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なにが腹立たしいかと言えば、料理の描写がないことだ。
舞台はカルカッタ、インドである。
スパイスの宮殿、食材の宝庫。
人が期待するものといえば、美味いものではないか!
イギリスとインド両方の流れを汲む「アングロ・インディアン料理」(134頁)なるものがあるという。その店『グラモーガン亭』の由来からすると、ウェールズ+ベンガルかなと推測するが、それがどんなものかの描写はない。一切ない。
『この店のキャラメル・カスタードはインドでいちばんおいしい』(137頁)らしいが、さっぱりわからない。
色も形も香りも、かたいのかやわらかいのか、たっぷりあるのかちょっぴりしかないのか、なにもさっぱりわからない。
魚が好きという現地ベンガル人の好物、『この地方でしか食べられない』(280頁)魚「ヒルサ」についても名前だけ。
何の肉か謎めいている「ステーキ」についても、同じくただ「ステーキ」という文字だけだ。
主人公サミュエル・ウィンダム警部は、たいへん残念なことに、食べ物にあまり関心がないらしい。
とはいえ、まったく無関心でもないのだ。
たびたび口にすることになる、まずい料理の描写が、極めて優れているのである。
いや、失礼、ただまずいのではない。
『“まずい”と“食えたものじゃない”のあいだくらい』(324頁)だった。
魚のフライ、つけあわせの野菜、ケジャリー、オムレツ、肉のロースト、ヨークシャープディングetc....
時に短くあるいは長く、直接的または婉曲的に、それらについて述べる皮肉とユーモアは、文学的素養と教養の無駄遣いと言うべきか。
読む価値があるそれらは、ぜひその目で見て味わって、顔をしかめたり、半笑いのまま固まったりしてほしい。
そして、彼のその才能は、まずい料理にだけではなく、彼を取り巻くあらゆる点について発揮される。
『建設様式はコロニアル・ネオクラシックと呼ばれるもので、円柱やコーニスや鎧戸つきの窓などが特徴となっている。塗装色は臙脂。もしイギリスのインド統治に色があるとすれば、まさにこの臙脂だろう。警察署から郵便局に到るまで庁舎の大半が、この色で塗装されている。おそらく、マンチェスターかバーミンガムあたりの小ざかしい塗装業者が、インド統治政府のすべての建物を臙脂色に塗る契約をとりつけて、がっぽり稼いだのだろう。』(44頁)
街や建物の様子が色鮮やかに目に浮かぶ描写から、母国イギリスのありようにさらりと向かう。
よいのは、さらりとして湿っぽくなく、腹に溜めたなにかがないということだ。
この皮肉は、イギリス統治下におけるインドカルカッタについて、あらゆる点に及ぶ。
建物、社会秩序、組織、イギリス人、インド人、そして自分自身・・・・・・
サミュエルは、過去の色々のために、祖国イギリスについての愛着を失い、達観している。
といって、やってきたインドに、まだ馴染んでいるわけではない。
ちょうどイギリスとインドの間にいるようなこの立ち位置は、どこから生まれたのだろう?
作者アビール・ムカジーはロ���ドン生まれ、インド系2世である。
『自己のアイデンティティを確立するために、イギリスがインドを支配していた時代を理解しなければならないと思った』(あとがき)のが執筆の理由だそうだ。つまり、生まれ育ちはイギリスだが、そのルーツはインドにある。
なるほど、著者がそうであるならば、物語のこの視点も腑に落ちる。
加えて、彼が20年間会計士として働いていたというのも、役に立ったかもしれない。
インドを統治することで、イギリスの収支はいかほどか?
イギリスに統治されることで、インドの収支はいかほどか?
