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この本は表題の『水中都市』、『デンドロカカリヤ』含め11編の作品が収録されている。初期短編集ということもあるのかないのか、思想的なものがこれでもかというほど見え隠れしている。そう思って読まなければ、いくつかは純粋に読める、筈。
所謂「らしさ」が詰まった作品が多い。そして変身譚ばかり。一見すると難解に思える文章に吐き気を催すのでなければ、入門編としてオススメです。
この人の文章は三回転半捻った後に逆回転がかかって戻ってくるような捻くれ方をしているので、そういうものが面倒ならば見なかったことにする方が吉。
個人的には『デンドロカカリヤ』が一番好きで、冒頭のフレーズがリフレインして離れない。民主主義だの何主義だのと、政治色がばっちり濃い作品ではあるけれども、気色の悪さと性格の悪さは、ただそれだけでこちらをニヤっとさせてくれる。
常識が常識によってひっくり返される構図は、読者が素直すぎると単純に気味が悪いだけなので、そういう意味でも読み手を選ぶ作品に思える。
どうでもいいが、彼の彼女の名前はKなんだが、Kというと『こころ』しか思いつかない発想は貧困すぎるんでしょうか。でしょうね。
うーん、文系大学一年生にオススメ。
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安部公房の短編集。
全体的に不条理なストーリーが多く、他の小説(「砂の女」や「箱男」など)と比べると結末にも救いがない。また、ストーリーの底に流れる貧しさ、政治的な風刺を伴ったユーモアが強いという特徴を持っている。
たとえば、「資本家」と「労働者」、「富めるもの」と「貧しいもの」、「支配者」と「被支配者」など。寓話を元にしたものもあれば、現実への批判を物語を通して行っているものもある。
ある日突然、一人暮らしの男の部屋にやってきた家族が、さも当然のごとく居座り、「民主主義」を標榜して、すべてを多数決で決めることを「民主的生活」と呼んで家の主を搾取する『闖入者』は、読んでいるだけでも激しいストレスを感じるような迫力がある。
非現実的な物語でありながらも風刺的、それでいてユーモアと文学性を兼ね備えている。他の長編小説と比べると政治的意図が濃いのも、これらの小説が書かれた時代と作者の意図がそこからにじみ出ていて面白い。
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短編集ですが、だからといって読みやすくなかったです。
箱男の方が私は読みやすかった。話は神話的なものが多いです。(多分)オルフェウスやイザナギでてきます。もっと神話に詳しかったらもっと意味考えられるのかな。やっぱり長編よりは、安部公房の考えた欠片という感じがしました。そこからでも十分に感じるものがあって、考えます。本は後半につれて加速していく話が多いような気がする。表題のデンドロカカリヤは、実はよくわかりませんでした...
私は長編のほうが好きかも知れません。
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小説の内容はかなり難しくて、抽象的で、よく分からなかった。
でも、画一的な社会のなかで、個人を確立することはどういうことか、考えさせられた。
流行とか規則とか知らない間に同じ色に染まってしまう私たち。
あなたとわたしの違いはなんだろう?
突きつけられた質問。
「お前がお前であることを証明できるかい」
この社会の中で、私を知る人が一人もいなかったのなら、
誰がわたしを他人に証明してくれるだろう。
わたしが、「わたしはわたしなんだ」と主張しても、それは「思い込み」と
大勢の人に言われてしまったら?一体、自分は何者になってしまうのか。
他人の評価によってしか、存在しない自分。
集団のなかにいるからこその、存在の不安を描いた作品で、今まで出会ったことのない作品だった。
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芸術(物語)と政治(経済)の対立を、両極の部分は風刺しながら、その間に真理を求めようとする作品が多いように思いました。
作品全体に漂う、偏狭な世界への苛立ちが、時代を超えて私たちの嘆きと共鳴します。
文句なく面白い短編集でした。
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この中に入っている「飢えた皮膚」という作品が私は好き。
植民者でありながら、植民地社会の底辺にいる主人公がある金持ちの女性を食いつぶすようにのし上がり、植民者としてふさわしい表皮を手に入れる、しかしそれでも主人公は餓え続けている、というような話。
植民者階級の女性(植民者と結婚した被植民者女性かもしれない)が消費され、モノ化することによって初めて主人公に愛されるという構図がある。
あとは、「手」というシンプルな寓話作品も私の好みだ。伝書鳩が主人公。
