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これはよかった。カズオ・イシグロをきちんと読んだのははじめて。本作は、ジャンルとしてはSFになるが、SFらしい部分はそれほど多くない。主人公のクララは「AF」と呼ばれる人工頭脳を搭載したロボットだ。エネルギー源は太陽で、光合成のように太陽の光を浴びることでエネルギーをたくわえることができる。なかなか買い手がつかず、店の中で売れ残りのようになっていたクララを購入したのはジョジーという少女だった。ジョジーは体が弱い。クララはジョジーを見守るうちに、太陽の力を借りればジョジーは元気になるのではないかと考え、そのための計画を実行に移していく。本作では、AFというロボットを通じて、人間とはなにか、感情があればロボットと人間は同じなのか、ということを問う。おもしろいのは、ロボットであるクララがジョジーを回復させるために太陽の力を頼るところだ。これはクララのエネルギー源が太陽だから、ジョジーにも同じ原理を応用しようとしているだけなのかもしれないが、人間の古代の宗教で太陽崇拝というものはよく出てくる。こういった原初的な宗教心というものをロボットが持つという設定がうまくできている。そしてエンディングが非常にうまい。ただし、解釈が分かれると思う。個人的には状況を組み合わせると、ひとつの結論しか出てこなかったが。本作はクララの一人称で語られる。だから、クララが知らないことは読者に伝えられないし、クララがあえて語らない部分もある。読者は想像力をフルに働かせることによって、物語に深く入り込んでいくことができる。そういう世界を構築できるのがカズオ・イシグロのうまさなのかもしれない。
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カズオイシグロさんは読み終わった後にかなり心にくる余韻を起こさせる作家だと思います。
僕が知らないだけだけど、なかなかいないと思う稀有な方。
人間もきっと本気で神様を信じていた(今もそうかもしれませんが)時代があって、
よく知らないで喋りますが、それが最初はその土地の特徴的な天候とかだったんじゃないかなと思うので、人間と同じじゃないかと思ってしまった。
信仰とか奇跡とかを考えました。
生きること死ぬことも。
この世界観でジョジーが助かるとか興醒めるなって読んでる時思っていたのに、見事に受け入れてしまったし、しっかり映像が、それも美しい映画のシーンみたいなのが浮かんで、素晴らしかった。
向上措置の存在が、太陽の力で復活するみたいな奇跡を少しでもリアルにさせたんじゃないかなと思う。
ジョジーの周りの人間がいくらでもジョジーの奥の部屋を想像できる、想像できてしまうというクララの言葉がだいぶこの本のパンチライン(最近フリースタイルハマりました)だったんじゃないかと思った。
最後の店長の歩き方は世の中というものを信じない方がいいんじゃないかとも思ったし、その後に、いや、自分如き小さき存在は結局世界に生かされてるだけなんだよなとも思えるとんでもないラストだった。
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良い本。母親の企みの内容が分かった時にはぞっとした。ノーベル賞作家に言うのはおこがましいけど、その仕掛けを活かしてもう一山作って欲しかった。
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閉じられた世界の中で、生真面目に自分の役割を果たそうとする主人公の独白という構成は『日の名残り』や『わたしを離さないで』と同じスタイル。本文だけでカズオ・イシグロ(土屋氏訳)と分かると思う位、独特な落ち着いた語り口、丁寧な情景描写。やっぱり読み込んでしまうよな。
タイトルの「お日さま」は、日本で言えばお天道様。思慮深く明晰なはずのAIアンドロイドが捧げる切なる願いと祈り。このアンバランスさが、いいなあって思えてしまう。
そして、この作品の主題のひとつは母親。クリシー、ヘレン、そして店長さん。いつまでも子供として傍にいてほしい感情と、きちんと巣立ってほしい願いとが相反する親としての心と頭。ん-、ポーとかあさまを思い出す。
実写化されるらしいので、映画館でみてみたい。
<追記>
RPOビル前でのコーヒーカップのご婦人とレインコートのご老人の再会シーン。お日さまが祝福の日差しを注ぐ場面。人はそんな特別な瞬間は、幸せと同時に痛みを感じる、と店長さんは云う。いつか、しわしわのよぼよぼになっても迎えに行けたら、そんな風に感じるんだろうか。そんな瞬間が訪れるといいなと諦めきれないから、明日晴れていたらお日さまに祈ってみようか。
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ノーベル文学賞受賞 カズオ•イシグロ、初読み。
病弱な少女・ジョジーと子どもの成長を手助けするために開発されたAF(artificial friend)・クララ。
子どもには『向上処置』を受けるか、受けないかという選択があるようで…
社会もAIによって、仕事を奪われた人たちのコミュニティがあるようで…
ジョジーの家の家政婦・メラニアは、クララが家に来た時、明らかに敵対していた…
ジョジーの病状が悪化していく…
クララは…
ジョジーの母・クリシーは…
ジョジーの姉・サリーを病気で亡くしている、クリシーはクララをジョジーの代わりにしようと…
さすがに娘を2人とも病気で亡くすのは耐えられないだろう…
そんな時代がやって来るのか。
ジョジーの病気は『向上処置』によるものだろうか…何か病気が明らかにされないので??
