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「迫害された移民の経済史」ではあるが、
重点は迫害ではなく経済にあって、
迫害されながらも、なおそれによって離散していることを
強みとして生き抜いてきた人々の一つの歴史である。
ディアスポラというと、ユダヤ系のイメージが強く
本書でもその系統であるアシュケナジムや、セファルディムはしっかりと紙幅がとられている。
とはいえ、ほかにもユグノーであったり、
スコットランド移民であったりの話があり、
多様な形の移民がある。
もっともそれでも西側に偏っているのは東洋からは
経済圏としての勢力を持つようなまとまった移民がなかったからであろうか。
宗教的な理由、政治的理由、または食糧難などさまざまな理由で
元の故郷を離れる人がいて、それが新たなネットワークの拡大につながる。
本書はそのような描写として興味深いものが多く、楽しめたが
並列的に並べたディアスポラのケースを俯瞰して説明する視点がもう少し欲しかった。
また、僕の知識不足もあるけれど、ヨーロッパの地名がバンバン出てきて、
迷子になってしまうことが多かった。
大航海時代前後の空気の一端は感じられるかな。
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手紙を送るときには、複製を送った。複製とは英語でduplicateといい、さらに、二通目の複製はtripcateというが、日本語ではそれにあたる言葉はない。日本と違って中金製のヨーロッパでは、数通の複製を作るのは当たり前であり、そのうちの一通が届けばよいと考えられていた(p.63)
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船便は沈んでしまうからね。本書によると地中海であってもそのリスクはあったということらしい。
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長崎に居住した人々のなかには、セファルディムもいたかもしれない。むろん、彼らはユダヤ教徒ではなく、カトリックを信じるふりをする隠れユダヤ人であった。彼らは、一六三九年にポルトガル人が出島から追放されるまでは日本にいたようである。(中略)
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ディアスポラの民として、イエズス会士を取り上げることに、違和感を覚える読者もいるかもしれない。しかし十五世紀末にイベリア半島から追放された人々のなかにはコンベルソが含まれており、彼らがイエズス会士として活躍していた。(p.42)
余計なお世話とは思うけど、ここが一番やりたかったところだったんじゃないかなぁ。ここをもう少し掘り下げてくれるとよかったんだけど。