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シーラッハの何冊目かの短編集。
今回も犯罪や事件に関しての話がいくつか。
本当なら、きちんと刑罰が与えられるはずなのに、法の目をかいくぐる、あるいは周りをうまくだます、言いくるめるなどして、正当な刑罰を逃れた人たちの話。
相変わらず、余計な装飾を省いたすっきりとした書き方、ストレートすぎて余韻も何もないなぁ、などとは思わない。
そういう文体に慣れてしまったというか、潔い。
きちんと刑罰を受けていたらこんなことにならなかったのに、などという話が面白かった。
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書かれていることと書かれていないことの間にあるものがとてつもなく重いです。
こういう小説を読むと「何を表現しないで想像させるか」ということと「そこで伝えたいものが確実に伝わるのか」がいかに大切かということを考えさせられます。
長さじゃないなとも思います。
実際にあったことを元にした小説集だけに一段と内容の重みややるせなさが沁みます。
著作は半分くらいしか読んでいませんが、とても気になる、今後も注目したい作家です。
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どの話も悲しい。読んだあとは暗くなる。そんな短編。その文体に最初戸惑ったが、テンポよく読める。淡々とした箇条書きのような文体が、余計に物悲しく思えるようだ。
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刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ著
いびつな救済が心をえぐる
2019/8/3付日本経済新聞 朝刊
シーラッハの短篇(たんぺん)集『犯罪』を読んだとき、これはドイツの吉村昭ではないかと思った。様々な事件や犯罪者たちと関わる弁護士の「私」の物語は、怜悧(れいり)な文体で犯罪者を見つめる吉村の短篇「秋の街」や「秋の街」が発展したような傑作『仮釈放』を想起させた。
つまり人間の精神と犯罪の関係を捉える深い洞察があり、社会的環境での弱者たちへの同情がある。何よりも叙述は冷静で、私情をはさまず、あくまでも観察に徹する強靱(きょうじん)な文体が似ていた。
本書『刑罰』は、罰(原題STRAFE)をめぐる短篇が12作収録されている。弁護士の「私」を主人公にした『犯罪』『罪悪』などの連作とは異なるけれど、ここでも犯罪を正面から凝視している。
たとえば、赤ん坊殺しの罪で服役した母親が本当の自分を発見する「青く晴れた日」、浮気した夫に復讐(ふくしゅう)する「テニス」、危険な自慰に耽(ふけ)る夫を侮蔑する「ダイバー」、薬物依存症の富豪が罪に囚(とら)われる「友人」、犯罪組織のボスの弁護に女性新人弁護士が苦悩する「奉仕活動」など、罪を犯してもゆるがない者、自分の罪に後悔を抱く者、切迫した衝動に身を任さざるをえなかった者など、多様な肖像を意外な観点から照射して、読者の脳裏に焼き付ける。
『犯罪』や『罪悪』には、エンターテインメント的なプロットで読ませる作品もあったが、人間の業を深く見すえて、象徴性を高める純文学的な作品が目立った。
本書『刑罰』では、その象徴性がより強くなり、人物の名前などは削(そ)ぎ落とされ、文体はいっそう簡潔になり、抽象化されている。それでいて細部の手触りは生々しく緊密で、息をつめて読んでしまう。ねじれたユーモアで運命の残酷さを際立たせるところもあるが、全体的に静かで、ときに異様に狂おしく、ときに異様に澄みきっていて、胸をえぐられる。それは皮肉な運命に対する理解と同情が、ある種の救済として示されるからでもあるだろう。このいびつな救済もまた吉村昭にあるが、シーラッハのそれはいちだんと鋭く、再読したい誘惑にかられるほど。
ともかくここには、名人芸とよびたくなるほどの鮮やかな語りと、心が震えるほどの深遠で複雑な人生の姿がある。まさに必読の傑作だろう。
《評》文芸評論家 池上 冬樹
(酒寄進一訳、東京創元社・1700円)
▼著者は64年ドイツ生まれ。94年からベルリンで刑事事件弁護士として活動。著書に『犯罪』『罪悪』など。
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復讐を果たして罪に問われず、スッキリするケースあり。法に則ったがために罪ある者が釈放されて、歯噛みするケースもあり。法は万能ではない。
プリンスがそんなに小柄とは知らなかったな。
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不条理にからめとられた人の虚無感や孤独、消しようもない苦しさが重い。やるせなくてしんどい。でも読んでよかった。簡潔で淡々とした文体がとても好みだった。他の作品も読みたい。最新作はエッセイ集で "Kaffee und Zigaretten" なんてもうタイトルだけで読みたい。
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"「おれは物乞いじゃない。ウサギ小屋を持っていてね。四匹飼っている。毛並みがふわふわなんだよ。毎日、野菜を与えている。金なんていらない。なにもかも静かに話せる相手がほしいんだ。自分ではもうなにも理解できない」"(p.196)
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最初は淡々としすぎる文章に馴染めなかったけど、読み進めるにつれて魅力がわかってきた。
