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采配
著者 落合博満
チームを53年ぶりに日本一に導き、2004年の就任以来8年リーグ優勝4回、2011年は史上初の2年連続リーグ優勝を果たす等脅威の数字を残した、中日ドラゴンズ監督・落合博満。常にトップを走り・育て続けた名将が初めて明かす、自立型人間の育て方、常勝チームの作り方、勝つということ、プロの仕事ついてetc.
采配
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采配
2011/11/29 11:03
名将・落合博満の思想
18人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:としりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
落合博満は名監督である。なにより成績が証明している。
2004年に中日ドラゴンズの監督に就任し、8年間でリーグ優勝4度、リーグ2位からCS勝ち上がっての日本一が1度という実績を残した。
落合が監督に就任する前までのチームは、決して常に優勝争いするチームではなかった。
因みに2003年までの30年間の中日ドラゴンズの成績をみてみると、30年間でリーグ優勝が4度、日本一は無し、という成績だった。いわば、「たまにリーグ優勝するチーム」でしかなかったのである。
落合は喜怒哀楽をほとんど表に出さない。試合中はベンチで腕組みをしたまま表情を変えることがほとんどない。何を考えているのか、どう思っているのか、非常に読みにくい監督である。
さらに、落合監督指揮下のチームを特徴づけることとして、情報管理の徹底が挙げられる。選手の体調不良や軽度の故障についての情報をほとんど外に漏らさないのである。
例えば、リリーフエースの岩瀬投手の登板がしばらくなかったときなど、実は軽度の故障があって登板できなかったことが後で明らかになる、といった具合である。
こうしたことは、本書では「リーダーは部下に腹の中を読まれるな」(P196-200)、「情報管理こそ監督の仕事」(P182-185)として真意を語っている。
ここは面白いところでもあり、一般人にとっても情報管理として心得るべきところだろう。
また、落合監督の投手起用で物議を醸したケースとして、07年日本シリーズ第5戦が挙げられる。
8回までパーフェクトのピッチングだった山井投手を9回岩瀬投手に交代させた。これも本書に登場する。(P74-78)
あのとき落合はどう考えたのか?また、ベンチ裏で何があったのか?
ところで、最近話題になったこととして、二塁手・荒木選手と遊撃手・井端選手とのポジション入れ替えがある。両選手はそれぞれ守備のベストナインとして、6年連続でゴールデン・グラブ賞に選出されている。そのポジションを入れ替えようというのだから、かなり勇気のある決断だ。
遊撃・井端選手の衰えによる、という巷での評判だったが、本書の中では落合はそのようには語っていない。内野手出身という眼もあり、落合特有の視点にもよるのだろう。
本年度、二塁・井端、遊撃・荒木、として見事成功させた。
本書で落合が語っていることは、野球界に留まらずビジネスなど社会一般にも通じるものがある。
指導者はどうあるべきか、若年者はどういう心構えで日々鍛錬を重ねるべきか、本書から学べることは少なくない。
落合は現役時代、エリート街道を歩んだわけではない。一般企業のサラリーマンも経験し、プロ球界では下積みから超一流まで昇りつめた。いわば異色の選手だった。
しかも、選手時代に7人もの監督に仕えたという。
一般社会人の経験、下積み経験、超一流選手としての経験、いろいろなタイプの指導者に接した経験、と。そうした豊富な経験が落合の財産になっており、指導者として活かしきってもいるのだろう。
さて、落合は本年、2011年をもって中日球団を退団する。これは落合本人の意思ではなく、球団側の事情だと聞く。
本書からは、落合退団によって中日球団が失うものの大きさも、うかがえられるようでもある。
采配
2012/01/25 16:42
実践と深い考察から生み出されたこの本は、ビジネス書の域を超えて「人生の書」になっている