この見方があればこそ、イギリスと、その統治下のインドについて、どちらにも肩入れのない思考ができるのではないか。
あっちが悪者こっちは被害者というような、そんな浅薄な、使い古されて見飽きたような描写はひとつも見当たらなかった。
『イギリス人とインド人って』(135頁)と、登場人物の口から述べられた見解など、私は初めてきいた。
はあ、こんな見方もあるのだと、驚きうなってしまったくらいだ。
まあ、これも、いわゆる「イギリス人」が書いたとしたら鼻白むだろう表現だが、著者はインド側の人物なのである。
さらにつけ加えるならば、彼はスコットランド西部に育ったらしい。
なるほど、スコットランドやスコットランド人に対する描写が、遠慮なくのびのびしているわけだ。
その筆の軽さと鋭さに、たびたびニヤリとさせられる。
人物描写が巧みで、登場人物は魅力的だ。
これきりでいたくない、また会いたいと思う人々ばかりだが、そう思うのは私だけではないらしい。
デビュー作にもかかわらず、この作品はシリーズとなり、さらに3冊も出たという。
舞台は1919年。話が進めば、時間も進み、イギリスとインドの関係も必然的に変化していく。
ウィンダム警部とその周りの人物たちとの関係も、それと無関係ではいられない。
これからの話がどう進んでいくか楽しみである。
そして2巻以降は、ぜひ料理の描写を、美味なるものからそれ以外のものまで、このすばらしい筆致で著わしてくれることを望む。
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時は一九一九年。舞台は英領インド、カルカッタ(今のコルカタ)。スコットランドヤードの敏腕刑事だったウィンダムはインド帝国警察の警部として赴任して間がない。第一次世界大戦従軍中、父と弟、それに結婚して間もない新妻を失った。過酷な戦闘で自分一人生き残ったこともあり、生きる意味と意欲を喪失し、アヘンに溺れていたところ、かつての上官で今はインド帝国警察ベンガル本部の総監タガートに誘われ、カルカッタにやってきた。
ミステリもいろいろ読んできた。舞台もアメリカ、ロサンジェルスをはじめ、イギリスのロンドン近郊、さらに最近ではノルウェーのオスロも仲間入りし、いよいよ国際的になってきた。しかし、インドが舞台というのはめずらしい。交易の中心地として栄えてきた、東洋の星と謳われるカルカッタ。時代は第一次世界大戦直後。アヘン中毒の現職刑事が主人公とあっては、ちょっと読んでみたくなる要素が揃っている。
事件はめったに白人が立ち入らない地区で起きた。タキシードに黒い蝶ネクタイの白人が喉を掻き切られ、口の中にメモを詰め込まれて発見された。被害者はインド副総督の側近中の側近で、ベンガル州行政府財務局長。口中に残されたメモに「インドから出て行け」という意味のメッセージが記されていたことから、警部補のディグビーは政治がらみの犯行と決めつけるが、現場近くの娼館の窓からこちらを見ていた女の顔に怯えが浮かぶのをパネルジー部長刑事は見逃さなかった。
冒頭、矢継ぎ早に重要な手がかりが提示される。補足説明しておくとディグビー警部補は白人で、警部昇進がほぼ決まっていたところを、タガートがウィンダムを呼び寄せたあおりをくらって話がフイに。何とか事件を解決し、昇進へのバネにしたいという思いがある。パネルジーは現地の名門の出でケンブリッジを卒業した俊才ながら、独立後のインドには、土着の人間が大量に必要になることを予想し、親の反対を押し切り、警察に入ることを決めた理想家肌の青年。うぶで女性と口をきくことが苦手。
ウィンダムはインフルエンザで死んだ妻のことが忘れられずにいるが、被害者の秘書をしていたアニーというインドとイギリスの混血美女が登場すると、すぐにデートに誘っている。アニーは頭がよくて活発、男の前でも積極的に意見を言う好ましい人物だが、高級レストランでは入店を拒否される。アングロ・インディアンであることはインド人からもイギリス人からも差別の対象となる。
当時のベンガル州ではインド独立の火が燃え盛っており、独立を目指す組織による火器弾薬を手に入れる資金確保を目的とする、列車襲撃事件も起きていた。軍情報部H機関を率いるドーソン大佐は、ことある如く捜査に介入し、事件をH機関の管轄下に置くことを要求してきていた。そんな時、四年間も潜伏中だった革命組織のリーダーのアジトが見つかる。列車襲撃と殺人事件の関係を追うウィンダムはドーソン大佐を出し抜き、単身アジトに乗り込むが銃撃され右腕を負傷、あわやというところをパネルジーによって助けられる。
