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翻訳の順番は後先になったが傑作『新しい時代への歌』の元になった「後日談」である中編が収録されている、というだけでも価値ある一冊。伝説の歌姫の後年を描きながら、同時に長編のダイジェストともいえる全てのエッセンスが詰まった作品を始めとした珠玉の短編集。
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装丁がおしゃれなSF短編集。作者はミュージシャンとしても活動しており、そのせいか作品全体の雰囲気は詩的で抒情性のあるものになっている。奇想的なアイデアと私小説っぽさが絶妙に同居しており、海をたゆたうような心地で読み終えた。
全部で13編収録されているが、お気に入りは「そして(Nマイナス1)しかいなくなった」。作者であるピンスカーが並行世界から大量に集まり、殺人事件が起こるというトリッキーな内容。日々の選択による喪失感がテーマになっており、ユーモラスでありながら強く心に残る短編だった。
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表題作の『いずれすべては海の中に』が特によかった。すべて沈んだ後に這い上がって生まれてくるもの。
あと『イッカク』の「助けが来ないときは自分が助けに回る番」は本当にそれだと思う。
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朝焼けを迎える宙なのか、それとも夕暮れに向かう海なのかー淡い彩色の装丁に包まれた物語の世界に浸ると空気の組成が少し変わり始める。忍び込んだ異質な空気が肺を満たすとき、追憶の中の未来-辿り着くことのない、いつかどこか-がゆらゆらと立ちのぼってくる。
それは旅先で目にした知らないはずの風景に感じる懐かしさと、それと同時に決してその風景に含まれることはない哀しみにも似て、心をさざなみが通り過ぎていく。
失われたものへの哀惜と失ったものを語るときの優しさが、“今”を生きる真っ直ぐな力強さと溶け合って余韻を残す、美しい作品が集められた短編集だった。
『一筋に伸びる二車線のハイウェイ』
オートメーション化された大規模農場の傍らでオールドスタイルな農園を営むアンディは農機具の事故で片腕を失う。義手として最新鋭のロボットアームが取り付けられたのち、腕は、自分は遥か遠くコロラドに伸びる全長九十七キロのアスファルト道だと訴えてくる。
テクノロジーとアイデンティティの危機という古くからのモチーフを用いながら、ここでは生物/機械という断絶を超えて、アンディが夢見る腕に共感していく様子が描かれている。
道はー腕はー目的地を目指して移動する車を見送りながら、同じ場所に留まり続けている。山までずっと見通せるが辿り着かないハイウェイであることに満足している。
アンディもまた、恋人が大学へ行くのを見送り、故郷の小さな町の農場で暮らすことを選択する人間だ。結局のところアンディと道は、存在こそ違え似た魂を持っているのだ。
アンディが恋人のために入れたタトゥーの文字を書き換えるシーンが好きだ。
『オープン・ロードの聖母様』
オンボロバンでツアーを回る中年の女性パンクロッカー。時代が変わっても気骨と信念で吠える。ライブシーンの熱さ!
“私たちは音楽だ。進みつづける“ 最高。
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不思議な技術があったりポストアポカリプスっぽい世界観だったり、そんな奇想溢れる世界で生きる「ひと」を丁寧に描いた短編集。
作中で起こる出来事のスケールが「すごくドラマチックではないけど、起こったら確実に一生忘れられない」くらいなのがまた良い。
SF的ギミックや事件よりも人の心の動きに焦点を当てた、せつない余韻の残るお話が揃ってます。
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良質なSF!
流れる空気感や、話ごとに徐々に明らかになる世界観への気付きが面白くてたまらない。
収録されている話の順番も絶妙だと思う。
「どういうこと?」「こういうこと?」「なるほど!」とどんどんサラ・スピンカーの世界観に引き摺り込まれていった。
最後に"そして(Nマイナス)人しかいなくなった"
小説だけでなく、音楽や海、自然や環境を愛する人にも刺さるサイエンスフィクション。
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終末や破滅の予感がする近未来で、道の義手やら、鳥籠の心臓のおばあちゃんやら、イッカク姿の車やら、加害者被害者探偵兼務の殺人事件やら。。荒唐無稽でぶっ飛んだシチュエーションなのに、読み進めて徐々に全体像が見えてくると、その世界に無理なく馴染んでしまう。摩訶不思議で可笑しくて哀しい物語にワクワクゾクゾクした。
その中では比較的フツーな設定だけれど、3人のバンドマンの廃食用油車の道中記の破天荒さが一番好き。「進む。進み続ける」パンク姐さんがとにかくカッコいい。
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原題 SOONER OR LATER EVERYTHING
FALLS INYO THE SEA
13の物語
静かな世界たちが入れ替わって浮かび上がってくる。
読み終えた世界は心の奥にしまうと同時に海の中へ戻っていく。
またね
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どちらかというとジャケ買い。
