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ヒトラーの防具 完結
著者 帚木蓬生
東西の壁が崩壊したベルリンで、日本の剣道の防具が発見された。「贈ヒトラー閣下」と日本語で書かれ、日本からナチスドイツに贈られたものだという。この意外な贈り物は、国家と戦争に翻弄されたひとりの男の数奇な人生を物語っていた――。1938年、ベルリン駐在武官補佐官となった日独混血の青年、香田光彦がドイツで見たものとは、いったい何だったのか? 『総統の防具』改題。
ヒトラーの防具(上)(新潮文庫)
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紙の本ヒトラーの防具 上巻
2001/10/13 09:02
ゲームを楽しむ人間の下で運命をもてあそばれる人びと
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『総統の防具』というタイトルで単行本になっていたが、文庫化するに当たって『ヒトラーの防具』と改題された。
東西ドイツの壁が取り払われて久しいベルリンの街を、剣道仲間が車を走らせている。道すがらネオナチのデモ行進を目にしたりしながらベルリン経済大学の倉庫に到着して彼らが見たものは、日本がヒトラーに献上した剣道の防具一式「ヒトラーの防具」と香田という日本軍人が所有していたノートと手紙の束だった。
ここで時代は一気に逆戻りし、1938年4月、ベルリンに赴任した香田の手記から物語が展開されていく。ヒトラーはすでに神格化されたような存在になりつつあり、ドイツ国民は本来のドイツ国民ではなくなりつつあった。日独伊三国同盟樹立、アメリカによる日米通商条約破棄、独ソ不可侵条約、独軍ポーランド侵攻、英仏の対独宣戦、日ソ停戦、日本の真珠湾攻撃、日米開戦などページをめくるごとに目まぐるしく変化する世界が展開されるが、過去の歴史を再確認するというよりも「国盗りゲーム」の成り行きを見守っている感覚が先に立つ。そして、この「国盗りゲーム」がゲームではなく人間と人間が血を流し合った本物の戦争であったことを考えた時、恐ろしさに身震いが起こり、人間の浅はかさを肝に銘じられる思いがした。
希望に燃えてベルリン入りを果たした香田だが、ミュンヘンで精神病院の医師をしている兄、雅彦から患者の間引きや人体実験の事実を知らされ、またユダヤ人連行の現場を見て、無力な自分を感じながらも「狂気に引きずられて驀進するドイツ」をしっかりと見ることが自分の使命と考えるようになる。
ヒルデという女性との恋愛、ベルリンフィルのオーボエ奏者ルントシュテット氏とその妻、家具職人のヒャルマー爺さんなどとの暖かい交流を描いた物語が「国盗りゲーム」の残酷物語に重なって、美しくも悲しい協奏曲を奏でている。
香田が戦争を博奕(ばくち)に例えている個所が印象に残った。
「…この論理こそ博奕の論理、それも博奕で身代をつぶした男の考え方と相似ではないか。博奕をやめれば、今まで損した分を取り返せない。損失分を取り戻そうとしてまた博奕に手を出す。それも危険度の高い方に張ってしまうのだ。そうやって元手をすっかり無くしてしまうまで、この狂態は続く。」
ベルリンの街がズタズタに壊れていく中で香田の手記は終わるのだが、この最後の部分でアッ! と声をあげる最大の山場が残されている。
本書は、壮大な構想のもとに仕上げられた傑作サスペンスである。
紙の本ヒトラーの防具 上巻
2019/09/08 14:03
少し忍耐力が必要か
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:なし - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルはなかなか刺激的だが、期待している著者、なかなかの出だしでもある。ただ、下巻までたどり着くには、少し忍耐も必要か。