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吸血殲鬼ヴェドゴニア
著者 著者:虚淵 玄(ニトロプラス) , 著者:種子島 貴
「なんだこの傷は……!?」ある日惣太が目覚めると、首筋に大きな傷跡がふたつ。そう、なにかに「咬まれた」ような。その日から惣太を襲う闇の眷属。残虐な殺戮鬼と化した惣太が戦いの果てにみるものは……!?
吸血殲鬼ヴェドゴニア MOON TEARS
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吸血殲鬼ヴェドゴニア White night
2003/02/08 04:05
驚愕のライトノベル
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エリック@ - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙からしてインパクトの強い本作だが、もともとPCゲームが原作という出で立ちだ。原作がゲームというメディアミックス形態は最近では珍しくないが、それでもいわゆる18禁ゲームの原作で、なおかつ、ここまで「魅せられる」作品となると皆無だろう。最近は停滞気味のジュニアノベルから、これほどの作品が飛び出したことはまさに驚愕の事実だ。
ストーリーは、吸血鬼に噛まれ自らも吸血鬼になりつつある主人公が、唯一、人間に戻るための手段として、自分を噛んだ吸血鬼を発見し、抹殺することを決意する。つまり、表題の「吸血殲鬼ヴェドゴニア」となって吸血鬼を「狩って」いく…、というのが話の展開である。
設定自体はいかにも非現実的なものであるが、その中にしっかりとリアリティと緊張感が漂っている。作品の中で、そういった雰囲気を醸し出しているのは、主人公が完全に吸血鬼になってしまうまでには、たったの2週間しかないという時間的制約の存在であり、同時に、いわゆる「勧善懲悪」に陥りそうもないストーリー展開によるものだ。吸血鬼やモンスター、妖怪、などオカルト系を題材にした作品は角川スニーカーに限らず非常に多く刊行されているが、ことライトノベルのジャンルに限ってみると、読みものとして耐えうる作品は驚くほど少ない。本作品は、表現力やストーリー展開などの基本的な部分もさることながら、そういった非現実的な材料をいかに読者に面白く読ませるか、という部分においてかなり優れている。特に、展開を追っていくと、主人公の敵がすなわち「悪」という構図には成り難く、物語の後半に行くにつれて「何かどんでん返しが待ちうけているのではないか」、という期待も抱かせる。吸血鬼になっていく間に主人公に襲い掛かる恐怖、自分は人間ではなくなっているという不安など、「2週間」という短い期間に苦しむ主人公の葛藤も作品をより深いものにしている。
著者は自らを「業界的に住んでいる場所が異なる」と評しているが、ジャンル的には現在のジュニアノベルで十分包括されうる範囲であるし、作中の表現力等も最近の挿絵のみで勝負する作品とは比較に成らないくらいに優れている。良い意味で山田秀樹氏の挿絵と作品がマッチしていることもあり、近年のスニーカー文庫の中では抜群に存在感のある一冊だといえる。ジャンルの好みを抜きにすれば、恐らく、かなりの人間に受け入れられる作品だろう。文章も挿絵もこれ以上ないくらいに「熱く」、存在感を放っている。少なくとも、18禁ゲームに対するある種の偏見はこの作品には当てはまらないことを断言できる。
本作では物語の前半までが描かれている。かなり盛り上がってきたところで終わってしまうので、読者としては続きがどうなるのかヤキモキするが、それも続編が刊行され次第解消されるだろう。未読の方は是非一度本作を読んでみて欲しい。この作品は読んで決して損はない。