじめはジョージアの農園で奴隷として酷使され、次に暮らしたサウス・カロライナでは一見親切そうな白人たちに囲まれるが、彼らの優しさは優越感から来ており、黒人の断種を行っている。次のノース・カロライナはKKKのような騎士団が名士として町を支配し、黒人と黒人を匿う白人を日常的に処刑している。テネシーでは焼けただれた集落を鎖に繋がれて奴隷狩人と旅する(訳者は「マッドマックス」風の演出が合うと書いているが、私はタランティーノがいいと思う。)。インディアナでは善き仲間に巡り会うが、仲間割れが白人につけこまれ惨劇に。もう、これでもかっていうくらい不幸が続く。これが実話に基づいているんだからやりきれない。
黒人奴隷を拷問し、最後は火炙りにするのを白人たちが豪勢な食事をしながら見物するシーンがあったけど、それも本当にあったのか?
奴隷制度では、人間を家畜として扱うが、家畜を強姦する主人はまずいない。強姦できるってことは性的魅力を感じているわけで、その点で既に同じ人間と認めてしまっていると思うが。そこに矛盾を感じなかったのか?不思議だ。
アメリカの黒人奴隷の歴史を描いた本は多いが、地下鉄道という架空の設定を持ち込むことで、様々な差別の実態を一人の視点で描ける。そこが斬新だし、だからこそこの小説が成り立っているわけだけど、個人的には心からは納得できない。東京という狭い地域でも地下鉄を掘るのは大変なのに、広大なアメリカで、一部とはいえ州をまたがる路線を秘密裏に作れるはずがないと思う。そこを呑み込めれば満点だったんだけど。
黒人奴隷が信じられないほど残酷な目にあったことは事実であり、それを残す意味では価値があると思うが。絵本『あなたがもし奴隷だったら…』も読んで欲しいと思う。あれで十分という気もする。
投稿元:
レビューを見る
装丁が気になって手に取った本なのですが、面白かった!
時代背景の知識は社会の授業で習った程度しか持っておらず、文書でぶつかってくる重さに挫けそうにもなったのですが、エンタメとしての面白さもあって集中して読めました。
この本を読んで、改めて自分が見ていなかったこと、知らなかったことを痛感したので、アメリカの歴史を知りたいと思いました。
投稿元:
レビューを見る
地下を走る鉄道はフィクション。このフィクションがなければ、読み終えられなかったのではないかと思えるほど、醜悪な歴史を突きつけられる。いろいろ考えさせられるものの、いまだ考えが整理できず。お気楽な楽しい読書ではなかったけど、読むべき一冊に出会えました。
投稿元:
レビューを見る
1800年代のアメリカ南部の黒人奴隷制度がどんなものなのか、史実に則ったフィクションによってしることができた。
産まれながらにして、日常の喜びや希望を奪われる辛さ、絶望に思いを馳せた
投稿元:
レビューを見る
現実と空想、そして過去と現在、それらが大きなうねりの中で渾然一体となる。単純な空想小説ではないし、単なる歴史小説でもない。一体と言いつつも、空想と現実の境目が曖昧という訳でもなく、史実的な物語と空想小説は扉一つのこちら側とあちら側とにきっちりと分断されている。その扉は地下へと続く扉。「地下」という言葉は物理的な意味であろうと観念的な意味であろうと、指し示すものに違いはない。隠されているということ。ただそれだけのこと。
物語を貫くものは「逃亡」ということである筈だが、何から逃げているのかは徐々に変化し、曖昧になる。大きなテーマとしての「逃亡」は、行動としての「冒険」が意味するものと違いはなく、「地下」が観念的なそれであるように「逃亡」もまた観念的な意味合いばかりが増してくる。
逃亡、あるいは冒険の過程で常に描かれるのは、見慣れたものと見慣れぬものとの対立。それとて白と思ったものが黒であったり、灰色であったり。主人公の中で芽生え育ってゆく倫理観が、幾つもの明暗の段階を刻んでゆく様が、もしかすると作家の一番書きたかったことなのだろうか。
