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台湾の小説である。短編連作で、実際に台北にあった中華商場を舞台に登場人物たちの子供時代と現代を描いている。
日本の高度成長期にも似たような光景があったなあと感じるところがある。
翻訳物はなかなかその土地の実感や文化的背景を知らないと、全てを理解しにくいところがあるが、まだ日本の少し前の光景を知っているものにとっては、受け入れやすい内容とも言える。
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名作『自転車泥棒』の呉明益。翻訳も同じく、夭折された天野健太郎さん。こちらは短編連作集。失われた商場で過ごした少年時代が描かれる。
とにかくいつもながら、センチメンタルすぎて読んでいて死にそうになる。この短編集でも、複数の動物たちが描かれる。これまた、切なくて、倒れそうである。
しかし、魅力があって読むのがやめられない。
表題作はやはりとても印象に残るが、僕が好きなのは『ギター弾きの恋』と『唐さんの仕立て屋』。
台湾に久しぶりに行ってみたくなるなあ。
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1992年まで台北に実在した繁華街「中華商場」を舞台にした連作短編10作と、文庫本で追加された短編1作が入っている。それぞれの物語は、商場で育った少年が、大人になってから、かつての友人に歩道橋にいた魔術師について聞き取った話を基にしたという体で語られる。
中華商場の歩道橋にいた魔術師は、商場の子どもたち向けにマジックの道具を売っていた。売っている道具と魔術師の見せるマジックは、どれも、タネも仕掛けもあるものであったが、時折、彼は、本物の魔術らしき奇跡的な現象を起こす。
商場の子どもたちの生い立ちは、今の私たちの感覚からすると、けっして明るいものではなく、貧しく、身近な人が死に、暴力に溢れている。魔術師の見せるマジックは、子どもたちにとって、子ども同士の遊びとは違った、少ない娯楽の一つだったが、時折見せる本物の魔術は、ある子にとっては、とても魅力的なもので、ある子にとっては、不安に陥れるものだったりする。
魔術によって踊り出す小人、複製された偽物の鍵、蘇るシロブンチョウ、煙になるネオンの光は、少年少女を魅了し、魔術に憧れを抱かせた。女子トイレのエレベーター、消える兄弟は、少年を孤独に恐怖させた。絵から生まれた金魚を亡くした思い出は、何の感慨もないように話されて、内緒のラブレターを魔術師に盗られた思い出は、冗談ぽく話される。魔術師の記憶のない人もいる。
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文学ラジオ空飛び猫たち第98回紹介本 https://spotifyanchor-web.app.link/e/ena4vKV3hwb 海外の本だけど、非常に日本人の感覚に近く、読みやすいと感じた。 そして少年少女時代を描いているので、幼いときの思い出が蘇る。 ノスタルジックな空気と、ちょっと不思議な気分に浸りたい人は是非。 作者は「書く」ことをすごく大切にしている感じがした。
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台北に実際にあった大型商業施設「中華商場」を舞台に、1980年代を振り返りながら進む台湾の小説なんだけど、とてもノスタルジックで、切なく、あたたかな作品だった。台北の熱気や喧噪に没入しながら、あっという間に読み終えた。
天野さんの翻訳は助詞や句読点にまで心配りがあって読みやすく、現実と夢の空間を心地よく行き来することができた。
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遠い台湾の話なのに、なぜか懐かしいノスタルジックな感情、異国情緒、人生の残酷さを同時に味わえる、稀有な作品。
この本1冊持って、1人で台湾にぶらりと行きたくなる。
「99階」が特に印象的だった。
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『光は流れる水のように』が綺麗にまとまっていて好き。
それから訳者あとがきの「今、中年にさしかかった商場の子供たちは魔術師のことを思い出し、そしてあのとき、自分の人生がすでに決まっていたのだと気づくのだ。」子どもの頃に住んでいた集合住宅のことを思い出した。一緒に遊んだ子、その親、出稼ぎに来ていた外国人一家、みんな何してるかな
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巨大迷路のような中華市場、屋上には鮮やかなネオン塔が光り、幾つもの棟を結ぶ歩道橋には魔術師が立っている…。昭和レトロならぬ台湾レトロを感じさせてくれる短編集。短編とは言え同時期に中華市場に住む子ども達の話という共通点があり、同じ登場人物が出てきたりでまるで一冊の中編小説を読んでいるよう。魔術師が気まぐれに見せる魔法は子ども達の心に残り続け、成長した後も時に生きる希望となり、時に死の原因となる。
台湾本国でドラマ化してるんですね、これ。セットで中華市場を完全再現したらしく、すごく観たいんですがローカライズもないし日本で観るのは無理そうで残念。予告編だけでも本書とあわせて観ると雰囲気が味わえていいかと思う。
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商場が舞台なので賑やかな内容と思いきや、常にシーンと静まり返った雰囲気。どこか夕立前の雲の鬱屈さを彷彿とさせた。読めば読むほど哀愁漂う当時の台湾がありありと浮かび上がってくるようで、なんだか不思議な感覚だった。
子どもの記憶の曖昧さが相まって、より哀愁漂う雰囲気になっていたと思う。個人的には「九十九階」と「ギター弾きの恋」がお気に入り。