- みんなの評価
1件
エロ事師たち(新潮文庫)
著者 野坂昭如
お上の目をかいくぐり、世の男どもにあらゆる享楽の手管を提供する、これすなわち「エロ事師」の生業なり――享楽と猥雑の真っ只中で、したたかに棲息する主人公・スブやん。他人を勃たせるのはお手のものだが、彼を取り巻く男たちの性は、どこかいびつで滑稽で苛烈で、そして切ない……正常なる男女の美しきまぐわいやオーガズムなんぞどこ吹く風、ニッポン文学に永遠に屹立する傑作。
エロ事師たち(新潮文庫)
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
エロ事師たち 改版
2002/07/22 16:18
エロ事師たち
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k.m - この投稿者のレビュー一覧を見る
これが70年代の「ベストセラー作家」だったというのをインターネットで調べて驚く(ちなみにこちらもカッコイイ!)。まったく痛々しいほどの描写が続き戸惑うかと思えば、何時しか「ぐいぐい」と引き込まれていた。もともとこのような過激な文学に「憧れと興味」は持っていたつもりだったが、これほど「衝撃」的な作家だとは思っても見なかった。かといって暗く重い雰囲気はなくって、むしろポップで「突き抜けた」面白さだ。中原昌也はセリーヌなのかと思ったら、むしろこちらの影響のほうが大きいのだろうか。とにかく考えられる卑劣、苛烈、妖艶、猥雑このうえない、いやとても考えの及ばない所にまで話は進む。
「エロ事師」というまず聞き慣れない名前。ようするに「あらゆる享楽の手管を提供する」不法なエロ商売をしている人達なのだが、「エロ道」というか「エロ哲学」というか、いやそんな簡単な言葉では表現できない! とにかくそこへかける男達の「生きざま」がすごい。作中どんどんエスカレートしていく姿には、もう「やめたら…」と思うほど凄まじい。その描写たるは、単なるエロ小説へと向かわない著者の観念的エロス、そして深淵なる森の奥底どこまでも…。さらに関西の無頼達、いや実際はエロの「プロテスタンティズム」とでもいうべき忠実な働きぶり、しまいには膨大な「エロ構造改革」とでも言うばかりの思想突き抜けぶり…。しかしその幹部「スブやん」実は義理の娘に手を出しかねて、それ依頼「不能」になる。散々に極エロ狂乱を仕込んで置いて自分はなんとも性的な興奮から遠ざかっていく始末。
「ブルーフィルム」の撮影風景。ピンク映画製作日誌かのような、詳細な手法の数々。これにはなんとも臨場感があり、最近のピンク映画再ブーム(今年のPFFでも特集!)にも乗りそうな勢い。
人の死に対する扱いもスゴイ。「ややこ」死ねば川へ弔い、「妻」亡くなればブルーフィルム流して弔い、「エロ仲間」亡くなれば棺の上で麻雀弔い。死への恐れ悲しみなど全く何処吹く風、ところがむしろ目頭熱くなるような思いやりに感じられるから不思議だ…。そして一番スゴイのがスブやんの死にざま…娘も大笑い…。ここに流れている著者の死に向かわしめる「たくましさ」(それが「たくましさ」なのかもとより分からないが)、あるいは遙か遠い絶望からの視点、その正体はとてもこの1冊を読んだだけでは理解出来ない…。