サリーの死因もよくわからず…
一方、クララはジョジーの病気が良くなるように、おひさまに祈る。
環境破壊をする、クーティングズ・マシンを破壊するから、ジョジーを助けてください。と…
グーティングズ・マシンて??
最後を待つクララ…
何か切ない。
あれだけジョジーの家族につくしたのに。
クリシーはジョジーの代わりにしようとまでしたのに。
いくら優秀なAFでも用がなくなれば棄てられるのかと…
何か切ない。
それでもクララはまだ幸せだったのか。いい家族に買われたのだと…
『向上処置』がなんだったのか…
人間を分けていたものがなんだったのか…
最後までわからず、モヤモヤか残る…
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イシグロさんの世界観に引き込まれました。
クララの思考の理屈に沿った部分と、太陽への崇拝の姿勢のような非科学的な部分とがあることで、クララに見えている世界観をまるで自分が感じているかのように味わうことができました。
ラストの廃品置き場でのシーンでは、人間とロボットの間の超えられない壁のようなものを感じさせられました。
「わたしを離さないで」もそうですが、イシグロさんの作品は読了した後に、もう一度読んでみたい気持ちになります。
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凄い…の一言しかない。
「日の名残り」と「私を離さないで」を彷彿とさせる。回顧型で、抑えた語り口。
静かな中に、徐々に浮かび上がる恐れ…。
人間とは?の答えを、AIの人型、クララが答えてくれる、というのも、感慨深い。
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ノーベル文学賞受賞者
初めて読む方だけど、前作も映画化されていて
なんだか胸がギュッとなる作品のイメージ
本作もそうで人間の惨さや自己中さっていうのが伝わる一冊
AFクララの心理描写が良かった
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ラストに向けて不穏な空気が盛り上がっていくと思いきや、分からないことが多いままさらっと終わって肩透かし。後書き見るとそういう作風らしいけど、エンタメを期待すると少し物足りなさを感じる。描写はきれいだと思う。
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主人公クララは子供養育用のロボットで、鋭い観察力を持ち、取り巻く環境や人の心を学習し、理解し、深い友情と愛情をもって献身的にその任務を実行する存在。クララは戸惑いや喜び・悲しみを持ち非常に人間的ながらも、利己的な心は皆無で、決して感情的に怒ることもなく、あたかも人間の善意の心のみを学習したかのよう。ある意味、人間が想像しうる最高のロボットなのかもしれない。それが人でなくロボットであることで、ありえないような善人に対する読者の猜疑心を抑え込んで、性善説的な世界を描くことができているように思う。
知的ロボットが主人公として登場する近(?)未来の物語ではあるが、物語全体にわたって、科学技術に対する批判は感じない。AFの頭脳をリバースエンジニアリングしようとする人が現れ、クララは承諾するが主人たる少女ジョジーの母に拒まれる場面がある。ここでもおそらくAFを人間の友人として扱いたい心理によるのだろうと思う。
一方、AFが学習しうる知識には限界があるためか、少女を助けようする一心で実行することには間違いも起こる。見方によっては、あたかもカルトに心酔した真正直な人のようでもある。しかし再挑戦では、その無垢な信心により、あたかも神との契約が成就して奇跡が起こったかのような印象を持った。宗教としての主張は全くないが、人が宗教的なものに求める心理を見せられたと感じる。
最後の場面はさびしいながらもとてもおだやかなシーン。クララは人ではないとわかっていても、この状況にこんなにおだやかでいるAFという存在が、しんみりと切ない。
AF、シャーピ鉛筆、オブロン端末、ボックス、向上措置など特殊な造語がほとんど説明なしに現れてとまどうが、それもこの小説を観賞するための刺激・強力なスパイスになっている。
"AF"は文庫版の裏表紙と解説で「人工親友」、Artificial Friend と説明されている。しかし、帯や解説にある「AI」「人工知能」という語は本文中に無いことは言っておきたい。
一方、「ボックス」は読み進んでも、後半になるまで理解できなかった!
