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SF小説の名作と呼ばれるものを一通り読んでみようキャンペーンを開催。
その第一作目でした。
が、私には合いませんでした。
読むの辛かった。
長い歴史と豊かさを持つ惑星ウラスの資本主義から独立して、荒涼とした惑星アナレスに移り住んだオドー主義者(共産主義的な)人々。
アナレスに住む科学者シュヴェックは研究のためにウラスへ行く。
うーん、資本主義と共産主義とか、倫理とか哲学とかそうゆう文化人類学的なことだと思うんだけど、読んでてもさっぱり面白くなかった。
宇宙なんだから冒険しないと。
謎を解いたり、迫り来る危機に立ち向かわないと。
別にSFのくくりで、惑星使ってするような話じゃないよね?これ
と、思いました。
辛かったので一旦普通の本読みます(笑)
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読み終わってしばし呆然。ずっしりと重い課題と、ひとかけらの希望を飲み込んだような気分。SFという括りを超えた名作だと思う。
ウラスとアナレスの双子星が舞台。ウラスは自然豊かで長い人類の歴史を持つけれど、競争主義社会で貧富の差がどうしようもなく広がっている。対するアナレスは荒涼とした植民星で、人々は協力し合い、飢えと闘いながら必死で生きている。一見すると共産主義礼賛のように捉えられてしまうのか、発表当時は作者の政治的思想に対して様々な批判があったらしい。私には、現代の政治的イデオロギーなどを超えた、普遍的な問題提起だと感じた。もっとも作者は、問題提起など全く意図していなかったらしいけれど。
主人公が述べた、「誰かが飢えている一方で、他の誰かが腹一杯食べているということはあり得ない」というアナレス星を表した言葉が心に残る。今、世界は「ウラス的」な方向に向かいつつあるのではないか。人類にとってのユートピアとは?それを実現するために、人間の「所有する」欲望をどのように扱っていくのか?作者の意図を超えて読み手に様々な課題を突きつける、希有な本だと思う。
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「真の旅は帰還である」
読むのに3ヶ月くらいかかった。私にとってアナレスは月なので、章が変わる度になんとなくつっかえてしまう。
でもこの読書が自分にとって大事なものだと思いながら読んでいた。たぶん、グィンの作品は「自分のために書かれた本」だと読者に信じさせるのだ。
逃れ得ない孤独とかそけき連帯。
時間が線であり環であることが構成からも示されているが、この環がどう閉じるのか、最後は気になって止まらなくなった。一文一文を理解したとは言えないけれど。
「同時性」の説明が本でなされるところは良かったな。分かりやすかった。
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アナレス:荒れ果てた惑星、原始的な共産主義。
ウラス:豊かな惑星、資本主義。
単純な物質だけでなく、人間関係の「所有」も排した共産主義の惑星、アナレス。そこの天才物理学者、シェベックが主人公。
あからさまな権力機構がなくとも、慣習に縛られ、息苦しくなった彼は、自らの研究成果をより必要としているであろうウラスに亡命するが、そこで彼はゼイタクを満喫する研究者やハイソサイエティに接する。しかし、そこでも彼はやはり孤独なのであった。
「共産主義」を題材にした小説というと、「1984」や「われら」のような冷徹な独裁者が君臨するディストピアものしかなかったので、今回の「飢饉や、戦争はあるがそこそこ成功した共産主義」の描かれ方が斬新であった。
たとえ、システム的に「所有」を廃棄したとしても、他者の足を引っ張ったり、成果を横取りしたりそういうものは消えず、厳然として壁として立ちはだかるという逆説的な描き方なのかもしれない。
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ウラスと植民星アナレス、それぞれがそれぞれを月とする双子星を舞台にした、ル=グィンのSF小説。アナレスに住む孤高の物理学者が、自らの理論を分かち合ってくれる者たちを求め、かつて先祖たちが暮らしていた星・ウラスへと、植民以来はじめての訪問者として向かう。