宗主国の人間であるウィンダムは、それまで英国人による露骨な人種差別を当然視していた��、アニーやパネルジーと行動を共にするうちに、どうもおかしいと思い始める。そこに、イギリス人からは悪魔のように罵られる革命組織のリーダー、ペノイ・センが現れる。何が何でもセンを死刑にしたいドーソン大佐とちがい、ウィンダムは真実が知りたい。尋問を通じて、センは非暴力への転向を真剣に考える悔悛した革命家で、ただのテロリストではないことも判明する。ウィンダムはセンの無罪を明らかにしたいと思う。
宗主国と植民地、英国人とインド人、分かりきった対立軸とは別に、同じイギリス人であっても、英国内では到底芽が出ない、いわば二流の貿易商でも、ここインドではまるで王侯貴族のような生活が可能になる。そういう暮らしを続けるためには、行政府との関係を密にし、より権益を得るために賄賂を贈り、供応を繰り返す必要がある。その一方で、所詮植民地における栄耀栄華は当地だけで通用するものという、本国に対する劣等感は誰もが抱いている。入り組んだ植民地意識が、今回の事件を複雑にしている。
ガンジスの支流ながら、死体を焼く儀式も当然登場する。熱帯の酷熱と湿気、中国人が経営する阿片窟、唯々壮大さを誇張した建築物、と純然なミステリでありながら、キプリングの『少年キム』等に始まるインド亜大陸を舞台にした冒険活劇風側面を持つ。ウィンダムの一人称による語りなので、主人公の心の動きを追ってゆけば、実行犯は意外に簡単に絞り込める。ただ、それとは別に殺人を引き起こすに至る複雑な人間関係の網の目が存在する。
独立インドを夢見る憂い顔の青年。射撃の名手で捜査能力に秀でたパネルジー部長刑事とバディを組むことで、アルコールとアヘン、モルヒネに頼りがちだったウィンダムも少しずつ生きる意欲が回復する気配が仄見える。食事のまずいゲスト・ハウスを払って、パネルジーと下宿をシェアするまでに至る二人は、ひょっとしたら、これからもコンビを組んで難事件にあたるのだろうか。ひねりのきいたトリックや異常心理、陰惨な犯行を繰り返すシリアル・キラーとは無縁の、古き良き時代の探偵小説を思わせる仕上がりが、刺激の強い新作に食傷気味のファンの心を慰撫してくれる。二〇一七年英国推理作家協会賞受賞作。
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警察ものでバディもの。時代はイギリスがまだインドの統治をしていた頃。
戦争でたくさんの死を見、また病で妻と子を失った男とインド人ながら優秀な成績でケンブリッジ大学を卒業し、法執行官として生きることを選んだ青年。
二人が挑むのは、イギリス人の高級官僚の惨殺事件。
楽しかったです
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1919年、イギリス統治下のインド・カルカッタでイギリス人の政府高官が殺され、口にはイギリス人に対する憎悪を綴ったメモが押し込められていた。
その後列車が襲われ保安員が殺される事件が発生。
捜査を担当するのはカルカッタに赴任してきたばかりのウィンダム警部、その部下ディグビー警部補、インド人部長刑事のバネルジー。
捜査を進める中で二つの事件を結びつける犯人として革命組織のリーダーが浮かび行方を追うが、軍情報部も横槍を入れてくる。
イギリス統治下のインドで現地人差別が公然と行われ、少数のイギリス人が政治も経済も握り、イギリス人同士での権力や経済を巡っての暗闘が繰り広げられる。インド人たちの中では当然抵抗勢力が湧き上がり、それを阻止するために強引過ぎる抑圧が行われる。
警察は必ずしも自由な捜査が出来るわけではなく、軍や政府との軋轢の中でうまく立ち回らなければ明日の仕事の保証すらない。
そんな中でウィンダム警部たちはどう真実に辿り着くのか、というのがこの作品の本筋。
しかしこのウィンダムが何とも頼りない。
スコットヤード時代は優秀だったらしいが、妻の死や戦争体験などのストレスから、今はモルヒネと阿片がなければ精神を維持できないような状況。
さらに被害者の秘書でイギリスとインドの混血美女アニーに恋をしてしまって、いけないと思いつつ請われるままに捜査状況を話していしまう始末。
また部下のディグビーも実はウィンダムがカルカッタにやってきたせいで昇進を阻まれていて、事件解決を早期に成し遂げ出世したいというのがミエミエ。昇進のためであれば後ろ暗いことはやってしまいそうで、どうにも信用出来ない。
そしてインド人刑事のバネルジー。三人の中では一番誠実で勤勉でウィンダムの指示を確実に迅速にこなしていく優秀な警察官に見えるが、インド人であるが故に度々不快な思いもしている。
ウィンダムはバネルジーに対しては(他のインド人に対してもだが)割と公平に接しているし信用出来る部下として扱っているが、バネルジー自身の心中はどうなのか分からない。
この奇妙なトリオで事件の捜査は進められていく。
捜査の方は序盤に出てきた数々の手がかりをほっぽり出して革命家センにばかり視線が向いているのはどうなのかと思っていたら、中盤から軌道修正されて面白くなってきた。
