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もう70歳なのか、まだ70歳なのか。きっとどちらでもあるのだろう。
大楠夫婦は共にとても矍鑠としていて、若さを振り返りながらもまだまだ人生を楽しんでる。
余生は在庫処理セールじゃない。
だけど世代の違いや収入格差が切ないほどに人を分かつし
防衛本能が他者を取るに足りないものに変えてしまう。
その様を見ていて悲しかった。
成り行きで行動してしまうことが多々あって、だけど人生、成るようにしか成らないとも言える。
多くの成り行きの上に今、割と楽しんでる自分がいる。
その成り行きを満足のいくものにする為の、ほんの少しの覚悟がこの物語には描かれていた。
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さらさらと読めたが、もう少しひっかかるところがあったらよかったような。
シニア夫婦間の心の機微はよく描けていると思うが、まとまり過ぎ、あまりに穏やか過ぎで、肩透かしを食った気がしてしまう。
また、一樹の心の中も、もっと奥まで覗きたかった。本人もなぜ自分がこんな行動をするのか掴みきれていないが、その悪意の素は何なのか、ちらっとでも見せてほしかった。きっと自分も同じようなものを隠し持っているような気がするから。
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第35回織田作之助賞受賞作。
72歳の大楠昌平と69歳のゆり子の老夫婦。
昌平が事故に遭い怪我をして、通院のためにサイクルショップで偶然出会った26歳の青年石川一樹に、お金を払い、車で送迎を頼むことに。
ついでに、家の中の掃除や庭の手入れなども頼みますが、一時は隣家の住人に勝手に切られた植木に対して文句を言ってくれた一樹に対して頼もしい気持ちや親しみを覚えますが、次第に一樹によって家の中は不穏な空気に包まれていきます。その時のゆり子や昌平の不安感が上手く描かれていました。
人は老いてくると若さというものを頼りにしていたのが、形勢が変わってしまえばすぐにも恐怖にさえなってしまうのですね。老いは誰もが避けられない道だし非常に怖いことだと思いました。
もしかしたら、一樹の側に立って、鼻持ちならない老夫婦だと解釈する読者がいるとしたら、もの凄く怖いと思いました。
一樹のいいかげんさに途中までなんだか気持ちの悪い話を読んだ気持ちにさせられましたが、最後はハッピーエンドとはいえませんが、一樹も人間らしい一面がうかがえました。
ただ、これはお話ですから、実際にこのようなことが起きたら、それではすまされないような気がしました。
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なかなか良い人情話だった井上荒野(アレノ)作品。夫婦二人住まいになった昌平72ゆり子69は健康の為に始めたクロスバイクに嵌まり日々楽しんでいたがパンクした時に立ち寄った自転車店で好感度の青年に修理して貰った。その後、昌平が交通事故に遭い不便な生活を余儀なくされていた時に偶然の出逢いで家政夫まがいの通い仕事をくだんの青年にして貰うことになるのだが......
人を信じること信じられることの機微が語られる作品。
寸前に読んだエッセイ集「夢のなかの魚屋の地図」の余韻が残っているので随所に"なるほど部分"があるのも納得でき楽しく読めた♪
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どんな展開になるのかと、おもしろく読む。
ジワッと泣ける部分もあり、自分が歳を重ねつつあることを実感しつつ、一方で一樹に希望を持ちつつ。
昌平とゆり子夫婦、長く生きてるぶん大人でした。
途中ソワソワしたけど、最終的にホッとした。
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泣けた…老いが近いものとしては…
若さとは本当に残酷なもの。そして、持てるものと持たざるものとの溝は深い。
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人は必ず老いる。どのように人生を経て、老い、それを受け入れて生きてゆくのか。若さはズルイ。ずるくて弱い。それでも純粋な部分を解ってくれる大人がいれば少しは変わるものだ。老夫婦と若者の出会いが彼らの心と生き方をすこしだけ動かすストーリーは、なんだか春の陽射しのようで暖かい気持ちになった。
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面白くてあっという間に読んでしまった。
穏やかな老夫婦のもとに、人を殴るのが気持ちいいというヤバめの若者が家事手伝いに来る段階で、どうか相互に良き影響を与える話であってくれ…と祈った。
実際はどうだろう、若者は詐欺まがいのことをし関係は崩壊するが、老夫婦は困難を解決できたことで自分に自信を取り戻し生活は活性化した。