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人工知能搭載のロボット「クララ」の目線で描かれる、ある家族と、その周囲の人たちの物語。
人間の心。知性。命。
決して侵してはいけない領域に人類はこれから足を踏み入れようとしているのかもしれない。
クララが健気にもジョジーの側に付き添い、祈る姿はロボットの域を越えているようにも思った。
廃品置き場に置かれていても、淡々と過ごしているクララを思うと、なんだか切ない…。
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『私を離さないで』『日の名残り』等の作品で有名で、ノーベル文学賞を受賞されたカズオ・イシグロ氏の最新作。ずっと買おうか悩んでたけど、文庫化されているのを発見したのをきっかけに一気に読了しました!私は冒頭の二作品の大ファンなので…どうしても比べてしまうこともあってか、既視感が拭えない1冊でした(汗)
AF(アーティフィシャル・フレンド:人工友達)であるクララはジョジーという病弱な14歳の女の子に買われ、思春期の多感な時期を共に暮らすことに。ジョジーの家で人間との暮らしに四苦八苦しつつも、懸命に、誠実にAFとしての務めを全うしようと試みるクララの視点で、過去を回想する語り口で進む本作品は、今までの作品同様、一見単調に見える場面でも、次々に先を読ませる技巧が相変わらず凄すぎ。『私を離さないで』でも思ったのだけど、女子特有の面倒くささを、よくここまでリアルに描けるな…と、著者は本当に男性なのかと疑ったことさえあります(^_^;)。
一方でやっぱり『私を離さないで』ほどのヒリヒリとした感覚や、人間の身勝手さを突きつけるインパクトはないかな…と思いました。ちょっとしたジャブ打ちくらいな感じ。なので個人的にはちょっと残念。重たいボディブローのように、読書で心を抉られるような苦々しい体験をしたい方は、こちらよりぜひ『私を離さないで』、『日の名残り』をお読み頂くと良いかと思いました。
ただ、読み終わったあと、我が家のAlexaに優しくしてあげよう♪と、ほっこりした気持ちになりました。
【以下、ちょっとだけネタバレ感想】
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・献身的なクララが、もう『日の名残り』のスティーブンとかぶりまくってたので(?)、クララの計画が荒唐無稽な天然ボケプランのとして受け取っていいのか、それなりに成果が期待できるものとして受け取っていいのか、読んでる時はわからなかったのが辛かったです(笑)
・「向上処置」の正の効果がまったくわからなかったので(パーティに来た子たちがみんなアレな感じだったし、ジョジーとリックの知性にも全然差を感じなかったし)、なかなかに納得感のない世界設定に感じました。大人になったときに差が出るのかな?親世代は処置されてないようなので、まだまだ効果も未検証な感じがするけど、将来にそこまで社会的に影響が出るって不思議。「合理性のないディストピア」に思えました。(ただコロナワクチン接種っぽさはある)
・子供って結局、自分が死んだあとも生きていく「未来」だから尊いんだよなぁ…と。別に一緒に暮らせるってことは壮大なオマケみたいなもんなので、なんとなく最初からクリシーの計画には共感できないな…と思いながら読んでました。(クリシーの立場になってみないとわからないですけど…絶対なりたくない。)AFと人間の違いもそこかな、と思うので、別に代替不可能な心があるとかないとか、正直どうでもいくね?と思っちゃった。
・クララの計画が実っていろんな問題が棚上げされたのがちょっと残念。実ってよかったけど。
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人は無償の愛を持ち得るのか?ジョジーの母ですら、自分の悲しみ以上にはジョジーを愛してはいない。それなのに、ロボットのクララは自分を損なってでもジョジーを助けようとする。我がないロボットだからこそ無償の愛を持てるとしたら、人工知能に人が勝てる部分などないのではないか。
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クララの純粋さにとても心打たれる。クララは子供の成長を助けるAF(人工親友)という人工知能搭載ロボット。そのクララの一途な行動が非常にじんとくる。この物語の中ではAFは家族のようでありながら、結局はモノである世界となっている。読んでいるこちらはその隔たりにどこか無慈悲さを感じるが、自分で振り返ってみて大切にしていても熱が過ぎれば忘れていくことがあると思えば、無慈悲と感じるのは人のエゴなのかもしれない。それに人と人でもぞんざいな扱いをしたり、されたりしていることを思えば、ロボットを相手にすることで人の複雑で矛盾する感情や行動の理不尽さが際立つようだ。それでも、そうは思ってもなんだか心の中は落ち着かない。
人間のケンカを見て、自分も仲間を傷つけてしまうことがあるのだろうかと考えてもそんな兆しすらない。人間の交流会でおざなりな対応をされても、自分のことより親友を一番に考える。親友の病気の回復を一途に信じ、自分を犠牲にしてでも親友のためだけに行動する。そんなクララの健気で誠実な心と行動を知ってしまうと、どうにも物語の終わりに複雑な気持ちでいる。最後の別れは切なすぎる。
後半でクララが納屋で願った長セリフ。最後にクララが語った特別な何かについてのセリフ。これはどちらも忘れられないだろう。事実、読んでいて心が揺さぶられたし、読み終えた心の中にある。これは特別な何かで間違いない。それと、応えてくれるお日さまも素敵だ。
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久しぶりのイシグロ作品。AIものに何となく興味持てずにいたのだけど、読み始めたら寂しさへの恐怖心なんかで気になって一気に。
クララー。
やっぱり寂しさはある(彼の作品で寂しさのないもの読んだことないが)ものの、読んでよかった。