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13件
斜陽
著者 太宰治 (著)
最後の貴婦人である母、破滅への衝動を持ちながらも“恋と革命のため”生きようとするかず子、麻薬中毒で破滅してゆく直治、戦後に生きる己れ自身を戯画化した流行作家上原。没落貴族の家庭を舞台に、真の革命のためにはもっと美しい滅亡が必要なのだという悲壮な心情を、四人四様の滅びの姿のうちに描く。昭和22年に発表され、“斜陽族”という言葉を生んだ太宰文学の代表作。
斜陽
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斜陽 改版
2001/11/18 19:17
斜陽
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:333 - この投稿者のレビュー一覧を見る
没落してゆく貴族を描いた作品。斜陽のようにゆっくりと、家族が没落してゆく様がよく描けている。寂寥を感じさせる描写が、ほんとうに没落してゆく様をあらわしている。死がゆっくりと、そして悲しく描かれています。太宰治の作品の中でも、特に優れた作品です。
斜陽 改版
2002/03/26 12:31
不景気によりずるずる落ちる世帯年収におたおたしている水準では、美しく滅びていきたいと願う主人公の貴族たちに同化などできやしない。久世光彦氏言うところの優れた小説はみな少女小説——その決定版。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分は実は<隠れ太宰>だ…と熱読を告白する作家の久世光彦さんが、「すぐれた小説はみな少女小説である」というようなことをいくつかの場所で書いていたと記憶する。
この場合、少女小説をどうくくるか、厳密な定義づけは野暮というものだろう。昔あった少女雑誌で発表されていたような…というアバウトな捉え方で、境界がぼんやりとした、しかし明らかに「聖域」と呼びたくなるようなジャンルが透けて見えてくればいい。実際太宰の小説は、その種の雑誌に何回か発表されている。
礼法に外れ野蛮とも言える仕草(食べ物をひょいと指先でつまんで口に運んだり、秋月夜、奥庭の萩のしげみのなかでおしっこをしてしまったり)をすることもありながら、誰にも真似できない品が備わった最後の貴婦人「お母さま」の記述から始まるこの小説は、まさに少女小説の決定版といったおもむきがある。
そんな母をあがめる長女かず子は、子をみごもっていたというのに夫以外の男性に好意を寄せた結果離縁をして、今またしょうもない男に胸を焦がしている。ラディカルな革命理論の本を読んで破壊思想に惹かれ、恋による滅びに身をやつそうと決意する。かず子の弟の直治は南方戦線から戻ると、元の不良少年に戻ったように麻薬に溺れていく。まとわりつくような人妻への思いから、悲痛な選択をくだす。その直治が大きな影響を受けたのが、太宰を思わせる上原という己れ自身を戯画化するデカダンな作家。「しくじった。惚れちゃった」などと言うキザなこの男性と、かず子は魂を響き合わせていくようになるのである。
貴族である三人家族と、上原という流行作家と四人四様のけだるい滅びの美学を描いた作品である。
好奇心を充たしながら、ステップを重ね高みに登っていきたいという向上心を私たちはもっている。その紙一重裏側には、恋をはじめとする魔的なものに溺れて身をやつしたい、堕ちていきたいという破滅への欲求を常に抱えている。感性の豊かな人であればあるほど、その矛盾する二者の激しいせめぎ合いをかみしめているのではないか、と私は思う。その意味で、これはとても太宰らしい小説だなという気がする。
少女雑誌を読んだ世代ではないが、私が少女コミックを読み始めた昭和40年代——まだ、『りぼん』と『なかよし』ぐらいしかなかったけれど、今思うと、そこには太宰やミシマ的なお話が何と多かったことであろう。裕福でエレガントな女性たちが登場するのが定番で、ハッピーエンドよりはむしろかわいそうで悲しい結末の方が好まれていた。陰翳という点において、太宰やミシマとあの漫画たちの間にはいささかの隔たりはあった。しかし、きっと漫画の描き手たちは熱読した少女小説を意識しつつ、作品を描いていたのだと思う。
「笑って没落していけばいい」と言ったのは、民俗学者・宮本常一のパトロンであった渋澤敬三。そのように泰然、悠然とした滅び方は今の日本ではなかなか見られない。「斜陽」という言葉には、偉大なるものが輝きを放ちながら静かに傾いていくというイメージがある。かつての大英帝国しかり、日本の貴族文化しかり。「斜陽」と呼ぶにふさわしい栄華は、もう既に私たちの前から過ぎ去ったあとなのではないかという気にさせられた。
斜陽 改版
2020/06/16 17:22
やっぱり名作
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まさがき - この投稿者のレビュー一覧を見る
文学史に残る名作…と、なんとなく重い印象でしたが、短いこともあってサックリ面白く読めました。
描写が非常に丁寧で、展開にも引き込まれます。
素晴らしい作品でした。