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全集 日本の歴史
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4万年の歩みを一気に描く新しい列島史。
古代から現代まで全16巻で知る日本の歴史。
一般読者を対象とした古代から現代までの日本通史の企画。混迷の時代の21世紀を生き抜くためのさまざまな知恵を先人に学ぶ。つまり、文字通り「歴史に学」んで、明日を生きる知恵とすることができる歴史全集とする。
全集 日本の歴史 別巻 日本文化の原型
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日本の歴史 9 「鎖国」という外交
2009/01/25 00:50
「鎖国」イメージの再考
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つぶて - この投稿者のレビュー一覧を見る
徳川三代(家康、秀忠、家光)による「鎖国」政策によって、日本は閉ざされた国となった。近年、このように一般に流布している「鎖国」という歴史のイメージに疑問がなげかけられている。ロナルド・トビは、朝鮮通信使の存在を軸に、多くの屏風や図巻に描かれた絵を参考にしながら、当時の日本と東アジアとの関係を明らかにしてゆく。
江戸時代には、外国との窓口が四つあった。
<近世において日本が外国などとの交易の窓口としたのが、長崎、対馬、薩摩、松前の四つの土地であった。「鎖国」イメージのなかでは、「四つの口」と呼ばれるこれらの窓口は、「鎖国」の例外とされてきた。だが実際には、「鎖国」が方針で「四つの口」が例外だったのではなく、「四つの口」こそが幕府の方針だったのである>
現在でも日本への入出国は、空港や港などに決まっている。貿易品や人の行き交いを管理するのは、国家として当然のことであった。
貿易品ということでいえば、当時、日本が中国から輸入していた生糸や反物の量は膨大で、その代金として支払った鉱物資源の流出は深刻な問題となっていた。
<一七世紀後半になると、対外貿易収支の赤字状態は国内での貨幣不足の問題とかたちを変え、ますます深刻になった。貞享令(じょうきょうれい)は、銀流出問題に対する国家としての対策であったが、一七世紀を通じて年間平均一五〇〇トンともいわれる銀の流出を食い止めることは不可能であった。 >
また、幕府の招へいによって来日した朝鮮通信使という朝鮮からの使者の謁見は、江戸時代を通して十一回にも及んだ。それは大行列で、その度に、見物ブームがまき起こったという。その様子を写した屏風絵は圧巻である。
朝鮮通信使を介した朝鮮との関係、中国との貿易の実態、四つの港における積極的な海外の情報収集、というロナルド・トビが提示する史実は、幕府の外交方針が国を閉ざすものではなかったことを表している。
日本の歴史 4 揺れ動く貴族社会
2008/04/12 16:50
新たな平安時代史像
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:碑文谷 次郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
8世紀から12世紀まで「平安時代」と総称される期間のうち、本書は主に9世紀初から11世紀初までの200年間の日本を生き生きと再現している。通常、この時代は貴族と言うキーワードで代表される華やかで安寧な生活が蔓延しているかのような印象を受けるが、本書を読みつつ先ず思い浮かぶキーワードは「死」である。庶民には飢饉、疫病、天変地異などの自然災害の前に為すすべのない死が、或いは、なまじ高位高官に上れば陰謀、強欲、我執の果ての殺害が日常生活のすぐ裏に張り付いているのだ(縁戚関係が複雑に絡む藤原兼通・兼家の骨肉の権力争いはその一例であろう)。その背景が分かれば、新しい宗教として天台宗や真言宗が生まれた事情も、10世紀以降に浄土教が藤原道長から悲田院に収容された名もない病人にまで広く受け入れられた理由も肯けよう。しかし一方で、私たちの祖先は「市」を開き、買い物に生活の楽しみを求め、「祭礼」にエネルギーを発散させることも忘れてはいない。又、政治力にしても、外交は行わなくても唐物は求めるというしたたかな交易や新羅や渤海に対する小中華思想など、しぶとく生きる知恵に溢れている。その他、現代日本社会にも往々にして見られる「公私」の区別が曖昧になる起源を、天皇の執務場所の変化(大極殿から内裏紫宸殿、更には私的居所である清涼殿へ移ったことにより、天皇のプライベート空間と近臣の政務場所とが一緒になった)に見たり、「古今和歌集」「今昔物語集」「保元物語」等を「吾妻鏡」などと同等の史料として着眼しているのは、類書に見られない新機軸ではなかろうか。そのような考察の結果である本書は、死罪とされても必ず天皇の詔勅により死一等を減じられ9世紀初から3世紀半にわたって死刑が執行されなかったという、世界史的にもユニークな「平安時代」が、まさしく私たちの祖先の生きた時代であることを鮮明に刻み付けてくれる好著といえよう。
日本の歴史 2 日本の原像
2008/05/12 23:07
最新の研究成果によって明らかにされた日本古代の実像!