たった数ページ、十数ページでここまで物語にずぶずぶに浸してくるのすごいと思う。湖畔邸以降4篇が好きです。
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黒いダイバースーツを身につけたまま、浴室で死んでいた男。誤って赤ん坊を死なせてしまったという夫を信じて罪を肩代わりし、刑務所に入った母親。人身売買で起訴された犯罪組織のボスを弁護することになった新人弁護士。薬物依存症を抱えながら、高級ホテルの部屋に住むエリート男性。―実際の事件に材を得て、異様な罪を犯した人々の素顔や、刑罰を科されぬまま世界からこぼれ落ちた罪の真相を、切なくも鮮やかに描きだす。
昔読んだ、バリー・リードの「評決」を少しだけ思い出した。
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面白かった。
さすがシーラッハ。ドイツ屈指の現役弁護士の底力。
ミステリとも文学とも分類不能で、必ずしも法廷が舞台でもなく。「シーラッハ」一人で1つのジャンルみたいだ。
どの話も、シリアスな状況であまり楽しくない事件があって幸せとは言い難い結末がつくのに、淡々と語り進められて、重いのに読み易い。翻訳にも恵まれているのかな。
ただ読後感は、我が身に引き寄せて考えさせられるという感じではなく、世の不条理さを突きつけられて諦観を強いられるといった感じ。どっちがいいとかじゃなくね。
その中でも「奉仕活動」の一遍は、現実を突きつけられて出鼻を挫かれそうな新米弁護士の話で、多少はセンチメントを感じられるかな。
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『刑罰』は、裁判について考えさせられました。
短編で、私が最初読んだ時本の内容を受け止める
のには体力が必要でした。
大人な話もありますのでそこも理解して読んでく
ださい。
あと、表紙がアレなので周りの目が気になる人は
カバーを外しておくのがオススメですよ^^
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一気に読み終わった。無駄のない文体で、遡らなくても内容がすっと入ってくる。
思わず感情移入してしまうような事情や心のひだと、法の動かなさのコントラストが見事。法では裁ききれない罪を通して、人生の滑稽さや哀愁が浮かび上がってくるのが、すばらしかった。
とくに好きだったのは、「青く晴れた日」「隣人」「湖畔邸」「友人」。
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自分の背負っているものに耐えられなくなりそうな時、読みたい本。
どの短編も悲しみに満ちているが、心地いい読後感。
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初の短編集でデビュー作の「犯罪」(2009)から9年。12作を収録。「犯罪」よりはいくらか柔らかい雰囲気もただようが、やはり硬質でぎっしり詰まっていて、読んでるとつぶされそう。
「参審員」
アメリカや最近の日本での陪審員になった若い女性。その女性の生真面目な成育歴と、参審することになった裁判が描かれる。この裁判は、夫がことのほか細かく、ポストイットに、「すすいでおけ」「これはクリーニングする」など家庭内の事すべてに指図する。妻に暴力をふるい過去に4回有罪判決を受けている。・・陪審員の女性は妻に孤独な自分を投影し、泣いてしまう。被告の夫は拘留を解かれるが・・・ ああ、もう何たる・・ 「犯罪」に載っていた「フェーナー氏」とちょっと似ているが、こちらの方が結末は奈落。
「逆さ」
後ろから銃で撃たれた男。その事件の被疑者の国選弁護人になった弁護士の目線で進む。ある証拠が「逆さ」だ、と過去に弁護したゴロツキのヤセルから言われる。これは普通のトリックミステリーみたいだ。・・しかし最後に、どうしてわかったんだ? と聞かれた時の「ヤボなこと言うな」というヤセルの言葉の意味は?
「友人」
子供のころの友人リヒャルト。リヒャルトの人生の出来ごとが語られるが、静かだが、ゆったりと気持ちが沈殿するようだ。私は刑事弁護士になって20年、とあるので自身の回想もはいっているのか。
2018発表
2019.6.14初版 図書館
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どのお話しも読み終えた時になんとも言えない空虚さ、無情さを感じた。。犯罪を犯す人の心理、自ら死に向かう人の心理は、やっぱり私には想像もできないんだと思ったし、制度のむなしさも感じた。必ずしも条文が正しいわけではない。人が作って人が運用している以上完ぺきではないというのは法も同じだな。初めて読む著者さんでしたが、ぞわぞわする文体・話で、なかなか良かったです。。
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刑事事件専門の弁護士だった著者が実際の事件を題材にして書いたようだが、タイトルから受ける印象が最後に揺るがされるような、ブラックユーモア?というか皮肉?的な話に、「事実は小説より奇なり」と思わされてしまった。
どこまでが事実かということよりも、法律では裁けない、偶然の積み重なりを数多く見てきたから、こういう風にリアリティを持ったものが書けるのかな…とても興味深く読めました。
教えていただいた、Riverside Reading Clubさんに感謝!
https://book.asahi.com/series/11030854