資本主義と共産主義、政府と無政府、権力と学問、緑と荒野、男性と女性…様々な二項対立が現れ、語られるが、それらのすべてが多面的に描かれていて説得力がある。
主人公・シェベックは常に孤独を抱えて生きているけれど、その孤独の底に誠実さを以って行動する姿が美しい。
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ル・グィンの未来史シリーズ”ハイニッシュ・ユニバース”のひとつにして、ヒューゴー賞、ネビュラ賞ダブルクラウンの本書は550頁を超える長篇小説です。
地球と月のような関係にある二重惑星のウラスとアナレス。いまアナレスからひとりの人物がウラスの地に降り立とうとしてる。人物の名はシェヴェック。アナレスの植民後、ウラスへのはじめての渡来者となる彼は銀河を覆すほどの重要な理論を携えていた…
物語は平坦です。手に汗握る攻防もなければ、ドラマチックな感動もありません。物語は終始、舞台となる二重惑星ウラスとアナレスの歴史、文化、政治や社会情勢、そして倫理感といったものの説明に費やされるのです。だからかどうか、頁は遅々として進まず、読了するのに時間がかかりました。
しかし、そういった退屈さを補って余りあるほどの魅力が本書にはあります。それは(解説の言葉を借りるならば)象徴やアレゴリーといったものでしょうか。
惑星ウラスは長い歴史を誇り、豊かな社会を築いていますが、惑星アナレスは植民してからわずか二世紀あまり。大地は瘦せ、砂と埃が飛び交う世界。そして、ウラスを離れ真の自由を求めるオドー主義者が生きる惑星です。
ウラスが我々の大量消費社会と類似するならば、アナレスのオドー主義者は「所有しないこと」を美徳とし、それがあらゆる束縛から人々を解放し、真の自由を体現するものと考えています。そこには国家はなく、人々は食料や物資を共有して生活しているのです。これが真の自由を求めるものたちのユートピア? しかし、現実は異なります。オドーの思想から逸脱するものへの社会的な制裁。そこには異なる思想を束縛し、嫌悪する世論が蔓延しているのです。同じ思いを共有する人々にとっては不都合ないかもしれませんが、そうではない人々にとっては自由ではありません。また、不毛な大地による貧しさは常態化し、行動は大幅に制約されています。貧しさと自由が反比例するのであれば、アナレスはまったく理想郷ではないでしょう。ちなみに、主人公シェヴェックはオドー主義者ですが、自信が考案した理論が社会に受け入れられず、また、アナレスの偽りの自由への反発もあり、彼の理論を分かち合うためウラスへと旅立つことになるのです。
一方のウラスは富に恵まれた惑星ですが、そこには貧富の差があり、自由の度合いは人によって異なります。また、国民は国家に属しており、国家を超えた自由はないのです。
本書は自由の理想と現実、そして矛盾をあらわしているようで、自由なんて深く考えたこともないので、読み進めるうちどんどん物思いに耽ってしまいました。
解説で引用されるル・グィンの言葉(人物を描く)の影響もあるかもしれませんが、どうも著者はこの自由を描こうとして、あるいは自由に対する著者の考えを記そうとして、ウラスとアナレスの世界を創造したようには思えないんですよね。むしろ、そこに描かれるのはウラスとアナレスの事実だけであって、著者の考えはないのかも。だからこそ、そこに読者として考える隙間があって、いわゆる象徴やアレゴリーを見いだせるのかもしれません。
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人間にとっての理想郷はどこにあるのか? この小説の主人公であるシュヴェックとともに、読者である自分もそんなことを考えていました。
経済の繁栄した自由主義・資本主義的な惑星のウラス、自由や平等をモットーに荒廃した惑星を切り開いてきた、共産主義的な惑星のアナレス。
歴史、政治、文化、言語……、回想と現在を行ったり来たりし、二つの惑星の違いを丹念に浮かび上がらせていく、その詳細さは、本当に二つの世界があるように思わされます。
