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死者の体温
著者 著者:大石圭
安田祐二は30歳。砲丸投げの元日本代表選手で、今は不動産管理会社の経営企画室に勤めるエリート会社員。ハンサムで温厚。にこやかで職場や近所での評判もよく、湘南の洒落た高級マンションに1人で暮らし、クラシック音楽とスコッチウィスキーを愛し、野良犬を可愛がり、野鳥に餌をやり、そして……次々に人を絞め殺し、下田の別荘の庭に埋めているのだった……。トラウマも動機も悪意もない史上最悪の連続大量殺人!!
死者の体温
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紙の本死者の体温
2004/05/11 16:20
単純に人を殺す快楽
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投稿者:カルバドス - この投稿者のレビュー一覧を見る
理由なき殺人などあり得ない。銃を乱射して「当たり所が悪かったら死んでもいいや」なんてのになると幾分理由は薄れるが、特定の個人を狙っている場合、その瞬間まで見ず知らずの人間だったとしても、殺すための理由は生ずる。たとえそれが身勝手なくだらないモノであっても、理由には違いないのだ。
本書に登場する殺人鬼は、気に入った人間を見かけると、ついつい首を絞めて殺したくなってしまう。細い首に自分の指がめり込んでいく瞬間、その感触が堪らないという。また、その人物を殺すことによって、被害者のそれまでの過去やこれからの未来を、自らの手で終止符を打つという行為に陶酔するのだ。殺す相手は“首”さえ気に入れば誰でもよく、老婆から少年まで様々だ(圧倒的に女性が多いが)。
読み始めると気付くが、著者の『湘南人肉医』と内容が酷似している。なんで今更、と思っていたら、本書は1998年に出版されたものの文庫版だった。本書にカニバリズムの記述はないが、なるほど似ているわけである。著者自身があとがきで、この作品がターニングポイントになったと、述べている。それで今回の文庫化となったのだろう。
『湘南人肉医』と似ていながら、本書の殺人鬼の方が節操がない分歯止めがきいていなくて、かなりのスピード感がある。次から次へと殺していく様は、見事(?)としか言いようがない。なかなか警察の手が伸びない辺りは甘く感じるものの、この作品に細かすぎる設定は似合わない。テンポ良く殺人を楽しんで(?)もらいたい。そして、身近に潜む狂気の恐怖を、存分に味わって欲しい。