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<収録作品>
デンドロカカリヤ S24『表現』
手 S26『群像』
飢えた皮膚 S26『文学界』
詩人の生涯 S26『文芸』
空中楼閣 S26『別冊文芸春秋』
闖入者 S26『新潮』
ノアの方舟 S26『群像』
プルートーのわな S27『現在』
水中都市 S27『文学界』
鉄砲屋 S27『群像』
イソップの裁判 S27『文芸』
全編を通して、変身という共通項がある。正直カタストロフィは薄い印象がある。デンドロカカリヤはその意味がわかれば何を言わんとしているかがわかるだろうが、今は不明。登場人物は何かしらの歪な情熱に突き動かされて、足下をすくわれるパターンが多いが、勧善懲悪ではないために皮肉が光る。独立した作品として楽しむことはできる。しかし、やはり執筆された時代のエッセンスが随所にあるように思える。
解説はドナルド・キーン。一理あると思えるところが切ない。
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『デンドロカカリヤ』
『手』
『飢えた皮膚』
『詩人の生涯』
『空中楼閣』
『闖入者』
『ノアの箱舟』
『プルートーのわな』
『水中都市』
『鉄砲屋』
『イソップの裁判』
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「デンドロカカリヤ」「手」「飢えた皮膚」「詩人の生涯」「空中楼閣」「闖入者」「ノアの方舟」「プルートーのわな」「水中都市」「鉄砲屋」「イソップの裁判」の11編収録。
高校時代、課題図書として読んだ。
私が安部公房と初遭遇を果たした本。
シュールでずーんと重苦しい。
デンドロカカリヤでは、主人公が植物になってしまう。
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安部工房の初期短編集。
初期と言っても安部公房の世界がある程度完成しており、SF的なものから相変わらずの前衛的な、理解しにくいものまで色々はいっています。
個人的には、一人暮らしの男の家にいきなり多数の謎の人物が侵入してくる「闖入者」、傲岸で厚顔無恥な村のある男が、聖書にあるノアの方舟とは言いがたい結末を送る「ノアの方舟」が、皮肉も混じっていて面白かったです。
短編集なので、深く考えずに軽く読めます、
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シュールレアリスム
非現実的であるのに、何故か日常生活に浸透しているような感覚が恐ろしい。
特に水中都市がすきだった。
全体的に陰鬱で一文字一文字重みがあるのに、何故かそれがずくずくと心地よい。
二元性。
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「デンドロカカリア」
「手」
「飢えた皮膚」
「詩人の生涯」
「空中楼閣」
「闖入者」
「ノアの方舟」
「プルートーのわな」
「水中都市」
「鉄砲屋」
「イソップの裁判」
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(1981.06.06読了)(1973.08.05購入)
*解説目録より*
何の変哲もなかった街がある日突然、水中の世界に変ってゆく「水中都市」。ほかに「デンドロカカリヤ」「手」「飢えた皮膚」「詩人の生涯」「空中楼閣」「闖入者」「ノアの方舟」「プルートーのわな」「鉄砲屋」「イソップの裁判」。寓意とユーモアあふれる文体で人間存在の不安感を浮かび上がらせた十一編。
☆関連図書(既読)
「壁」安部公房著、新潮文庫、1969.05.20
「けものたちは故郷をめざす」安部公房著、新潮文庫、1970.05.25
「飢餓同盟」安部公房著、新潮文庫、1970.09.25
「第四間氷期」安部公房著、新潮文庫、1970.11.10
「反劇的人間」安部公房・キーン著、中公新書、1973.05.25
「榎本武揚」安部公房著、中公文庫、1973.06.10
「人間そっくり」安部公房著、ハヤカワ文庫、1974.10.15
「内なる辺境」安部公房著、中公文庫、1975.07.10
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安部公房の短篇集
真っ黒い単行本の方を読みました
私は文庫で揃えているので
「壁」や「R62号の発明・鉛の卵」の中身と被っているものが多くて
なんとなく後回しにしていたのですが
久しぶりに読んだらやっぱりうるっとしました
この人の水を含んだ砂のようなざりりとした比喩に
堪らない恍惚を覚えます
表題作の「水中都市」と
あと「棒」の対になる「なわ」がすてきでした
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表題で一番最初に乗っていたデンドロカカリヤはいまいち私には理解できなかった。手、飢えた皮膚、詩人の生涯、イソップの裁判はなかなか面白かった。特に手はらしくない話にも感じるが好き。