逃亡の物語の合間には、主人公に関わった人々の短いエピソードが挿し込まれている。翻訳家の言うようにこの短い物語は、主人公の視点からは見えない価値観を手際よく読むものに投げ掛ける。その価値観の違いが訴えるものは確かに重要だと思う。けれども、少々都合が良過ぎるようにも思う。全ての出来事に意味を見い出すことが当たり前だとは思えない。キリスト教的救済の構図が透けて見えるようでもある。
対立する構図が現実の世界を席巻する今、こんなテーマを取り扱う小説を読むことは大切なことだと思う一方、対立の根源にあるものが人間という動物の闇の中に巣食う残虐性であるならば、浮世はなんと暮らしにくい所なのか、と改めて漱石のように嘆いてもみたくもなる。とはいえそれを避けたところで人でなしの国に行くしかないこともまた事実なのだけれど。
何かもやもやとしたものが残る読書。それがきっと大切な何かを喚起するのだと信じつつ。
投稿元:
レビューを見る
黒人奴隷の女性が働いていた農園から逃げ、奴隷を逃がすために秘密裏に建設された「地下鉄道」でいろいろなところに流れ着き、また追手に追われ・・はたして運命は。というストーリー。「迫害を受けた」みたいな思いをしていないせいか、あまり感情移入できなかった。
ただ、実話ではないにしても、ここで語られるようなおぞましい行為が平然と行われていた歴史を忘れるべきではないだろう。
投稿元:
レビューを見る
これもまた奴隷制度をテーマにした小説。逃亡奴隷の少女とそれを追いかける奴隷狩り。実在はしない地下鉄道という逃亡のための鉄道を舞台にした物語。SF仕立ての本作は店舗もよく読みやすいが、ずっしり度は5にも引けを取らない。社会に対する批判を取り入れてくるあたりはこれぞアメリカという小説でもある。
“『そしてアメリカも。アメリカこそが、もっともおおきな幻想である。白人種の者たちは信じている ― この土地を手に入れることが彼らの権利だと、心の底から信じているのだ。”に始まる演説がとても印象的でした。
投稿元:
レビューを見る
コーラはランドル農園の奴隷だ。
身よりはなく、仲間たちからは孤立し、主人は残虐きわまりない。
ある日、新入りの奴隷に誘われ、彼女は逃亡しようと決意する。
農園を抜け出し、暗い沼地を渡り、地下を疾走する列車に乗って、自由な北部へ…。しかし、そのあとを悪名高い奴隷狩り人リッジウェイが追っていた!
歴史的事実を類まれな想像力で再構成し織り上げられた長篇小説。
世界を圧倒した奴隷少女の逃亡譚。
ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞、カーネギー・メダル・フォー・フィクション、シカゴ・トリビューン・ハートランド賞、レガシー・フィクション賞、インディーズ・チョイス・ブック・アワード受賞!ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーAmazon.comが選ぶ2016年のNo.1。
投稿元:
レビューを見る
アメリカ南部の綿花農場で奴隷として働くコーラ。彼女の母親は幼いコーラを置いて、農場からの脱走に成功する。コーラも少し大きくなってから脱走する。地下鉄道は奴隷を救うネットワークで、本書では本物の鉄道として描かれる。逃亡した奴隷を捕まえる輩がしつこくコーラを追いかけ、苦しい逃亡生活を過ごす。人種差別の恐ろしさを描く一方で、地下鉄道を運営する人々の暖かさや覚悟に、胸を打たれた。奴隷制度が廃止されたのって、歴史上の出来事かもしれないけど、写真が残るほど最近の出来事なんだよなと、時間軸を考えると、本作品のようにきっちりと奴隷制度について伝えていくことは意義がある。日本人は奴隷になったことはないし、奴隷を所有したこともない。ただし、アジア人(黄色人種)差別をされることは、海外にいくと大小あれど経験することだ。差別からの脱出を力強く描く本作品は、白人に是非読んでほしいし、我々アジア人も読んでおくべきだ。