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電子書籍オリンポスの果実
2019/08/27 15:56
これはオリンピック小説でもあったのか
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第10回ロサンゼルスオリンピック(1932年)を舞台に、若きボート選手が開催地までの渡航船上で出会った女子陸上選手への寄せる、あまりにも純な想いを描いた中編小説である。
最後まで「好き」と言えない主人公は現代の読者から見ればなんとも歯がゆいところだろうが、それでも主人公のような想いは今でも誰もが少しは持っているのではないか。
作者の田中英光は早稲田大学在学中にオリンピック選手に選ばれている。
その後文学の道を志し、太宰治に師事。この作品は1940年に太宰の序文がついて出版されたという。
その太宰が玉川で入水心中をした1948年の翌年、田中は太宰の墓前で自殺を図って亡くなる。享年36歳。
あのオリンピックから20年にもなっていなかった。
この作品は若者の狂おしいまでの一途な想い、それは時に滑稽であり残酷でもあるが、を描いているが、同時にロサンゼルスオリンピックの選手たちの動向が細かく描かれて、オリンピック小説として評価されてもいいように感じた。
「総ゆる人種からなる、十三万人の観衆に包まれた開会式は、南カルホルニアの晴れ渡った群青の空に、数百羽の白鳩をはなち、(中略)炎々と燃えあがった塔上の聖火に」と、これはこの作品に描かれたロサンゼルスオリンピックの開会式の模様だ。
あるいは選手たちが航海途中でハワイ島によって日系人たちの熱い歓迎を受けた様や外国人たちとの交流など、オリンピック記録としての文学の面白さを十分味わえる。
オリンピックがまた東京にやってくる今、もう一度この作品は読まれていいのではないだろうか。