ただ読み進めていく中で「なんか怪しいな」と思っていた人々が悉く後に何らかの形で事件に関わっていたというのが分かり、あからさまだったのが残念。
もっと何かすごい奸計というか陰謀があるのかと期待していた。
『イギリスの中産階級の男たちは、ここに来て、権力と栄位を手に入れ、のぼせあがる。ふと気がつくと、召使いにかしずかれ、服まで着せてもらえる身分になっている。それを当然の権利のように思い始めるのは時間の問題よ』
イギリス統治下のインドだけではない、この時代世界中のいろんな場所でこんな状況が起こっていた。
インド系移民二世のイギリス人作家が書きたかったのは事件の真相よりも何よりもこういうことだろうか。
結末はちょっとホッと出来る。
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ちょうど百年前の1919年、英国統治下のカルカッタに赴任したイギリス人警部が直面した、英国人政府高官の殺人事件を描いた一冊。東洋の星と謳われた交易都市を舞台に、政治と人種差別と友情が入り交じる物語。
ただ、殺人事件の謎解き自体は単なるミステリー小説で、特別優れたものではなかったし、オススメできる面白さでもなかった。
単に百年前のイギリス統治下のインドの状況が本著に特異性を与えていて、ストーリーは退屈ながら最後まで読み切ってしまった。
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それなりに面白かったが、特に感想らしい感想はわかない。あらすじを読んで期待しすぎたのかもしれない。
当時の情勢やインドでの生活についてはしばしの描写から垣間見ることができたのはよかった。
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時は1919年、インド、カルカッタ。
イギリス統治下にある町のうらびれた小路でイギリス人高級官僚の惨殺死体が発見される。
事件の展開から特権階級の利権がらみのスキャンダル隠しの匂いがぷんぷんするよくありそうな話。
東と西の洋の交わる場所で独特な情緒、社会事情、人間模様を背景に繰り広げられる展開が特徴的。
結末は風刺的な意味もあるのだろうかね。
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インドが舞台のミステリーなんて、読むのは初めてじゃなかろうか。描写が素晴らしくて、ぐいぐい引き込まれて読んだのだけれど、宗主国と植民地、差別もいっぱいで、今からしたら「なんとまあ」なんだけど、この時代にはこれが当たり前だったんだよなあ・・・と。もしこの物語をイギリスではなく日本にしたら、舞台は上海あたりになるのかしら、そしたらもっと陰鬱な話しになりそう・・・なんて思いながら読んでた。
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1900年代前半イギリス統治下のインドでのミステリー。
ミステリーもまずまず面白かったが、その時代のインドの様子が興味深かった。
ミステリーとしても次作に期待。
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シリアスなんだけどどこかコミカルな雰囲気が良かった。作者はイギリス育ちのインド系移民。イギリス、インドどちらに対してもフラットに俯瞰した歴史的事実を背景にストーリーが展開するので、お勉強にもなります。
次の作品は積読状態ですが楽しみにとっています。
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図書館で。
当時の世界情勢とか、主人公の生い立ちとかが頭に入るのに少し時間がかかりました。なんか老成した結構年配の主人公というイメージだったんですが思ったよりも若いのかも?とか。
人の国に乗り込んでいって支配して、さらに地元民に好かれようなんて随分と都合の良い話だな~って思いますが、まぁ多かれ少なかれ植民地時代はそういう意識だったんだろうな。近代化したのは誰のおかげだ、みたいな。頼まれたわけでもないのにねぇ。
個人的には彼に頼まなくても、女の子ぐらい他で調達できなかったのかな~とか思いましたが… その辺りも時代背景の一部なんだろうか。主人公があまり好きなタイプでは無かったので続きは良いかな…
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著者は1974年ロンドン生まれのインド系移民二世で、デビュー作の本作は2017年にイギリスで刊行され同年の英国推理作家協会(CWA)賞エンデバーヒストリカル・ダガー(歴史ミステリー)賞を受賞した。