私の気づかぬうちに竹書房がSFを出すようになっており、またシリーズの装丁がどれもキャッチーで。
とりわけ目を引いた当該作。帯を見れば「SFが読みたい」の海外編ランクイン作ということもあり、ジャケ買いでもそんなに外さないだろうと購入。
スペースオペラや一部のジュブナイル小説を除けば、「あれ、ちょっと待って考えさせて」って読み手に理解に対する一定の努力を強要するのがSF小説なのだけれども(そしてそれがSFのいいところだと思う)、奇想は我々の想像力に対する努力を強要する。「あれ、全然イメージできないからちょっと待って」って。あるいはイメージできないのを明らかにわかっていて、読者を置いてけぼりにして物語を勝手に語っていく。
この短編集もそう。
「は?」で始まって、読み進めて、読み終わった後に「は???」ってなってる。
なんだろう、試されているんだと思うんだけど、そして繰り返し読むことで出てくる味があるんだろうけど、想像力に欠ける私にはなかなかしんどい。
読み返す前にくたびれて「まあ、いいかな」ってなってしまうことも多い。
ただ、この作品、難解なんだけど文章がとてもキレイだから、とりあえずなんとなくは楽しめてしまった。
全編奇想小説なんだけど、奇想の程度が低いものは容易に想像できて、たとえば「平行世界から100人近い自分を集めてカンファレンスを開いたら殺人事件が起きて、捜査する羽目になった」とかは「馬鹿馬鹿しい」と笑える程度の奇想なので普通に楽しめる。
でも大半がそのレベルを超える設定なので、楽しめたのは楽しめたけど、疲労感もそれなり。時間のある若いときにはいいかもしれないなあ。
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普段あんまりSFは読まないんだけど、これはかなり好き。最初の「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」から、突然の事故で付けることになったハイテク義手が「自分は道路だ」と脳内で主張してくる…という突拍子もない調子で始まり面白いし、オチが秀逸。
「深淵をあとに歓喜して」の老夫婦の看取りの話も良かったし、「風はさまよう」の、人間と地球が何のかかわりもなくなったら、歴史とは、音楽とはいったいどういうもので、何の意味を持つのか、という重い問いかけに突っ込んでいくのもすごかった。それぞれの短編で設定は全部違うし今の現実とは乖離しているけど、出てくる人間の感情や行動に手でさわれるようなリアリティがあるから面白くなるんだろうな、と思う。この人の作品をもっと読みたくなる。
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13編の短編が収められている。うち3編はやや長め。
ほとんどがSF的な設定となっているが、SFを全面に押し出すのではなく、SF的世界の中における人間の感情や生き方が描かれているという感じ。
丁寧に静かな文体で書かれていてじっくりと浸りながら読める。
特に後半の4編はそれなりの長さがあることもありテーマに深みのある力作でとてもよかった。
1. 一筋に伸びる二車線のハイウェイ
事故で腕を失い機械義手をつけるが内部のチップに使われているソフトウェアがコロラドのハイウェイで使われていたもののリサイクルだったため、自分の腕がハイウェイと一体化したように感じる。手術でチップを交換するが、ハイウェイの記憶は残っている。(19ページ)
2. そしてわれらは暗闇の中
自分には子供がいて育てたことがあるという夢をみる。夢の中の子供はいなくなるが現実に海から現れる。同じような夢を多くの人が共有している。子供たちは海で泳ぎ回っている。(現実に現れたこの子供たちは何だ?)(14ページ)
3. 記憶が戻る日(リメンバリー・デイ)
退役軍人たちは〈ベール〉によって強制的に戦争の記憶を隠されている。世界中の退役軍人なのでよほど大きい戦争だったのだろう。(もしかしたら地球外からの襲来かもしれない)年に一日だけ〈ベール〉が外され、退役軍人たちはパレードの後、〈ベール〉を継続するかどうかの投票をする。そして毎年大差で〈ベール〉を残すことになる。戦争に参加していない人々は戦争のことや軍人だった家族のことがよく分からないまま。(13ページ)
4. いずへすべては海の中に
何かわからないがおそらく地球規模の大災害が起きて、陸地は海に沈みつつあり、人が住めるエリアが減りつつあるらしい。大型船に避難してクルージングしながら生活している人々もいる。そんな船にエンターテイナーとして乗り込むことができたロックスターが、船上の人々に嫌気がさして小型ボートで逃げ出し、遭難したところを、ある女性に救助される。女性は行方不明になった妻を探しながら世捨て人のような生活をしていた。話の筋には関係なさそうだが、ジェンダーの問題が自然に含まれている。(34ページ)
5. 彼女の低いハム音
The Low Hum of Her
ナチスの迫害から逃げるユダヤ人を思わせる家族。祖母はすでに亡くなっているが父がアンドロイドのような祖母をこしらえ、主人公は当初拒否反応を示すが、次第に心を通い合わせていく。未来にも人種差別や迫害はなくならないという暗示だろうか。(12ページ)
6. 死者との対話
Talking with Dead People
殺人事件が起こった家の模型を作り、被害者やその周辺のネット情報を学習させたAIとそれを接続することで、家に話しかけることで被害者自身が事件の真相を語り始める装置ができた。解決する事件もあり、ビジネスは大成功した。しかし、何でも暴きたがる経営者と暴かれるべきではないものとの線引きを弁えている製作者の間に亀裂が生じた。模型は必要なのかという疑問は残る。AIとプライバシーの倫理に関する問題。(21ページ)