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
人の上に立つ立場にあるリーダーだけでなく、上からどう評価されているかを知りたい人にもぜひ薦めたい一冊である。どのような考えに基づいて選手を起用したか、その具体的な判断や意志決定の詳細だけでなく、その理由とそのときの著者の気持ちまでが書き込まれているからだ。
「さいはいをふるう」という表現で耳にすることは多い「采配」。こうして漢字で書かれた「采配」という2文字を見るのはめったにないことなので、それだけでもインパクトがある。「采配」とは言い換えれば「指揮」のことだが、「采配」というコトバをつかうと戦国武将のような雰囲気がかもしだされるのは面白い。
中日ドラゴンズのファンでないだけでなく、最近は野球をみることもあまりなくなっていたわたしだが、現役時代の落合選手の言動がじつにユニークで合理的なものであることには、サラリーマンからみたアンチヒーローとしてひそかに喝采を送っていたものだ。
監督になってからの落合氏については、よくは知らなかったのだが、「名選手かならずしも名監督ならず」というジンクスは、この人には当てはまらなかったことは確かだ。それは、本書を読むと自然に理解される。落合氏は、結果を出し続けた名選手ではあるが、野球のエリート街道をひた走ってきたサラブレッドではなかったからだ。うまくいかない野球人生というものを、身を通じて知り尽くしているからだろう。だからこそ、うまくいっている選手だけでなく、うまくいかない選手の気持ちも手に取るようにわかるのだ。
2011年度の日本シリーズでの勝利は最終的に逃したとはいえ、中日ドラゴンズを率いて、「常勝チーム」を作り上げた実績はまさに「野球殿堂」入りにふさわしい。だが、本書を単に野球監督の「采配」論と読むには、あまりにも惜しい。ダイヤモンド社から出版されていることが示しているように、マネジメントについて書かれたビジネス書として読むべき一冊だ。
とはいえ、通常の中身の薄いビジネス書とは違い、この本は活字が小さく分量が多いだけでなく、人生知がにじみ出たような記述で中身がじつに濃い。最初から最後まで読みながら、思わずチェックを入れたり線を引きながら読んでいることに気づく。それだけでなく、この本は売らずに手元に取っておこうという気持ちにさせられる。
内容については、目次を見ていただくか、直接手にとって見ていただくのが一番だが、この本は、実績を残した野球監督が書いた「采配」論としてはもちろん、ビジネス書を超えた、それこそ「人生の書」として扱うべきなのだ。味わって熟読し、再読する価値のある一冊である。
采配
2012/01/30 20:16
選手をいたわる。
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
采配(さいはい) 落合博満 ダイヤモンド社
最終ページに8年間で4回もリーグ優勝をしたのではなく、4回もリーグ優勝ができなかったという趣旨のことが書いてあります。ほほえみました。
この本を読む前にアップルの創始者スティーブ・ジョブズ氏の伝記を読みました。ふたりに共通する点がいくつかあります。数値で考える。歴史に習って「模倣する。」、これについて、スティーブ氏のほうは「英雄は盗む」、共通点として、理想を100%で設定する。シンプルを追求する。落合監督の場合で加えると、「練習量」で結果が決まる。負け方を考えるがあります(全勝は不可能)。この本を読むと監督視線で野球観戦ができるようになります。
監督を辞めたから書ける事も書いてあります。現役選手の固有名詞も登場します。最初はおとなしい内容を予想していました。違います。強い口調、時には激しい主張があります。びっくりしました。本が主張しています。
野球の評論は結果論。77ページ、山井投手の幻の完全試合、256ページ、開幕投手に川崎選手を起用した理由が書かれています。涙がにじみました。ドラマを始めたのです。太い杭(くい)を打ち込んだのです。奇跡を起こすことに通じます。
監督の選手に対する愛情は強い。選手を守る。選手の家族の生活も守る。現実的な視点は好きです。選手へのメッセージがこめられた本です。記述は熱い。体技心、勝利より勝負、植物化・ロボット化した指示待ち人間の現代若者に対する対処法などが書いてあります。