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香水物語
著者 森 瑤子
深く傷ついている時でさえ、そこにほんのささやかな物が登場しただけで、女は生き返ることができる――。プロポーズの言葉とともに贈られたダイヤモンド。デビュタントの日にはじめて身に付けた真珠。遠く離れた恋人と同じ香りにつつまれ眠った夜。匂いや輝きで、あるいはその名前の響きで記憶に残る香水や宝石をモティーフに、大人の女性の輝きと悲しみを鮮やかに映し出した贅沢な恋愛小品集。
香水物語
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香水物語
2005/01/28 15:58
小道具のインパクト
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Hiris - この投稿者のレビュー一覧を見る
森瑶子は短編小説の中に、様々な小道具を散りばめる。
『香水物語』は、表題の通り、香水をモチーフにした短編小説集。香りが人に与えるインパクトが様々な形で描かれる。
旅先で出会ったミステリアスな女性が、一度会ったことのある女性と同一人物であることを香りによって気付いたり。
恋人の浮気を、部屋にさりげなく置かれた香水瓶によって知ったり。
恋愛の諸相に、香りが印象的に組み込まれている。
それが単なる「香り「香水」ではなく、具体的なブランド名・商品名が示されることで、一層物語が鮮やかに浮かび上がる。
こうした小道具の用い方の巧さは、森瑶子ならでは、と思う。
『香水物語』が出版されて年月が過ぎ、今では発売されていない商品もあるのが、惜しまれてならない(エスティー・ローダーのホワイトリネンは廃盤になっている模様)。
読んだら、ここで用いられている香水が実際にどんな香りなのか、気になるはず。香りを体験したら、読む楽しみが倍増することは間違いない。
個人的に気に入っているのは、三角関係・四角関係を描いたもの。
キャロン「フルール・ド・ドカイユ」、ギ・ラロッシュ「フィジー」、イヴ・サンローラン「オピウム」。
どれも、香水が言葉以上に雄弁に秘密を語る。嫉妬や妄想を掻き立てる。
恋人もしくは妻・夫を見つめる視線と、香水の香りが交錯し合って、言葉にならない言葉が行き交うような場面が印象的だった。
森瑶子は、この『香水物語』を書くにあたって、全ての香水を自分で付けてみたという。
用いられている香水は、この小説が書かれた当時、話題になったり流行していたものであろう。
もしも今、森瑶子が生きていたなら、どの銘柄を用いて書くのだろう。そんな空想をしたくなる。