7. 時間流民のためのシュウェル・ホーム
The Sewell Home for the Temporally Displaced
最初はリモートビデオ通話をしているのかと思った。次に過去や未来が見えるヘッドセットか何かをしているのかと思った。実は時間の感覚を失うような病のようなものらしい。今が過去か未来か今か分からないし、過去が見えたりする。今起こってることがこれから起こるような気がする。ちょっと想像できない感覚。(5ページ)
8. 深淵をあとに歓喜して
In Joy, Knowing the Abyss Behind
脳梗塞の発作を起こして反応できなくなってからも手だけは無意識に動いて図面を描こうとする。それは誰かを閉じ込める目的で夫がかつて書かされた建物の図面。「軍」「国家の安全」などのキーワードから地球外からの訪問者がいるのではないかと想像されるが詳しくは書かれない。もちろん夫が明かさなかったからである。SF的な世界設定の中で、それに直接触れることのない人々の普通の営みが描かれている。
この話にもこそっとジェンダーが盛り込まれている。(35ページ)
9. 孤独な船乗りは誰一人
No Lonely Seafarer
SFではないがファンタージ要素を含む作品。入江から外海に船を出そうとする船乗りは皆セイレーンの歌を聴いて海に飛び込むかして死んでしまう。子どもなら大丈夫だろうと船長に連れられて船に乗った少年は実は両性具有であった。少年はセイレーンの歌に自らの歌を返しセイレーンに勝利する。んー、よくわからなかった。(27ページ)
10. 風はさまよう
Wind Will Rove
文化の継承と断絶の話。地球を離れた宇宙船の中ですでに4世代目を迎えている。1世代目もまだ残っている。初期にブラックアウトという事故(事件)が起きて、地球から持ってきた音楽、文学、芸術、歴史など文化に関するデータがすべて消えてしまった。覚えている人が物語を再現し、音楽は毎週演奏会を開くことで演奏者のタッチを継承しようとしている。しかし、新たな惑星で新しい人生を切り開くことを目指す若い世代たちは、過去の地球の歴史には価値を見出していない。断絶が起きようとしている。(62ページ)
11. オープン・ロードの聖母様
Our Lady of the Open Road
自動運転車やモビル通信網は発達している一方で公共交通や産業が破綻している社会。人々は自宅で過ごすか自動運転車で点から点へ移動することがほとんどになっている感じ。当然リアルなコンサートはあまり開催されず、自宅や酒場でホログラムコンサートを鑑賞することが主流になっている。そんな中、手動運転によるバンでツアーをしながら各地で小さなライブを行うことにこだわるバンドの話。少数だがちゃんと観客もついている。トラブルだらけだが意地でもリアルなライブにこだわる。(59ページ)
12. イッカク
The Narwhal
なぜかクジラの形をしたトラックに乗って旅をすることになる。田舎町を走るただのロードノベルか?と思って読んでいると後半に意外なSF的展開が待ち受けている。ある田舎町の映画館が何らかのモンスターに襲われたときにこのクジラ型トラックが空を飛んでモンスターを撃退したらしい。改めて読み直すと序盤で有人が読んでいる新聞の一面にはヒーローがニューヨークを救ったような見出しが書かれている。そう、これはスーパーヒーローとモンスターがいる世界の話し。そしてこの物語は、映画化されたような事件の裏で起こっていた、スポットライトが当たらなかった事件の物語。(33ページ)
13. そして(Nマイナス1)人しかいなくなった
And Then There Were (N - One)
並行世界にいる自分の一人が並行世界を行き来するドアを発見し、たくさんの自分を呼び寄せてパーティを開催する。しかし発見者の世界では大きな災害が起こっていて、災害が起こっていない別の世界の自分を殺して入れ替わろうとする。パーティに招待された主人公はすべてを知る立場となり、発見者を告発するか見逃すか悩む。(79ページ)
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本作は短編集だが、まずは収録作全般から受けた印象について述べる。
総じて、特殊な状況が前提として存在し、語り手は自明のこととして多くを語らないために、ぼんやりとして、歪んだレンズを通じて、その特殊性を掴み取ろうとするような読み方になる作品が多かった。すっと状況が飲み込める作品は少なく、読者の側から歩み寄る必要がある。
また、百合(女性の女性に対する感情を扱った作品)として読めるものも、少なくない。
そこと絡めて、描きたい感情が主題としてあって、それを描いた後の、ストーリー的な帰結にはあまり興味がないように思われた。いわゆる、エピローグに当たる部分まで描くことなく、幕を引く作品の多い印象を受けた。
特に冒頭に収録された作品は、小洒落た言葉遊びが多く、それを翻訳でもどうにか残そうとしているように思われた。そうでない部分でも、言葉選びのセンスの良さは随所で感じることができた。
「深淵をあとに歓喜して」が最も好みだった。
コメントにて、それぞれの作品の感想を、簡単に記したいと思う。
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SFだけど登場人物の心情が丁寧に描かれているので、自分と関係のない世界の話という感じがしないのがよかったかな。