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道三堀のさくら
著者 著者:山本一力
道三堀から深川へ、暮らしに欠かせない飲み水を届ける水売りたちは、皆自分の仕事に誇りをもって働いている。そんな水売りの一人、龍太郎には、蕎麦屋の娘・おあきという許嫁がいる。日本橋の大店が蕎麦屋を出すとの報せに、「美味い水」が必要だと思い知らされ、協力して美味い水造りを始めるが、いつしか二人の間に微妙な隙間風が吹き始めて…。人の気持ちに翻弄されつつも、せつなく凜々しい、江戸の「志」を描く長編時代小説。
道三堀のさくら
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紙の本道三堀のさくら
2010/03/02 10:40
深川の人々の生活を守った水売り達
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
色々な職業をテーマに、江戸の文化風情を楽しませてくれる山本作品達。その職業は料亭だったり駕篭かきだったり町医者だったり飛脚だったりまさかの女衒!だったりと様々なのだけれど。どの作品も何せ粋で胸が空く。日本てのは日本人てのは、本当に良い国民族なんだなぁと思わせてくれるのだ。
さて今回の職業はというと、水売り。いやこれまで水売りをテーマに作品が出てなかった事に、逆に驚いた。主に深川を舞台に描かれる山本作品。深川という町は埋立地であるから、井戸をどんなに掘っても塩辛い水しか得られない。であるから町民たちは飲み水や料理に使う水は、水売りから日々買っていたのだ。長屋住まいだろうが高級料亭であろうがそれは変わらない。だからこそ水売りは、深川に住まう人々全てに密着していたとも言えるだろう。その水売りをこのタイミングで書き上げるというのは、まさに満を持して、という事なのだろう。
江戸の街には水道が完備されており、その水道の余り水は橋の袂から「吐き樋」を通って大川へと捨てられていた。その水を「水船」に貯めて深川の庶民へと担ぎ売りしていたのが、水売りである。人間、水が無ければ生きてはいけない。だから水売りは月に一度の休み以外は、年中無休で働き続けていた。しかし水というのは天からの贈り物であって、涸れる事もあれば大量に降ってくる事もある。だからこその、ドラマが生まれる訳なのだが・・・。
「水涸れて」「水満ちて」「水熟れて」の3つのタイトルと、その章構成が非常にうまいなと感じた。水が涸れたら当然庶民は困るわけで、さぁそうなると水売り達はどう対処したのだろうか。逆に水が満ちてくると、どんな事が起きてしまうのか。そして「水熟れて」とは一体どんな事態で、どんな物語が展開されて行くのか。想像するだけで楽しくなるという物。そして物語をさらに面白くしているのが、物語の主人公龍太郎と恋人おあきの恋。まるで水の満ち涸れに沿うようにして、変化していくのだ。男女の間など、まさに水物だといった所だろうか。ただ面白い構成だなと思ったのだけど、ちょっと残念に思ったのは最後が少々湿っぽくなってしまった事。水がテーマとはいえやはり山本作品は水っぽいのではく、天晴れ!と締めてもらいたいものだなぁと感じた。