- みんなの評価
4件
嗤う伊右衛門
著者 著者:京極 夏彦
鶴屋南北「東海道四谷怪談」と実録小説「四谷雑談集」を下敷きに、伊右衛門とお岩夫婦の物語を怪しく美しく、新たによみがえらせる。愛憎、美と醜、正気と狂気……全ての境界をゆるがせる著者渾身の傑作怪談。
嗤う伊右衛門
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
嗤う伊右衛門
2010/04/21 11:13
同じ美しさを持つ魂どうしは、呼応せずにはいられない。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
読みそびれていた一冊。
京極夏彦の本はこれで三冊目だが、
そんな「京極初心者」の私にとって
これはかなり読みやすい本だった。
「幽霊や化け物より、生きてる人間がいちばんこわい」
というような趣旨のことを岩井志摩子氏がどこかで
書いていたが、まさしくそれを彷彿とさせる。
惨劇を生み出してしまう人間の宿命というか、
生い立ちから始まってその人をつくってしまうもの。
まったく同じ景色を見ていても
それぞれ違うものを映し出してしまう、ひとの心の不思議さ。
ここに出てくる人たちはみな、のっぴきならない事情を抱え
宿命の波に飲み込まれていく。
小説だからこそ、かなり大胆にドラマチックに
残酷な設定がなされるが、惹き込まれて共感さえしてしまうのは
登場人物の心理がよく描かれているからだろう。
でも、赤ちゃんの悲劇はちょっと酷すぎると感じたが。
たとえば鬼のような伊東喜兵衛。
でも彼の持つ嫉妬の感情は誰もが持っている。
誰もが彼になり得てしまうのだ。
そしてこの小説の裏テーマ(!?)である近親相姦。
これは肉親間の依存しすぎる関係を示唆しているのでないか。
この本は「悲恋もの」だとよく評される。
まったくそのとおりで、悲恋であり純愛だと思う。
岩と伊右衛門のあいだには、キスシーンどころか
言葉さえほとんど交わされていない。
だけど濃密な愛が浮かび上がってくる。
私は、岩がすべてを聞かされて発狂し、走っていくシーンに
なぜだか涙が止まらなかった。
ラストは圧巻という言葉にふさわしい。美しすぎる。
本当の美しさとはなんだろう、ということも
この本を読んでいて、すごく考えさせられたことだった。
いざという時にすべてを捨てられる潔さ。
決して他人を中傷せずに、自分の中に原因を見ることのできる強さ。
岩も伊右衛門も、確固たる自分を持っていた。
自分を信じきっているからこそ、人をあんなに深く愛せるのだろう。
そしてその魂は呼び合い、通じ合ってしまうのだろう。
嗤う伊右衛門
2006/04/17 00:47
京極夏彦が描く、もうひとつの四谷怪談
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:永遠のかけら - この投稿者のレビュー一覧を見る
誰もが知っている鶴屋南北の『東海道四谷怪談』が、京極夏彦によってまったく違う物語として生まれ変わった。
伊右衛門、お岩、お袖、直助、伊藤喜兵衛と、四谷怪談でおなじみの登場人物が勢ぞろいするものの、それぞれの関係、起こる出来事は少しずつ異なり、それぞれの真意や本質されも違うキャラクターとして描かれている。
南北作品、京極作品、どちらも悲しい物語だが、『東海道四谷怪談』が怪奇部分がクローズアップされるのに対し、『嗤う伊右衛門』は、悲恋物語といった印象。
歌舞伎では、極悪であるがゆえに魅力的な人物として人気の伊右衛門だが、京極が描く伊右衛門も文句なしに惹きつけてくれる。
嗤う伊右衛門
2003/04/25 11:10
最上の愛のカタチ。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:purple28 - この投稿者のレビュー一覧を見る
伊右衛門はとても誠実な人でした。
岩はとても素直な人でした。
梅は可愛い人でした。
喜兵衛は寂しい人でした。
一番悲しい思いをしたのは、もしかしたら又市かもしれない。皆の心が分かるが故に、その結末もまた分かってしまう。
どこかで誰かがボタンをかけ違えてしまったような。けれど、その誰かがかけ違えなくても、次の誰かがかけ違える。−−宿命なのかもしれなくて。
京極夏彦の作品はいつも張りつめている。深淵を覗いているような、覗かれているような。どこまでいってもほの暗い闇が消えることはなく…。
それぞれが最良の道を選んでいるのに、それが最も悲しい結末を生むなんて。
ただ、伊右衛門と岩にとっては、これが最上の愛のカタチなのかもしれないと思った。それだけが唯一の救い。
ここで、初めて闇が消えた。最初で最後なのだけれども。