小説の舞台であるインドは、1858年から1947年迄イギリスの植民地だった。
1919年インド・カルカッタでイギリス人の官僚が治安が悪く白人の寄り付かないブラックタウンの道端で惨殺された。イギリスから派遣されているウィンダム警部と現地人で新人部長刑事バネルジーが捜査に当たる。
翌日、列車強盗が発生し列車保安員が殺された。1時間に亘って強盗団は列車を止めたものの何も盗らずに逃走した。
容疑者は、逃亡中のテロリスト、センの可能性が高い。帝国情報部と警察で彼を逮捕する。
植民地下のインドに、支配する側の少数のイギリス人と大多数のインド人の対立、イギリス人警部ウィンダムと現地人バネルジー刑事の協力、貧困と富裕、白と黒、様々な対称の中で次々に起きる事件に時代背景とカルカッタの景色を感じながら楽しめる一冊です。ストーリーのテンポも良く、枝葉末節な展開も無い、まさしく一気読みの物語です。
またユーモアもとてもいい。犯人が捕まらない事で同宿の者 が''おちおち眠っても居られない…''と言うとウィンダムは''被害者は歩いている時に殺されたんだ''と心の中で呟く。
救急車で運ばれたウィンダムが降り際に医師が片手を出して来た''心付けがいるのか、お金を差し出した…''医師は馬鹿かといった顔でウィンダムを見た。
ウィンダムとバネルジーの続編は現地では2018年に刊行され、日本語訳(ハヤカワポケットミステリー)では''マハラジャの葬列''として2021年3月に刊行され3作目も間もなく翻訳盤が刊行される。
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1919年英国統治下のインド、カルカッタが舞台。スコットランドヤードの警部のウィンダムとインド人の刑事バネルジー。英国政府高官が殺害されたことから始まる捜査。イギリス人とインド人の価値観、文化、暮らしの何もかもが違う。その時代やインドの街並みがとても興味深い。インド人への差別、イギリス人への恨み、怒り。そういったものが捜査にも影響しながら真実を見つけ出そうとする二人の息が徐々あってくるのがいい。この時代だからこその空気感があってとても面白い。続けて続編を読みます。
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2022.3 まずは訳がうまい。テンポよく、読みやすい。説明文が少なく会話が多いのもいい。最後はあっさりとしているけれど楽しめました。
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ご推察の通り、ミステリー小説。
レビューっぽい注意喚起(?)をするとしたら冒頭の惨たらしい事件現場さえ乗り切れば、後は赴任ホヤホヤの主人公、ウィンダム警部とのカルカッタ・ミステリーツアーに乗り出せば良い。もっとも、彼の長々とした推察や独白に付き合うのには忍耐を要したが。
植民地時代のインド…知っているようで知らないことが多すぎる。初耳は初耳でも、これはワクワクできる部類の初耳!
例えばイギリス人がインドにもたらした価値観や文化によって花開いたベンガル・ルネッサンス。それから、ローラット法。危険とみなされた人物は令状や裁判なしで投獄可能とされる悪法。対象者はインド人に限定されているに等しい…
天候不順なヴィクトリア朝のロンドンも良いけれど、こちらも案外怪事件が巻き起こる抜群のロケーションなのかも。ヴィクトリア朝時代から時代が下っても往時の英語を話すインド人がいる一方で、大英帝国の威光に翳りが見え始めているあたりが物語に渋みを与えている。もちろん良い意味で。
「われわれがこの国を支配できるのは、道徳的な優位性のせいなのだ」
「わたしたちは神に仕えるのではなく、富に仕えているのです」
支配される側(インド人)は命までもが秤にかけられる。イギリスに限らず支配する側にありがちだった行為かもしれないが、想像以上に非情なのが端々から読み取れる。
こちらは「立場」の面になるけれど、一見公平そうなウィンダムですら両者に線引きをしていた。(インド人部下のバネルジーをただの「お気に入りのインド人」と見ていたり)
これはあくまで勝手な想像だが…
思えば同じくカルカッタに移住した、人々を分け隔てしないグン牧師を主人公にしても話は成り立ったと思う。そこを不完全なウィンダムにしたのは、インド系移民2世である著者の思い(「イギリスがインドを支配していた時代を理解しなければならないと思った」)を彼に託していこうとした…とでも言うのだろうか。
本作は三部作の第一作目。一冊分をかけて、ウィンダムとバネルジーの溝を埋めたってところか。ウィンダムの第二章もようやく基盤が整った。
2人の次なるコンビネーションプレイを目の当たりにすべく、早いとこ次の現場に急行せねば!