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600ページ弱もの超大作を読み終えた時は、自分も長旅を終えたような感慨にふけった。西川さんが密偵としてモンゴルに渡り、中国、チベットと旅をしてきた8年間、蒙古人のラマ僧と偽り、修行を続け、未開の地を求めて歩き続ける姿に圧倒された。思い通りにならない時も不自由を感じる時も、計画を柔軟に変えて、その時に受容できることに感謝を覚えることは、現代に生きる私たちにも通用する賢い生き方だと思う。
沢木さんの旅路と西川さんの旅路が、時間を超えて交差した瞬間は鳥肌がたった。偉大な旅をしてきた方の人生を教えてくれたこの本に感謝したい。
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あの沢木耕太郎の最新刊にして最長編。
題材は、第二次大戦末期、敵国の中国大陸の奥深くまで「密偵」として潜入した若者・西川一三。
戦争が終わってもなお続く長~い旅が、西川氏自身の著作+著者の筆致によって、まるで目の前のことかのようなリアルさで展開されていきます。
(今回、NetGalleyで読ませていただいたんですが、終章で終わっていてあとがきまでは含まれておらず、ひょっとするとそれ以外にも書籍版とは違いがあるかもしれません)
「旅に出ると、生活が単純化されていく。その結果、旅人は生きる上で何が大切なのか、どんなことが重要なのかを思い知らされることになる。火がおきてくれば湯が沸き、太陽の光を浴びれば体が暖かくなる。たったそれだけで幸せになる…。」
素晴らしい言葉なんですが、ほとんどが徒歩で、厳しい自然環境の中、残りの兵糧を気にしつつ、匪賊の強襲や当局バレを恐れつつ…というスーパーハードモードの旅。バックパッカーとも比較にならないレベルです。
通常、旅ってのは日常とは違うハレの時間だと思うんですが、本著の旅は完全に日常と一体化し、時間の感覚ももはや「ちょっと天気が良いと数日滞在」とかそういうタイムスパン。
本著、旅の本として読んでももちろん魅力的なのですが、「途中でハシゴを外された人の本」として読むのもこれはこれで一興ではないかと思います。
日本軍の密偵として潜入した地域で日本軍の敗北を聞かされ…、この時点で任務は消滅したと言えて「じゃあ日本帰るか」となっても良いはずなんですが、旅を続ける西川一三。
旅をしたい、という熱意が何よりも上回ったように見え、なんだか手段が目的化したようにも思えてしまいますが、本当にそうだったんだろうか。
日本帰国後に「インドに行きたい」と言いながらも会社を経営してその夢を果たせずに亡くなった西川。彼にとっては、目の前の実感をこそ、何より大事にしていたのかもしれません。
そんな旅の実感がたっぷり詰まった本著。少し昔の厳しい旅の姿、その中での人の縁の不思議な交わり、鮮烈な自然の光景、堪能させていただきました。
「放浪に必要なものは金より言葉」と言ってそれを実践してしまうのは、いや強いなぁ。。
ちなみに、脇道ですが西川氏が使役した動物、ラクダとヤクの(人間から見た)性能の違いが印象的でした。言うコト聞かないなヤク…。とにかく逃げる(笑
ヤクの方が高地に順応でき、川を渡れるから使わざるを得ないのでしょうが、高地という土地柄のデメリットはこんなトコにもあるのかという印象を受けました。
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第二次世界大戦末期に密偵となり旅を始めた西川一三、その旅を沢木幸太郎さんの西川氏へのインタビューによって再度、世に送り出すことになったという。
巡礼僧として旅をすることになった西川。最初はついていくのに必死。飢えも寒さも最初は根性で、そして旅で身に着けていく知見で乗り越えていく。
淡々とした語り口から紡ぎだされるのは旅の行程、空気、出来事、出会い。苦難だらけですがそれもまた乗り越えて昇華される浪漫。567頁に及ぶ人生と旅、読めたことを感謝します。