シュヴェックは共産主義的な惑星のアナレス出身。そんな彼は、経済や文明が繁栄しているウラスの光、そして闇も先入観なく見つめます。時間や仕事に囚われ、芸術にすら価値をつけ、自由なはずなのに資本を所有し、拡大させることを生まれながら義務づけられたウラスの人々。
シュヴェックのウラスの人々に感じる疑問は、そのまま今の世界を生きる自分たちの矛盾点をついてきます。
しかし平等や共有を謳い「所有せざる」ことを美徳としてきたウラスも、その理想通りにいかない現実があることが、シュヴェックの回想から徐々に浮かび上がってきます。それは気高い理想を持ちながらも、保身や欲から逃れられない人間の限界を示しているように思います。
では結局、理想郷は無理なのか。僕個人的には悲観的なのですが、でも物語の結末を見ていると、こういう人たちが一人でも多く増えれば夢ではない。そんな風に希望のボールを読者に委ねる、そんなラストだったように思います。
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SF小説の必読書と言われる本書。SFファンとしては読まずにはいられない!ということで読んでみた。
果たして、必読かと問われれば、微妙かもしれない。SFファンとしてはそれなりに楽しめたけれども、人に勧められる自信があまりない。
何しろ長い。560ページだ。しかも本書の構成は少しトリッキーで、過去と現在が交互に描かれる。
主人公がアナレスという星で暮らしていた過去と、ウラスという星にやってきた現在は、各々数十ページの文量を割いて交互に登場する。
そんな構成のせいか、個人的に面白いと感じ始めたのが400ページ辺りからだったw
しかも、さすがのル・グィン。文化描写に余念が無い。人々の生活や思想の説明がこれでもかと描かれるので、苦手な人は苦手だと思われる。
そんな本書の最大の特徴が何かと問われれば、「文化の越境」かもしれない。
(長くなってしまうので省略。続きは書評ブログに書きましたのでそちらでどうぞ)
https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%96%87%E5%8C%96%E4%BA%BA%E9%A1%9ESF%E3%81%AE%E6%9C%80%E9%AB%98%E5%B3%B0_%E6%89%80%E6%9C%89%E3%81%9B%E3%81%96%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%80%85_%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%82%A3%E3%83%B3
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最初はなかなか慣れず、アナレスとウラスのセクションの時間軸が今ひとつわからなかった。最後まで到達してようやく理解でき、読み終わった直後にもう一度読み直した。
『闇の左手』にも記載したが、そもそもル=グィンのハイニッシュシリーズはSFというジャンルなのだろうか。
確かに異星の物語で近未来という意味ではSFだが、文化や人に焦点が当てられていることを考えると、異星というのはただの舞台に過ぎないように感じる。
ル・グィンの素晴らしい点は、やはりその精密な世界構築だ。描く世界の文化や気質、時には歴史など、説得力のある世界を描く。今回は一般に資本主義の象徴のように語られるウラスと、共産主義のアナレスという2つの世界だ。
もちろんフィクションなので、これら2つの世界はある意味極端で、それをもとに現実の世界を語ることはできない。思考実験的な要素もあるのかな、と思う。
ただ、どちらの世界にも理想と現実があり完全ではない描写は、物事を二元論で語りがちな私達には少し立ち止まって考えさせるきっかけになるのではないだろうか。
描かれるアナレスとウラスは、ハイニッシュ・ユニバースの中では比較的文化的発展途上にあるようだ。作中にはおそらく地球であるテラという星が登場するが、テラは若干発展しているようで(西暦2300年らしいが、地球人はあと300年でここまで成熟できるだろうか?)、むしろアナレスとウラスに現在の地球の世界を投影してしまう。ナショナリズム的思想が強くなっている現在はなおさらだ。
