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子供の頃、ロビンソン漂流記を読んだことがあった。難破したロビンソンが孤島で孤独な生活を送るという粗筋くらいしか覚えていなかったが、文庫本の新訳が出ていたので、改めて読んでみた。
井上靖の「おろしや国粋夢譚」を読んで以来、漂流ものには興味があって、いろいろな漂流記や探検記を読んだけれど、原点はやはりロビンソンクルーソーだと思う。実話を基にした小説で、作者の空想がかなり入っているが物語としてはとても面白い。特にロビンソンの孤独感の心理描写、事件が起きた時の気持ちの変化など、おそらく自分自身が同じ状況になったら、こんな事を考えるだろうと思うことが、そのまま書かれていて、物語に没頭することができた。また当時の空気も反映されていて、300年以上前の人々の考え方や社会の仕組み、未知の世界や動物への恐怖なども感じることができる。
読んでみると、漂流記というよりも孤島生活記という感じ。子供の頃の記憶では大西洋の絶海の孤島の設定だったと思ったが、実際はカリブ海の島だった。ロビンソンにとって救いだったのは、難破船から容易に「道具」が手に入ったことだ。道具があれば、ある程度文化的な生活ができる。島で必要なのは何よりも「道具」なのだ。そこは実際の漂流者の体験とは異なっていて、道具が無い漂流者は食物の採取にも不自由するくらい何も出来ず悲惨な生活になる。それから「宗教」。孤島の生活には精神的な支えが必要で「神」を称える記述が何度も出て来る。
前半は孤島生活、後半は色々な事件が起きて、島を脱出し故郷に帰るまでを描いている。リアリティを出すためか、最後はお金の話が出てくる。島ではカネは何の価値も無いと言っていたロビンソンが、帰国するとカネの話ばかり。文明社会に復帰すると、大事な物の認識が変わってしまうのだろう。また社会復帰まで約30年も経過しているのに、ロビンソンは記憶力が抜群で過去の出来事、カネの話を詳細に覚えている。歳を取っても、隔絶された島にいてもボケとは無縁だ。現代の視点では突っ込みどころ満載の小説だが、時代を超えて当時の気分に浸るには凄く良い小説だと思う。
今回の新訳版は、大変読みやすく、且つ昔の言葉使いも上手く混ぜて時代感も感じさせるとても良い翻訳だった。もし船旅をするなら(漂流したくはないけれど)、この本を持っていきたいと思う。
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言わずと知れたダニエル・デフォーの名作。本書は第一作『ロビンソン漂流記』の新訳となる。南米大陸の無人島へと流れ着き、二十八年間の漂流生活を過ごしたロビンソンの姿が描かれる。西欧文学史における無人島物語の先駆けであり、『ガリヴァー旅行記』や『十五少年漂流記』など後世に絶大な影響を与えた本作。現在でも世界文学の名作に挙げられることが多く、マックス・ウェーバーがロビンソンを例に中産階級労働者のプロテスタント精神を論じたことが知られている(※大塚久雄著『社会科学における人間』(岩波新書)』のレビュー参照)。
ストーリーは「放浪癖のあった青年時代からブラジルで農場を経営するまで」「無人島漂流から脱出まで」「後日談」の三部構成となっている。序盤では航海に憧れて家出したり、海賊船の奴隷として二年間働いたり、西アフリカでライオンを狩ったりと、波瀾万丈な人生が語られる。平穏な人生を説く父への反発と、信仰の軽視をロビンソンは後に繰り返し後悔することになる(神に背いて巨大な魚に呑みこまれたヨナへの言及がある)。ブラジルでの農園経営は終盤かなりの財を成したことが明らかになるので、彼には船乗りでなく経済人としての才覚があったようだ。企業家でもあった著者自身の経験が反映されているなど、私小説的な側面もあるのだろう。
農園での生活に倦怠感を覚えたロビンソンは、奴隷の売買を行うため奴隷船でアフリカへと向かい、途中で船が難破して無人島へと流れ着くことになる。
無人島での描写は前半が生活に関するものだ。難破船の残骸から必需品を回収し、家屋の建設、食料の調達、衣服製作、山羊の飼育、パン作りや農耕にまつわる記録が各章ごとに細かく描写される。正直、海岸で足跡を発見するまでは物語に起伏もなく、冗長な展開が続く。無人島生活だから仕方ないのだが……