沢木さんの文章は捻らず特別な言葉を用いない、するすると読める、けど心にしっかり残る
唯一無二だなぁと思います
#天路の旅人 #NetGalleyJP
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すごい日本人がいたものだ。
先の大戦末期に密偵、つまりスパイとしてラマ僧に扮し中国からチベット、インド、ネパールとほぼ徒歩で巡る旅を続けたロブサン・サンボーこと西川氏。その間8年。
愚直で実直な主人公が何ヶ国語も習得し現地化する事で周囲の信頼を得ていく様は圧倒されつつも同じ日本人としてどこか誇らしくもある。
主人公が晩年に、「もっといろいろなところに行ってみたかった」と伝えるシーンが印象に残る。
どこでも生きていける自信、たくましさと好奇心がこの方の原動力なのだな。
ただ旅が終わり帰国した後は、これまでの道程には興味を示さず粛々と日常を過ごすギャップ。
あまりにも変わってしまった日本への失望もあったのだろうと思う。
それにしても沢木氏の描く紀行はただただ引き込まれる。
過酷な雪原や砂漠、険しい山脈、ラクダやヤクの息遣い、ラマ僧に扮した主人公の汗や埃などが脳内イメージとして鮮明に映し出される。
そして深夜特急の時もそうだったが読了後に無性に歩きたくなる。
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こんな人がいたのかと圧倒された。西川一三が流浪し生きた8年間をただただ感動して読み進めた。あのまま旅を続けていたらどんな人生だったのか。それも読んでみたいと思った。
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沢木耕太郎の真髄とも言える長編ノンフィクション。
第二次世界大戦時に密偵として中国大陸に潜入した、西川一三の約8年に及ぶ旅を記した本である。
戦争時の密偵と聞き、所謂映画などで馴染みのある、無骨でリスクの高い職人のようなスパイをイメージしていた。もちろん、西川が旅に出た動機はそうであった。あるいはそのようなスパイとしての一面もあっただろう。しかし、ここに描かれているのは一人の純粋な旅人としての西川一三だった。
内蒙古人のラマ僧、ロブサン・サンボーとして見事なまでになりきり、振る舞う。実際に寺で修行僧として修行に勤しむ。さらには日本を思い、人を欺くこともある。しかし、それと同時に小さな人間関係や動物を大事にしたり、関所でヒヤヒヤしたりと、一人の小さな人間としての存在も確かに感じる。
想像を絶するような過酷な旅を続けながらも、そのような場面が見え隠れすることで、読者は親しみを覚えていく。
8年にも及ぶ過酷な旅を続けられたのは密偵としてだけでないことがわかる。
動機づけとして、日本人未踏の地に行くことで日本のためになるかもしれないと考えることはあるが、基本的には西川一三本人が、純粋に見たい景色を見に行く旅なのだ。
訪れる土地で人々に純粋に、真面目に接することでその街や人々を知る。
時代も、背景も、歩いた場所も違えば、人物そのものが違う。にもかかわらず、その旅のスタイルや物事への興味関心がどことなく沢木耕太郎と似ているように思う。もちろん、沢木耕太郎が書いた本なので当たり前なのかもしれないが、長年にわたるインタビューや調査で、どこか自分と重ね合わせることがあるのかもしれない。
いずれにしても、このような旅人が何十年も前にいたことを知れて幸運に思う。
天路を歩む旅人に敬意を表したい。
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密偵、潜行、チベット、インド、踏破、興味をそそるキーワードが満載な上にノンフィクション。こんな逸話が存在したのか!と驚いた。沢木耕太郎氏の淡々としつつも眼前に広大なアジア内陸部の風景が広がる描写に圧倒されます。旅行をしてきたかのような満足感!
