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数学者の言葉では(新潮文庫)
著者 藤原正彦
かつてコロラド大学で教えた女子学生から挫折の手紙が届いた。筆者は彼女を激励しつつ、学問の困難さを懇々と説く。だが、困難とはいえ数学には、複雑な部分部分がはりつめた糸で結ばれた、芸術ともいうべき美の極致がある。また、父・新田次郎に励まされた文筆修行、数学と文学の間を行き来しながら思うことなど、若き数学者が真摯な情熱とさりげないユーモアで綴るエッセイ集。
数学者の言葉では(新潮文庫)
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2024/11/10 16:52
昭和にはこういう「うるさ型」のオヤジさんが多かったとしみじみ感じる
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投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
小川洋子先生の「博士の愛した数式」を読んだ。あまりにも感動的な本で、さっそくそのモデルといわれる藤原正彦先生の本を手にとった。
1ページ目から面白いのだが、始まってすぐの6ページに数学者の特徴を綴った文が出てくる。痛快だったので引用する。「数学者たちの精神的アンバランスはよく知られている。各大学の教授会では残念ながら多くの場合、数学者はお荷物である。議事には大概無関心で、数学の問題に頭をひねっていたりするから何の役にも立たない。稀に関心を示すと、それは大てい熱狂的関心であり、妥協を許さぬ最強硬意見となって会議を混乱させる。話す内容はさすがに論理的であるが、自分の意見だけが正しいと思う悪い癖がある。真理が唯一つなのは学問の世界ぐらいであることに全く気付かない。また常識に欠けるところがあるから、政治的判断、社会的行動は最も不得意とする。・・・」と続くが、目からウロコが落ちた。
次に著者が考える体罰について。「子供を正しい方向へ導くのは、親や教師の責任ばかりではなく、社会の責任でもあると私は日頃思っている。だから誰の子であろうと、見るに見かねる場合は、公衆の面前でもどしどし体罰を与えることにしている。」これを読んで膝をたたいた。その通りだと思う。自分が多額の借金をしておいて、安易に稼げる広告に応募し、数万円のために人を殺す。腹立たしくて馬鹿らしく、ニュースを見る気にもならない。信じられないような甘えた人間が育っている。自分、周囲、そして社会に「厳しさに耐える精神」が消滅していると危惧する。本書は以上のような視点から綴られていく数学者藤原先生によるエッセイ集で、読みやすく示唆に富んでいる。
最後の章は実父新田次郎先生の思い出である。僅か14ページだが、肉親であるが故の厳しい批判と、失ったあとしみじみと感じる親からの愛、親への愛に溢れている。愛娘を嫁に出す時に万感を胸に一言だけ「元気でな」としか言わない昭和の頑固オヤジの画像が思い浮かんだ。
全体に、辛口の藤原先生の生きざまが凝縮されたような本。読後にじわりと寄せてくる余韻にひたっている。