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17件
夏と花火と私の死体
著者 乙一
九歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなく――。こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄弟の悪夢のような四日間の冒険が始まった。次々に訪れる危機。彼らは大人たちの追及から逃れることができるのか? 死体をどこへ隠せばいいのか? 恐るべき子供たちを描き、斬新な語り口でホラー界を驚愕させた、早熟な才能・乙一のデビュー作品。
夏と花火と私の死体
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夏と花火と私の死体
2006/10/03 09:59
DeathNoteの作者?
12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Rista - この投稿者のレビュー一覧を見る
今や知る人ぞ知る有名な漫画「Death Note」。
本来、努力・友情・勝利というジャンプ作品の必須テーマの中、それらを歪んだカタチで表現したということでも有名である。
とくに数々のトリックや心理学を取り入れたこの作品には、原作者の才能とこだわりとを垣間見ることができる。
しかし最近原作者である「大場つぐみ」という女性は、「乙一」という作家ではないかという説が浮上してきているのだ。
その説を確証付ける作品の一つが、「夏と花火と私の死体」である。
単純にまとめると小学生の兄妹が、殺した一人の少女の死体を巡って死体の隠蔽処理を行うという設定だ。
サスペンス小説はたいてい追い詰める側を主役としているが、この小説は逆で、追い詰められる側を主役としている。
そのため、ハラハラドキドキするスリルを演出できるのかもしれない。
また普通の小説は生きた人を視点をするのに対し、この作品では死体の視点で書かれているのだ。
このような視点で書かれている作品は、この本の他に数冊あるかどうかも疑わしい。
以上のように、この作品は文体も内容も他のサスペンスとは一味違うのである。
ここまでの説明ではまだ「大場つぐみ」と「乙一」を繋ぎ合わせることはできないだろう。
だが、問題は登場人物なのだ。
そのキーマン、つまり重要人物が先頭をきって死体処理を行う兄なのである。
物語で繰り広げられる彼の隠蔽処理の仕方や土壇場での冷静な判断は、小学生とは思えないほどである。
そこからまるでDeath Noteの主人公、夜神月を沸騰させられるのだ。
この本の中には、「夏と花火と私の死体」の他に「優子」という作品も編集されている。
家政婦である主人公が、屋敷内にいる一度も顔を見たことのない謎の女性「優子」の正体を探るという話だ。
一応トリックは使っているが、ジャンルはサスペンスというよりホラーが近いだろう。
この作品に「大場つぐみ」と「乙一」を繋ぎ合わせるキワードはない。
しかし、後半でのトリックは中々見物かもしれない。
乙一は第六回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、一七歳でデビューしている。
そしてそのデビュー作が、この「夏と花火と私の死体」なのだ。
デビューしたのが一七歳ということは、一六歳、もしくはそれ以下の頃からこの文章を書いていたことになる。
また描かれる情景や物語もその豊かさに圧倒されていたこともあり、評論家はよく彼を天才だと褒め称える。
確かにすごい才能だ。
が、天才は何もないところからは生まれない。きっと乙一なりの試行錯誤と努力があったに違いないのだ。
彼はそれを身をもって証明し、文学を目指す者に年は関係ない、ということを暗に示したのである。
この姿勢には文学だけでなく他のことも当てはまる。
努力あってこその天才、そこに我々も見習うべきところがあるのではないかと思う。
夏と花火と私の死体
2006/02/27 01:26
うなってしまいました
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
乙一さんのデビュー作です。初めてタイトルを見たとき、私はうっかり「夏と花火と私と死体」だと思い込んでいて、「へ〜、私と死体かぁ」って思っていたのです。でも、よく読んだら違う!「私の死体」なんですよね。どうやら今回は死体が主役??って驚いてしまいました。この本にはタイトルの作品ともう1編「優子」というものが収録されています。もちろん表題の作品もよかったのですが、私は優子という2つ目の作品も「おぉ!」と衝撃を受けました。かなりおもしろいです。
9歳の夏休みに少女は殺されます。あまりにあっさりと無邪気な殺人者によって。そして、その幼い兄と妹によって隠されてしまった私の死体はどうなるのか・・・。
ということで、本当に私の死体のタイトル通り語り役は死体です。殺されてしまった少女が、殺した少女とその兄をずっと追いかけて語るんです。別に恨みとかそういう感じではなくて、とても淡々と兄妹を見続けながら読者にそれを伝えていくんですよ。兄と妹は必死で死体を隠そうとするのですが、小学生なのでこれがまた大変で・・・。あんまり書くとあれなのですが、ラストは意外な結末でした。死体の目線から物語がすすむという話の作り方もなかなか面白かったし、これが本当にデビュー作?といった感じです。
2作目の優子はとても短い作品なのであらすじは書きません。書くと解ってしまってつまらないから。でも、最初「なんじゃこれ?」と思いながら読んでいたんですけど、最後まで読んで「すごい・・・」とつぶやいてしまいました。思い返してみればいたるところに伏線が張られているんです。でも読んでいるときはまったく気がつきませんでした。普通の会話の流れの中に、実はとても重要なキーワードがいっぱい隠れているんですよ。「ウムム」って感じです。
乙一さんって私より2つほど年下らしいのですが、ものすごい才能だよなぁと感じました。これ、おもしろいです。どちらかというと黒い乙一なのかしら・・・。グレーくらい?ってところでしょうか。
夏と花火と私の死体
2011/12/03 19:15
設定の奇異さより、それを奇異さと感じさせない奇異さに引きずり込まれる。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アヴォカド - この投稿者のレビュー一覧を見る
夏はいつだって、少年少女にとってどこか少し甘くて怖くて、奇怪だ。9歳の少女と、その死体をめぐる兄妹。
奇異な設定である。なにせ「死体」が一人称で語るのだから。
なのに、そんな設定に度肝を抜かれている暇を、読む者に与えない。ずるずると引きずり込まれる。
淡々と語り、読んでいる者を迷わせない。
自分が死ぬところ、死んだあとに見ているものを語る9歳の「わたし」の、視点にも語り口にも、ちっとも無理がないのだ。
そして、読み終えた時にも嫌な後味は残らず、不思議とすこんとした感じなのは、淡々とした語り口のなせるわざだろうか。
ずいぶんたってから、この設定には、吉村昭「少女架刑」という先行作品があることを知る。 でも、それを知っても、この作品が色褪せるわけではない。
「少女架刑」のことを乙一が知っていたかどうかはわからないが、最早それもどうでもいいこと。
知っていながらこれだけ自分のものにしていたら、それはそれで凄まじい根性だし、知らずに書いていたなら、その想像力も凄まじい。
それほど、乙一は、その奇異な設定をすでに自分の世界にしてしまっている。
才能とは、こういうものを言うのかな、とちらと思う。思ってしまう。
計算を感じさせない。誰にも真似できない。
この時点でこのような文体を既に身につけ、乙一は、最初から乙一として完成していたことを、知る。