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ノンフィクションは、人物が命だが、沢木さんの見立ては、いい。さすが。日本にもこんな人がいるとは。市井の人でもいるんです。
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第二次世界大戦の末期に、中国大陸への密偵として旅を続けた西川一三についてのノンフィクション。読みながら一緒に旅をしているようで、深夜特急の如く、抜群に面白かったです。
巡礼僧に扮して旅をする姿が詳細に描かれています。野宿をする・托鉢を受ける等さらりと書いており、また、実際に当時もそのようにしていたのは間違いありませんが、現在の日常生活と照らし合わせると、とても一行の文章だけでは表現しきれないことが多くあると想像できます。旅の大きな部分を徒歩で行い、ヒマラヤの峠も複数回往復しているという点にも驚きです。
余儀なく日本に帰ることになりましたが、もしも、それが起こらなかったら、どのような旅が続けられただろうと想像します。一方で、それが起こってしまったら、人々に広くは認知されず、本書のようにスポットにあたることは難しかったのではないかとも想像できます。
本書を通して、旅に思いに耽ると同時に、こういった人の活躍が過去に確かにあったのだと、改めて学ぶことができました。
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日中戦争のさなか、南満州鉄道に就職した西川一三はその後、日本の密偵として内蒙古、チベット、インド、ネパールに潜入する。
迫力のノンフィクション。
西川は密偵として中国奥深くに潜入したが、旅の本質を考えさせられる。
潜入と旅の違い。
沢木耕太郎が西川にインタビューした際、また行きたいか?との問いに「一度行ったところなので行かない」と答える真意は。
あ~、旅に出たい。
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淡々と西川一三の旅が語られているが、その淡白さが逆に、西川の目線に引き込んでくれ、自身が旅の当事者になったような気がした。
著者が自転車を引いた西川さんを見送る場面、何気ない描写だが、なぜかとても胸が熱くなった。
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第二次大戦末期、西川一三という日本人の若者が「密偵」として、敵国・中国の最深部まで潜入した。
蒙古人のラマ教巡礼僧に扮した彼は内蒙古から寧夏省、青海省へ、さらに第二次大戦が終結した1945年にはチベットからインド亜大陸まで足を延ばす。その後もブータンやネパールなどへ旅し、7回もヒマラヤの峠を越えた。
1950年にインドで逮捕され日本に送還されるまで、実に足掛け8年に及ぶ長い年月を蒙古人「ロブサン・サンボー」として生き続けてきた。
その間、駱駝引き、下男、見習い職工、工場現場の苦力など厳しい仕事に携わったり、匪賊がたむろする危険で険しく果てしない道を歩いたり、時には、托鉢や物乞いに身を俏すこともあった。
それほど、肉体を酷使し、経済的に底辺の生活をすることを厭わなかったのは、持ち前の愛国心と「密偵」としての使命感以上に、未知の場所を旅したり冒険することへの彼の熱情が作用していたといえる。
西川は自ら膨大な「秘境西域八年の潜行」を著したが、帰国後は盛岡で小さい会社を経営、元日以外の364日はひたすら働き、超人とはかけはなれた淡々とした生活を営んでいた。
著者はそんな稀有な旅人・西川の旅と人生を本にしようと、一年間徹底的にインタビューを続けてきた。そして、奇跡的に見つかった西川の「秘境西域八年の潜行」生原稿に触発され、本書を書き上げた。
印象に残ったのは、蒙古内を隊商の一団に交じり、駱駝とともに旅する場面。包のようなテントで寝泊まりする際、夜空を見上げる西川を想像し、思わず谷村新司の「昴」を口ずさんでしまった。
西川と同様に内蒙古の情報部員養成機関・興亜義塾出身の木村肥佐生との再会、同行の旅、インドで逮捕される際のいきさつなど、性格やタイプの違う二人の関係にも興味が湧いた。喧嘩しているのか、友情を交わしているのか一筋縄で表現できない複雑な機微が読み取れて面白く、長い旅の繰り返しがやや退屈になりがちな中で、気分を切り替えるスパイスになった気がする。
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久しぶりに沢木さんのノンフィクションを読みました。『テロルの決算』を読んでからは、面白そうな新刊が出ると読み続けてきました。印象に残っているのは『深夜特急』ですね。『深夜特急』は目的地のある自身の放浪記、『天路の旅人』は西川一三氏の目的地のない放浪記でしょうか。
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西川一三氏が内蒙古を発し、寧夏省、甘粛省、青海省からチベットを経てインドに至る6,000キロにも及ぶ潜行踏査の実録。その距離もさることながら、標高5,000m超の峠を越え、摂氏40度の砂漠を渡る過酷な旅だ。駱駝を引き、ヤクを追う。その屈強で並外れた精神力と体力はもちろん、興亜義塾で学んだ諜報員としての能力のすさまじさ。蒙古語、チベット語、インド諸語、ネパール語を操り、ラマ僧になりすます。そして何よりも旅で得た知見、風土、地理の極めて膨大な情報を自らの頭に記憶する。最底辺の生活の受容が適えば成せるというが。
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国の為という使命から離れて、自分の為に歩き始める「ここではなく」、「仏に会う」の章が好き。
仏に会う場面ではこちらももらい泣き。