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4件
白い薔薇の淵まで
著者 中山可穂 (著)
ジャン・ジュネの再来とまで呼ばれる新人女性作家・塁と、平凡なOLの「わたし」はある雨の夜、書店で出会い、恋に落ちた。彼女との甘美で破滅的な性愛に溺れていく「わたし」。幾度も修羅場を繰り返し、別れてはまた求め合う二人だったが……。すべてを賭けた極限の愛の行き着く果ては? 第14回山本周五郎賞受賞の傑作恋愛小説。発表時に話題を読んだ受賞記念エッセイも特別収録。
白い薔薇の淵まで
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白い薔薇の淵まで
2009/06/06 03:05
焦りにも似た感動。目をそむけてはいけない人を恋う業。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:はりゅうみぃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は第14回(2001年)山本周五郎賞受賞作品だが、本を閉じた今、この作品を選んでくれた選考委員の皆様に1人1人握手して回りたくてたまらない。
この本の存在を教えてくれた事に対するお礼ともう1つ、筆者に命を与えてくれたことに対しての感謝を伝えたくて。
本書はジャン・ジュネの再来と言われる新進気鋭の女流作家「塁」と、普通のOL「わたし」との激しい同性間の愛の記録だ。
この作品は多分に筆者の姿が自己投影されている。筆者は同性愛者であることを公言しており、そのカミングアウトに伴う社会的制裁とも言える偏見の中を1人戦ってきた女性だ。
彼女の自分に対する嫌悪、肯定、孤独、思慕などがある時は「塁」、ある時は「わたし」となって本書の中で激しく渦巻く。
もともと恋愛感情には生殖行為という欲望が潜んでおり、これはすべての生物が持つ子孫繁栄のための犯しがたい本能であるが、同性愛はその本能に真っ向から立ち向かう、ある意味人間でなければ成しえない恋愛の形と思う。(繁殖期にあぶれたオス同士の疑似行為もあるがそれとはもちろん違う)
もちろん同性愛をもろ手を挙げて賛成しているわけではない。肉体交渉込みで同性を恋愛対象としてしまう気持ちはやはり私にはわからないし、身内から同性愛者だと告白されたらきっとショックで取り乱してしまうと思う。場合によっては、もっとよく考えろとひどくなじるかもしれない。
しかし本書はそういった感情を通り越し、もっと根源の部分を揺り動かす。
それは恋に溺れて命を削るのではなく、命を削ることこそが恋愛だと言われているような深い業だ。
相手が異性でも同性でも、ここまで妥協も計算も許さない真摯な恋愛を本当にしたことがあるのか?と付きつけられている気がするのだ。
異性だの同性だのと区別することが本当に必要なのか。子孫を成せる愛でなければ「是」と言えないのか。ならば初めから身体的に不妊である男女の恋愛は意味ないものなのか。はっきり答えられるものがいれば教えてくれ、と筆者は作品を通じて私たちに問いかけているように思えてならない。
そしておそらく誰もこの問いに答えられない。考え始めたら今の自分が揺らぐからだ。
この本を読んで焦燥にも似た感動を覚えるのは、そのせいだ。
筆者はまさしく命を削って作品を書いている。「塁」のようにはならないと、歯を食いしばって一生懸命自分を叱咤しながら。そして、自分でもわからない、でも誰にも答えてもらえないこの問いを投げかけ続けるうちに命尽きてしまいそうだ。
だから本書に、というか筆者に賞を与えてくれた方々に感謝する。
この賞は彼女に生きる希望を与えたはずだ。これほど意義のある賞があるだろうか。私にはできなかった、筆者に答える一つの形。
おこがましいが委員の方々に握手して回りたい。
2022/08/26 18:36
深い
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とけい - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて、こんなにも生々しい小説を読んだと思う。
読めば読むほどに飲み込まれるようで、登場人物たちの日々を、目の前で見ているようだった。1人でじっくりと読んで欲しい作品。
2021/02/03 12:14
たいとる
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:二食 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは濃い。接触してきた同性愛作品の中でどれよりも濃厚だった。作品に飢えた腹が久々に満足した、いや、読んだあとに更に欲求不満になっている、もっと欲しくなっている。虚ろに生きてきた自分にとんでもない生気が注入されたのだ。主人公が塁の二作目と出会うときみたいに、私はこの作品を貪り読んでいだ。心を震えていながらこの本の世界に無間に堕ちてゆく、溺れていた。
塁がひとりの知人ととてつもなく似ていて、そのせいでこの作品の中に非常に痛々しい体験をした、苦痛とも言えた、苦しくて頭をかかえ、涙を流して、そんな状態でページをめぐっていた。自分としては、主人公のしたことに対しては共感できない部分が多かった、どちらかというと、わたしも塁と似てるんですから。もっと二人を接触させて、傷つけ合いなよ、と心の中の声がそう言っている。だけどそれをやったらリアルさを失うことに繋がるかもしれない。少なくともわたしでは考え出せない。結論をゆうと、まだまだ満足していないが、ここまですきな小説を読めるなんて思いもしなかった。