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幕末期、外交と経済の側からみた政をひとりの若者の一代記をもって記してある。
安政の大獄~戊辰戦争に至るまでの歴史を改めて読み直した。教科書などでは分からなかった幕臣たちの悩みやら、生の声も聞こえてくる。
主人公の田辺太一も大きな波に揺さぶられたその一人。幕末という未だ且つて武士達が経験した事の無い時勢の時、命ぜられるままではなく自分で考え怖いもの知らずに意見してゆくさまはむしろ、気持ちがいい。自分で江戸っ子気質と言っているとおり、その軸のぶれない生き方は現代の世界にも1人ぐらいはいて欲しい、破天荒な男だ。
丁寧に歴史を読み直すいいきっかけとなった。
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幕末、外国方として勤めた田辺太一のお話。はじめ、本のボリュームに大河ものかと思ったけど、後で調べてみたらほんの10数年間のお話で…この後のお話も読んでみたいなぁ。そもそも幕末ものにはあまり興味がなかったワタクシですが、『龍馬伝』やら『晴天を衝け』を見たり『グッドバイ』を読んだりしていたせいか、分かりやすかったです。太一のキャラクターも面白かったし、ダメダメな閣老の対応も今もいろんな組織であるんだろうなぁ(^^;
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攘夷の嵐が吹き荒れる中、欧米列強の開港圧力が高まる幕末に外交の礎を築いた幕臣たちの物語。
主人公田辺太一は、鼻っ柱の強い若者。長崎の海軍伝習所から江戸に戻り、新設された外国局で、いつも機嫌が悪く、皮肉屋の奉行・水野忠徳の下、横浜開港事務に関ることになる。水野や岩瀬忠震、小栗中順、渋沢栄一といった傑出した家人と交わり、持ち前の波乱を厭わない推進力や主張力を生かしながら太一は成長していく。
だが、腰が定まらない幕府、薩長のしたたかで、不穏な動きに翻弄され、受難の道を歩む。
長崎海軍伝習所で西欧の航海術や兵学をじかに学んだ太一は、日本を豊かにするためには、国を開いて異国の知恵や技術を取り入れるべきだと考えていた。その上で、この国の岐路を異国に委ねず、迎合もするべきでないという確固たる持論を持っていた。
しかるに、なかなか、外国に渡って見聞を広める機会に恵まれず、外国人の領有に対抗するため、小笠原島開拓に派遣されたり、ようやくの渡仏でも横浜鎖港交渉を命ぜられたりと意に反することばかり。
慶応3年(1863年)のパリ万博に出展した幕府の派遣施設に随行した際も、薩摩藩が幕府を出し抜いてフランスと結託、出展していた。抗議も実らず、苦悩しながら帰国の途につくが、そこで、大政奉還の報に接する。
そんな失敗の繰り返しを指南書にして、それが勝麟太郎に認めらたり、日頃厳しい兄の孫次郎がひそかに感心していたりと、太一の国を思う一貫した姿勢を評価する人物も多く登場する。
全体を通して、太一の進歩的な考え方や外国との交渉論理の組立てに合理性を覚え、自分が納得する人生を貫く姿に清涼感を感じた。
幕末の歴史を楽しみながら勉強することができたし、幕臣の会話の中に現代にも通じる処世術が盛り込まれていたのも面白かった。