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22件
七瀬シリーズ
著者 筒井康隆
幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬――彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい短編集。
エディプスの恋人(新潮文庫)
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七瀬ふたたび 改版
2010/01/08 12:42
超能力者の孤独、苦悩、同胞意識が、スリリングに描き出されている。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
他人の心を読むことのできる精神感応能力者(テレパス)、火田七瀬(ひだ ななせ)を主人公にした三部作、『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』。その第二部にあたるのが本書『七瀬ふたたび』。七瀬のような超能力者の孤独感と苦悩、同胞意識が、スリリングに描き出されていて読ませます。
七瀬サイドに立つ超能力者として、同じ精神感応能力を持つ男の子、未来を予知できる青年、物体を遠隔操作できる念動力(サイコキネシス)を持つ黒人青年、時間旅行者(タイム・トラベラー)の娘の、総勢五名。特異な能力を持つが故の彼らの孤独感と葛藤、互いに心を許し合える同胞にめぐり会った喜びがリアルに描き出されていて、読みごたえがありましたね。わけても、時間旅行者という超能力者を登場させたことが、話に変化と深みを生み出す上でバツグンの効果を発揮しているなあと思いました。
<とてもいい書き出しだ。夜汽車で火田七瀬の見た予知場面なのだな、と気づいたとたん――それは最初のページで気づくのであるが――スイと作品の流れに乗っていける。>にはじまる平岡正明の文庫解説文も、作品のツボを押さえたナイスな語り口。読みごたえ、あります。
七瀬ふたたび 改版
2015/06/05 10:47
あとがき注意
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:一匹狼 - この投稿者のレビュー一覧を見る
七瀬三部作はどれも面白かったのですが初めて読むという人にだけ知って置いてもらいたいことがあります。
この七瀬ふたたびの解説、平岡正明という人が書いているのですが、続編のエディプスの恋人のネタバレががっつり書いていました。話の大筋は大丈夫だったのですが、最後の最後、一番衝撃的だったであろう展開をさらっと明かされました。私はそのお陰でそのシーンを一切の動揺無しで読むこととなりました。残念でした。びっくりしたかったです。
初めて三部作を順番に読まれる方は注意してください。解説は後回しにすることを勧めます。
私は平岡正明を許しません。
七瀬ふたたび 改版
2002/12/21 02:20
いまだに書店に置かれているが、売れているのだろうか?
8人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:17Caesun - この投稿者のレビュー一覧を見る
テレパス火田七瀬を主人公とする“七瀬三部作”の
第二部にして、事実上の本編。
前作「家族八景」でお手伝いさんとして渡り歩き、滞在した家庭の
裏表を暴き出して見せた七瀬は、その能力故に追われる身となる。
今回、表紙と文字の大きさが改訂されたが、初刊行は昭和50年で、
もはや古典ともいえる作品である。
美人の超能力者を主人公とする小説としては、「クロスファイア」
(宮部みゆき)も似たような設定である。そのヒロイン青木淳子は
人間を一瞬のうちに焼き殺す発火能力を持つが、七瀬は他人の心を
読めるだけで、特別な戦闘能力を持たない。従って、先回りして
逃げる展開になるため、読んでいる側は少々ストレスがたまる。
しかし、「クロスファイア」に登場する悪党は、ヒロインに
無残に焼き殺されるだけあって、それに見合うだけのド汚い、
或いはしょうもない人間として描かれている。もはやぶち殺す
しかない、ハリウッド映画のエイリアンのような存在である。
そのため、作品は現代的な迫力に充ちているが、
かなりグロテスクな面も備えている。
「七瀬ふたたび」は、
そのような最近の作品と比べて、緻密な背景描写や科学的な説明が
乏しく、敵の正体も曖昧で、現代的なリアルさに欠ける。良く言えば、
どこか遠い世界の話のような雰囲気をまとっているともいえる。
しかし、そのぼんやりした世界の中でも、七瀬の能力が光る。
読者はテレパスの力を借りて、人物の思考内容を読むことができる。
普通の小説と同様に、セリフが「 」でくくられて記され、加えて
七瀬が読んだ思考内容が( )でくくられて追記される。
従って人間関係の描写は密度の濃いものとなっている。
七瀬の仲間として登場する能力者は様々で、人格的に魅力のある
人物も幾人か登場する。しかし、彼等は皆、肝心の超能力を
今ひとつ使いこなせていない。
結局この作品の主題は、超能力によって世界を変えることではない。
そのようなスケールの大きい、よりSF的な作品を好むなら、
「タイム・リーパー」(大原まり子)が断然お勧めだ。
しかし、テレパスを主人公とする本作は、必然的に
人間模様に焦点をあてることとなり、迫害される能力者の生き様を
七瀬の目を通して描いたものとなっている。
そのあたりを割り切れるなら、さほど不満もなく楽しめるだろう。