足跡発見以降、ロビンソンは先住民の捕虜を救出し、フライデーという名の青年と共に暮らし始める。物語が面白くなるのはここからで、ロビンソンは本格的に島を脱出するための計画を練り、偶然島を訪れた海賊達との攻防を繰り広げて英国船の奪取に成功する。文明から切り離されて野生化したロビンソンの姿を目にした英国人達の反応が面白い。
島を脱出したあとは、ロビンソンが所有していた財産やブラジルの農園について長々と説明される。一時は「金など無意味だ」とまで言い切ったロビンソンが、細かい銭勘定をしている場面は涙なしに読むことができない。一行は欧州を横断して熊やオオカミに襲われながら英国へ向かうのだが、最終章の蛇足感は否めなかった。
作品を通じて描かれる信仰心の発露と改悛が、本書のテーマといってよいだろう。病や孤独の苦難を通じて、プロテスタントの精神に目覚めてゆくロビンソンの姿は印象的だ。聖書を引用した箇所では、どれほど悲惨な状況に置かれようとも「必ず神が慈悲を与えてくださる」と繰り返し述べられる。人間は己の境遇に不満をこぼさず、神の御意志に従って日々を生きればよいのである。とはいえ、上述の金銭感覚にしてもそうだが、ロビンソンは一度悔い改めたことをすぐ忘れる性格なので、最後まで読み通したあとは「結局そ���ほど改心していないのでは」と思ってしまう。現に第二作『ロビンソン・クルーソーのさらなる冒険』(岩波文庫版の下巻に収録、未読)では結婚後まもなく再び航海に出ているようだ。やっぱ反省してねぇな?
18世紀の小説とはいえ、西洋中心主義的な立場からフライデーを教化してやったり、先住民族を人食い蛮族としてこれでもかと醜悪に描いたり、違う意味でドキドキする描写が多かった。現代の我々からすれば人食い蛮族と奴隷商人に大きな違いがあるとは思えないが……逆にフライデーの視点からロビンソンを教化する『フライデーあるいは太平洋の冥界』というパロディ小説が(ミシェル・トゥルニエ著)あるらしいので、機会があれば読んでみたいと思う。
追記しておこう。
2020年6月現在、ミネアポリスの黒人男性殺害に端を発する反人種差別デモが全世界に広がっている。抗議者の活動を受け、イギリスでは慈善事業家エドワード・コールストンおよびロバート・ミリガン像(両者は奴隷商人で財を成した)が撤去されたと報じられている。こうした「過去の清算」は世界中に飛び火し、かつて発表された文学・映画・コミック・音楽などのあらゆる創作物に影響を及ぼすものと予想される(すでに映画『風と共に去りぬ』は人種差別表現を理由に動画配信サービスHBO Maxから一時的に削除されている。時代背景の説明と批判を明記した上で再配信する予定とのことだが)。そう遠くない未来、ロビンソン・クルーソーも「知恵と勇気で苦難を乗り越えた英雄」でなく「人種差別主義者のブタ野郎」として世間の非難を受けるかもしれない。
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幼いころ、息を飲むように読んだ無人島の漂流記。
息子用に買ったので、30年ぶりくらいに再読。
「フライデー」とか、懐かしい名前があり興奮しながら、
人種差別のことなど、幼い頃は気づけなかった着眼点がありました。
いちばん、ドロッと残っているのはお金のこと。
無人島時代は、あんなに「お金なんてなんの意味もない」だったのに、
脱出できたら、金の亡者みたくなっている。
人間の人間らしさをよく描いています。
大人が読んでも、おもしろいよ。
ううん、大人が読むからおもしろいよ。
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出版されたのは1719年、約300年前、何と著者ダニエル・デフォーが87歳の時の出版物だ。「冒険」と言うチャレンジ(生き抜くための挑戦と困難に立ち向かう)と知恵は現代でも学ぶものがある。生き抜くこととは 1、冷静になること 2、理に叶う判断をすること 3、勇気と行動は頼るべき信仰があったこと
離島での暮らしは28年余り、英国に帰ったのが35年ぶりとある。さらに恐るべきロビンソンは冒険家であるが故にその後も10年間旅に出た事である。父親の言葉「世の中をよく見る事」は教訓、父親は息子ロビンソンには海外で旗揚げするなと説教しておきながら、英国で起業した、とある。親子の遺伝子はやはり同じなのか。