若者の方も、たまたま気持ちがそっちに振れて悪事をしてしてしまっただけで、多分もうああいうことはしないんじゃないか。
老夫婦、50万円を詐欺られそうになった時に子供に相談しないし若者の身元を調べようともしないし悪手を打ってばかりで、これを回避できたのは本当に運がよかっただけなんだけど、
でもこれは詐欺だという結論を2人で話し合って出せた、その点がすごく良かったな。
きっとこれまでもそうして知恵を絞って支え合ってきたからこの穏やかな老後があるんだろうなと思った。
しかし老夫婦がロードバイクで走る描写、普段電動自転車に乗っている身として肩身狭かったな〜。
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*定年後の誤算。一人の青年の出現で揺らぎはじめる夫婦の日常―*
なんともはや。
巧過ぎます。
老夫婦の寄る辺なさ。どちら側にも簡単に揺れてしまう青年の脆さ。
最後は「だまされていることじゃなく、だまされちゃいけないと言うことに気が付いた」老夫婦に軍配が上がってほっとしましたが、「いつでも誰かや何かが、したくないことを俺にさせる」青年は何処にたどり着くのでしょう・・・
なんとも言えない寂しさの残る読後感ではありますが、双方の心の機微が痛いほどに伝わってくる、巧みな表現力に脱帽です。
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Eテレのネコメンタリーという番組で、井上荒野さんが出ており、言葉選びにこだわっているという事をおっしゃっていたので読んでみたくなりました。井上さんのご著書は初めて読みます。
上品な老夫婦のもとに、上司を殴ってクビになった青年が現れ、家事手伝いのバイトをすることになる。
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人生の終盤、老いの現実に揺らぐ夫婦と、身の振り方が定まらず迷える20代半ばの青年との関わり。
どの年代もそれぞれの葛藤がありますね。
会う度に小さくなる私の父母が、肩寄せあってふたりで暮らしていることを想いながら読みました。
穏やかな老後の生活につむじ風がたったくらいの、何気ないストーリーです。それをこんなにも豊かに描きあげているのは素晴らしい。
老夫婦の心の機微、その形容しがたい心の細やかな動きを、身を置く場所、会話、見るもので表現しています。
丁寧な書き筋に、品の良さを感じる作品でした。
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なかなか面白く、すぐに読んでしまった。
大楠夫婦が一樹に騙されず、果敢に立ち向かっていくところがよかった。ゆり子さん凛々しい。
それにしても一樹の言動が嫌。根っからの悪人ではないとしても普通の人は誰かを殴りたいなんて思わないよ、、
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井上荒野さん、すっごく丁寧に描かれる方で読んでると気持ちがほっこりする。
今回は、大楠老夫婦がなんだか影のある?アウトロー的な雰囲気の青年とのやりとりでちょっとハラハラするストーリー。
真実から目を逸らすというか、無かったことにしたいズルさとか、偽善とか、あまり直視したくない人間の嫌な部分を描かれていて座り心地が悪いムズムズする本でした。
でもラストは、人生の年長者、先輩はやはり一枚上手だしみくびってはいけないとビシッとカッコいい作品でした。
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うーん、よかった。今、自分の口角が上がっているのがわかる。あと味悪くないラストでよかったとホッとしたのだ。
上品で健康で金持ちで呑気な老夫婦、おまけに仲がいいとくればもう、申し分のない二人だ。子供達もそれぞれに幸せで。そこにささやかに波風を立てることになる一樹、こちらも本当の悪党ではないからまずいことにはならないのだった。
素敵だったな、ゆり子さん。
この手のワールド、得意だよなぁ荒野さん。
一樹が春子と一緒になって、まっとうな職を得て子供に囲まれて幸せになったんたらいいなぁ。
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あるところに、荒くれた若者がいました。若者は根っからのクズではないものの、すさんだ生活をしていました。ある日、善良なお爺さんお婆さんと出会い、若者は老夫婦のお手伝いをしていくうちに、素直な心を取り戻していったとさ。めでたしめでたし。とすんなりちゃんちゃんといかないのが井上荒野。もうクライマックスがヒヤヒヤ。地面に放置された金魚のように呼吸困難になった。若者でもなければ老人でもない私は、誰に感情移入しているのか?さっぱりわからないが双方の心の機微がうまいのでかなり面白かった。結論:スポーツはやっぱりイイネ!