電子書籍
20世紀最後の戯曲集
著者 野田秀樹 (著)
はっきりした頭のうちに、この三つについてだけは書いておきたかった。長崎原爆投下、連合赤軍浅間山荘事件、そして「私」にふりかかった右眼失明の病。鶴屋南北戯曲賞、紀伊國屋演劇賞、芸術選奨文部大臣賞などの賞を総なめにした野田演劇の頂点がここに。「Right Eye」「パンドラの鐘」「カノン」を収録した記念碑的作品集。
20世紀最後の戯曲集
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
評価内訳
- 星 5 (0件)
- 星 4 (0件)
- 星 3 (0件)
- 星 2 (0件)
- 星 1 (0件)
紙の本20世紀最後の戯曲集
2001/02/09 16:41
20世紀の遺産!
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キマタフユ - この投稿者のレビュー一覧を見る
演劇を観るときは、テーマよりは、どう観せるかという手法が気になる。けれど、戯曲だけとなると、裸になったようなもの。テーマがストレートに伝わってきそうだ。
この戯曲集には、98年の「Rihgt Eye」、99年の「パンドラの鐘」、00年「カノン」の三つの戯曲が収録されている。帯には”はっきりした頭のうちに、この三つについてだけは書いておきたかった”と記されているが、テーマはみな重め。「Right〜」は右目を失った事実とカンボジア戦争、「パンドラ〜」は第二次世界大戦、「カノン」は安保闘争の記憶が物語に隠されている。「Right〜」は野田秀樹氏にしては珍しく極私的世界を描いた作品で[ノンフィクション演劇]と銘打っていたものだが、「パンドラ」「カノン」は、巧みに違う世界にすり替えフィクションとして見せている。野田氏は「桜の森の満開の下」や「TABOO」でも[日本]を描いているから、「パンドラ」「カノン」も目新しいテーマではないのだろうが、次第に、実人生に接近してきている気も。「Right〜」で、残された瞳で観るものについてを語ったのちのこの2本、偶然なのか、それとも?という気もしないでない。
「パンドラ」は、ある戦争を境にした、ふたつの時代が交錯する物語。舞台では紙や、四角い枠を使ってふたつの世界を切り替えていた。舞台の真ん中に重く居座る鐘が印象的だった。「カノン」は、ジャンヌ・ダルクの絵のような、男達を闘いに翻弄していく女の物語。プロスペル・メリメ「カルメン」と芥川龍之介「偸盗」を下敷きに描いたものだとか。
3作とも観ている人は、場面場面をよみがえらせながら読めるが、観てない人はどう読むのだろう。台詞と若干のト書きを頼りに空想を膨らませる。それは、役者になったような大変な作業だと思う。そんな読み方もオモシロイかもしれない。野田氏の言葉は字だけでもすごく心に響くので、テンポのいい会話や、蕩々と語られる長台詞を読むだけでもいい。「Right〜」は、野田には珍しい日常の会話のおもしろさと、生身の人間的な台詞が胸をつく。「パンドラ〜」は、王国の崩壊を国民の軽妙な会話で紡いでいく。「カノン」では、カノンのように罪は繰り返されていく……という比喩が圧巻で、非情に美しい台詞が多い。
あとがきも良い。軽妙さに、野田秀樹は風のような人なんだなとか思う。ちょっとありふれた表現かもしれないけれど、戯曲として裸身をさらすんじゃなくて、あっという間に、時に激しく打ち付け、時にくるくると翻弄し、そして時にふわっと包むように。目に見えるような見えないような、でも確実に何かを感じさせて通り過ぎていくヒト。そのヒトがちょっと見せた本体を読んでみると、また新たな発見が大いにある。