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セメント樽の中の手紙
著者 著者:葉山 嘉樹
ダム建設労働者の松戸与三が、セメント樽の中から発見した手紙には、ある凄惨な事件の顛末が書かれていた。教科書で読んだ有名な表題作他、小林多喜二にも影響を与えた幻の作家・葉山嘉樹の作品8編を収録。
セメント樽の中の手紙
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セメント樽の中の手紙
2008/11/06 12:10
篦棒奴!(本書p.8)
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
べらぼうめ。と、ふりがなを振られたこの文字に接し、しばらく、本書を手元から遠ざけたくなった。読みやすく、力強い表現。奇抜なアイディア。しかし、言葉本来の意味で「すさまじ」い世界が広がる。
短編小説の傑作として、国語教科書にも取り上げられている、本書収録の『セメント樽の中の手紙』の一節である。
立ち読みができる書店であれば、まずこの。1925年に執筆されたわずか六ページの作品をお読み頂いてから、本書のご購入を検討いただきたい。
『蟹工船』は当分読まない。きっとある感銘を受けることは予想できるのだが。
高橋葉介先生の傑作『腸詰工場の少女』、夢野久作の『瓶詰の地獄』などのページが、ふと、浮かび上がっては。消える。
本書は、活字中毒者の観賞に堪える、敢えて言えば優れた娯楽作品としても成立している、八つの短編作品と作者、葉山嘉樹氏の「人と作品」についての解説、紅野謙介氏の解題、作者年譜で構成されている。
『蟹工船』の作者は。取り調べの末、若くして死んだ。
彼の責任はそこで終わっている。
彼はそのあとの昭和の激動期を見ることなく。今に蘇る文名を残した。
その小林多喜二の先行者であった、本書の作者は、家族を抱え、それから長い年月を暮らす。文筆生活と実生活の間を揺れながら。
戦時下、岸田国士氏などとの関係を維持し、映画、ラジオドラマなど活動を拡げる一方、「村」、「海」、「山」での「地に足のついた生活」を模索していた様子が、年譜から伺えた。
五十一歳。満州開拓団員として、帰国途中、病死。
本書所収の作品群で、彼は、生活において「忌まわしい」ものどもを鮮烈に描くことに成功している。
「死」。「病」。「性」。「暴力」。「血」。
そして、これらの対象に不思議な輝きを与え、最後まで読ませる文体、テクニックも充実している。
本書所収の作品群の執筆後、長い時間を、彼は、様々なものを見すえて生き続けたのだろう。
小林多喜二が見なかった昭和を。