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タイトル*ロビンソン・クルーソー
著者*ダニエルデフォー
出版社*新潮文庫
一六三二年、英国に生まれた船乗りロビンソンは、難破して絶海の孤島に漂着した。ここから二十八年に及ぶ無人島生活が始まった--ー。不屈の精神で鳥や亀を獲り、野生の山羊を飼い慣らしてバターやチーズを作り、パンまでこしらえてしまう。ところが驚天動地の事態が……。めげない男ロビンソンを通して人間の真の強さを描き、世界中に勇気と感動を与えてきた、冒険文学の金字塔。待望の新訳。
あらすじより引用
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それまでの小説とは異なり、「現実らしさ」を持ったリアルな小説というのが評価に値する。自分がかつて築いた友好関係や財産は裏切らないんだよなぁ。。
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何度も挫折した本だったが、さすが新訳の読みやすさで一気読み。時代背景の古さはあるものの、中身としてはオーソドックスな漂流記。信仰に目覚め、物欲から解放されるあたりは示唆がある。
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すごい生き延びる
その生き延び方が迫力と言い訳と自慢を交えながら延々と書いてあって、主人公まあまあカスだからムカつくんだけど引き込まれるのよね~
あとこれが書かれたのが18世紀と考えると、個人主義の高まりで爆流行りしたのわかるな〜とおもう。
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そこで銃が撃たれたのは天地創造以来初めてだったのだろう
描写つまり心情描写、風景描写などとても繊細かつ鮮明で、読者である私たちがその場にいるような疑似体験をさせられるリアル感がある
デフォーはこのような冒険に出たことあるのかと思うくらい生き生きと表現するので、300年近く金字塔であるのは疑うまでもない
理性的な精神を持つことに意識をしたり
置かれた環境に感情的ときには感傷的になりつつも
一人で気持ちを持ち直している
ーわたしはこの点の配剤を受け容れた。いっさいは最善となるように定められていると考えを認め、信じるようになっていたからである。とにかくそう考えて心を沈め、あそこへ行けたらという無益な思いで自分を悩ますのはやめた
ー足跡を発見する
驚愕のあまりわたしは雷にでも打たれたか、はたまた幽霊でも見たかのように、その場に立ちすくんだ。
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冒険家、男として憧れないことはないだろう。この勇敢でいて、無鉄砲、でも弱さもある男の一生を知ることができ、良かった。幾度となく、大きな壁にぶち当たり、その度、諦めてもおかしくない中、活路を見出していく姿に、心から勇気をもらえた。何を信じて、何に向かっていけば分からなくなる事や、理不尽の波にへこたれそうになる事があっても、この物語に戻ってくれば、きっとまだやれると気付けるはず。
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友達から薦められて読みました。
冒険小説として、大航海時代の物語という歴史小説として、信仰が如何なるものかを示す読み物としてなどいろんな読み方ができるようのかもしれない。
災難を免れるより罪から免れることの方がはるかにありがたい、恐れている災いより、恐れそのものの方が重荷になるなど究極の状態にならないと気づけないようなことを読者に気づかせてくれる。
人間が一人で一から始めるとシンプルなことが実は複雑であり、どれだけの人類の叡智が集められていることなのかと驚くことになるんだろうな。
私は主人公が未開の人を召使として扱う描写が人種差別につながることをイメージしてしまい、居心地の悪さのようなものを感じた。