さて、主人公シェヴェックはアナレスとウラスの両世界を知ることによって、本当の、そしてこの世界で唯一のアナーキストになったわけだが、彼はこれからどう世界に影響を及ぼすのだろうか。
改めて作品だが、異なる時間軸の2つの世界を交互に描くという手法は、もしかしたら読者に混乱をもたらすかもしれない(少なくとも私は混乱した)が、最後にここに到達するのか、という種明かし的効果があり、クライマックスを盛り上げる方法としては素晴らしいと思う。なるほど、と頷くラストだ。
主人公は、私には少々偏屈な人物に思え感情移入は難しいが、ウラスに向かう、あるいはウラスで貧困層を探しに出かけるためには必要なキャラクターだったのだろう。
とても素晴らしい作品だとは思うが、若干私には難しく心を動かすまでには至らなかったので、私的には★4。
私にもう少し賢さがあれば★5だったかも。
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なんだろうこれは。すごいものを読んでしまったのに、この本の世界は、私たちのいる現実であってまったくの異世界でもある。
この本の「人間」というものが、わたしたちと同じ形をしているかもわからないのに、悩んだりそして(まやかしであっても)解決策を見つけようとしたり、他を上と見たり下と見たり、またはそういう上下関係が全ていやになったりすることは普遍的な問題であって、それが描かれているために、異世界の話なのに妙に身近な問題の手ざわりがする。
集会シーンは、ハクスリーのすばらしい新世界のオマージュかなと思った。
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・・・うーん・・・これは評価が難しいですね。本質的に、SFではありません。SFのフォーマットを土台にした思考実験です。いや、それこそSFか・・・。
と、悩みながら、読了1ヶ月が過ぎようとしております。
社会科学系SFの傑作と評されている作品です。
ル=グィンがこの作品を描いた当時の社会情勢に鑑みて、資本主義の象徴たるウラスと共産主義の象徴たるアナレスを対比して共産主義を称賛する作品である、と表層的な評価をすることも可能な作品ではあります。
ウラスとアナレスの兄弟惑星(物理的には兄弟ではあるが、社会的には隔絶の彼方にある両星)の社会描写が流石のル=グィン節で、とにかく重厚にして精緻。登場人物の心理描写も丁寧です。その分、ストーリー展開は遅々として進まず、主人公・シェヴェックの心身の動きにだらだらと付き合って、最終的によくわからないラストシーンに至る・・・という、小説としては不完全燃焼極まる作品です。
鴨的には、一読しての印象は、資本主義/共産主義の対立項は正直どうでも良いな、と思いました。
ウラスでもアナレスでも、シェヴェックにとって心の休まる場所はない。ウラスでは自身が打ち立てた研究成果を横取りされて絶望し、アナレスならこの成果を広く人類社会に周知できるはず、と意気込んで亡命したものの、アナレスはその成果を金に変えようと企む者たちばかりだった・・・ここでも絶望し、ウラスに残る妻と子の元に帰還することを望むシェヴェックの姿を描いて、この物語は幕を閉じます。
・・・厨二病かよヽ( ´ー`)ノ
と、リアルな資本主義社会に生きる鴨は、思ってしまうのですね。
主人公シェヴェックの価値観がブレまくり過ぎて、結局自分自身の小さな王国を守りたいだけじゃん、と。
・・・まぁ、でも、人間って、そういうもんですよねヽ( ´ー`)ノ
理想主義に満ちた作品です。ル=グィンも、その辺は重々承知して書ききった、大人の寓話だと思います。
社会経験を積んだこの歳になって読むことができて良かった、と鴨は思います。若いうちに手を出せる作品じゃないなー。
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理想の社会構造ものって言っていいのか
貨幣なし世界だとどうなんだろうと思うけど、その1つのあり様が描かれた作品
お金のことを考えないとどこまでできるのかと言うのは考えたことはあるけど、この作品はソ連みたいな社会主義の顛末を念頭に置いたものっぽい。
プロジェクトヘイルメアリーや機本伸司さんの僕たちの終末みたいにお金のこと考えないと凄いことできるみたいな可能性じゃなくて、継続的な生活が描かれていた。