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紙の本
物語の背景と何か足りないもの
2022/07/24 01:35
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投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「1984年」という作品の背景の説明としては、よく出来ている。イギリス英語とアメリカ英語での日付の表記やイーストエンドの英語は翻訳では掴みにくい。飛んでくるロケット弾がドイツ軍が発射したV-1あたりが原形となっているのは検討がつくが、作中に出て来る地名の細かな解釈までは実地を知らなければ分からない。
イースタシアの教義について中国語の表記というのは、おそらく英語で三民主義や中国国民党は音写するのが元になっているのでは?それに日本の滅私奉公が重なり合ったのが元になっているのではないか。オブライエンをアイルランド人のカトリック神父の変種として解釈するなら、カトリックの教義ならぬイングソックの思想を頂く異端審問官のイメージで解釈が出来るだろう。カトリックの信者なら、「いつもの」異端審問の暗喩に読めるのを嫌がるだろうか。作中で「クロムウェルの銅像」とある個所には実際はジョージ4世の銅像がある場所ならば、「党」にとって君主制は否定すべき対象だから、宗教色が強過ぎるにしろ、チャールズ1世を処刑して護国卿になったクロムウェルは記憶すべき対象なので移設したとも解釈が出来そうだ。オーウェルは国教会から離脱していないというので、カトリック同様、ピューリタンのクロムウェルも否定的な意識を持っていたのか。破壊されたり、他の目的に転用されたりした教会は「カタロニア賛歌」にあるカトリックの教会が閉鎖されたバルセロナやカタルーニャのイメージだろうか。
反面、「1984年」が「反共反ソ作品」と捉えがちだからか、似たような社会の第三帝国で解釈して、ソ連を批判する面についての解釈を避けている感じがする。誰がどう読んでも、エマニュエル・ゴールドスタインのモデルはトロツキーで、彼の容姿をそのまま使っているとしか解釈が出来ない。トロツキーはユダヤ人だから、どうしてもゴールドスタインの解釈次第で「反ユダヤ主義」だという結論が出てしまうのだろう。ゴールドスタインの著書については断片的な引用をしているが、何故かここは解釈していない。「裏切られた革命」は「堕落した労働者国家・ソ連」のトロツキーなりの批判はしていても、社会主義の歴史を文明論として取り上げた本ではないから、ゴールドスタインの著書という形を取ったソ連と共産主義批判、そしてマルクス主義以前からあった観念論的「社会主義」概念自体の批判にしかならないと思う。作中のビック・ブラザーの表現は外見だけでなく、ありとあらゆる叡智は全て彼に由来するという点はヒトラーよりレーニンとスターリンの方がふさわしい。
ゴールドスタインが愛情省の捏造でなければ、彼がビック・ブラザーや「党」を批判出来る場所が作中世界の地球上のどこかにあると解釈する事が出来る。そこはユーラシアでもイースタシアでもなさそうなので、「すばらしい新世界」に出て来る「非文明社会」のような世界なのだろうか。
この本の引用文を読んでいると、著者が訳した「1984年」が読みたくなった。
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