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
この度、小学館から刊行が始まった『全集・日本の歴史』は、これまでの通史シリーズにありがちであった政治・経済史中心の記述を改め、歴史の流れを最新の研究成果に基づいて多様に描き出すことに主眼が置かれている。本シリーズは、そうした観点をより強く打ち出すために、古代・中世・近世の各巻のはじめに、通史を離れて総合的に時代の諸相を描き出す巻が「新視点」と名づけられて一巻ずつ配置されている。本書は、そのトップバッターを飾る巻であり、斬新な古代の全体像が展開されている。ここには教科書で習ったのは異なる古代の姿が描かれており、歴史のいぶきがダイレクトに伝わってくる。
本書の新しい視点がよく窺える一例として、古代の天皇号を扱った章をまず挙げることができよう。通説では、「天皇」や「日本」という称号や国号が生まれたのは自国の権威を高めるために独自に編み出されたとされてきた。
著者は、最新の研究を参照したうえで、両号が創出されたのは天武天皇(八世紀後半)の頃であり、中国王朝の冊封体制から自立するという対外的な目的があったとしている。さらに、天皇という称号は、道教の世界観に基づいて中国王朝で一度使われたままになっていたものを、日本が再利用したものであり、その背景には、中国王朝の理解が得られるような名称を選ぼうとした高度な政治戦略が窺えると著者は指摘している。上述の観点は、自国史観に凝り固まっていてはできない発想であり、広く周辺地域、とりわけ東アジア諸国との交流を重視することが今後新しい歴史像を構築するうえで必要であることを示している。
著者は、このようにマクロ的な観点から古代日本を取り巻く国際状況を論じる一方、出土文字史料の精緻な解読というミクロ的な視点から当時の人々の暮らしや地域の歴史を復元している。『資源を活用して特産物を生み出す』という章では、日本の各地で現在も生産されている様々な物産(桑・貝類・織物・昆布など)は、通説のように中世に淵源をもつのではなくて、古代に地域の特性を生かして作り出されたものが多いと述べている。この他にも、出土した木簡から、遠く関東から九州の防衛に強制的に駆り出された防人たちの嘆きや、再徴兵されてより過酷な東北の戦場に送られることを恐れて故郷を捨て見知らぬ土地へ土着せざるを得なかった民衆の苦悩をリアルに描き出している。
また、出土した木簡史料からは、当時の高度な稲作農業の実態も推測でき、古代の人々は様々な自然災害に備えて多品種の稲の銘柄を育てており、この時代の人々の自然に向き合う姿勢に敬意を払っている。その一方、現代日本の稲作農業は、「こしひかり」「ひとめぼれ」というブランド米一辺倒で来ており、著者はそうした偏ったものづくりのあり方に大きな危惧を寄せて、地球温暖化など自然環境が悪化することが懸念される中にあって、古代の知恵に学ぶべきところは多いと警鐘を鳴らしている。
著者は、後書きの中で、「歴史とは過去との対話」と述べているが、本書で打ち出された斬新な古代像は、将にそのことを裏打ちしている。学ぶべきことが多い好著として、特薦に値する。