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アウシュヴィッツの小さな厩番
著者 ヘンリー・オースター , デクスター・フォード
ドイツ生まれのユダヤ人少年の幸せな日々は、突然終わりを告げた。ゲットーへの「再定住」と父の死。強制収容所への移送と母の死。死があまりに身近な場所で、人間が失うことのできるほとんどすべてのものを失いながらも、運と知恵を頼りに少年は生き抜いた。移送された2011人の最後の生き残りとして、なお寛容を語った魂の記録。
アウシュヴィッツの小さな厩番
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2024/10/30 21:54
これは是非、一度読んでおいた方がいいと思う
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あお - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、第二次世界大戦中の凄惨なホロコーストを生き延びたドイツ系ユダヤ人の体験を綴った手記である。
歴史上の出来事を個人的な物語のレベルに落とし込むことで、一般的概念にとどまっていた事象の中に潜む苛烈さ、残忍さ、そして被害者の思考や感情の変化などをよりリアルに感じることができる。
また、自分が本書を読んで驚いたのは、70年も昔の出来事をここまで克明に記憶できるものなのか、ということであった。複雑性PTSDを起こすほどの強烈な記憶だったのかもしれないが、それでも自らに降りかかった11年間の迫害の様子を、理路整然と、かつ臨場感あふれる文章をもって浮かび上がらせる技量には脱帽する。
それだけに、特に前半を読み進めるのは多少の精神力を要した。
主旨からして、本書の中ではもちろんナチ党がユダヤ人に対して行った暴力的行為の数々が羅列されているわけで、初読の際は「解放まだー…? もうそろそろ終戦じゃないのー…?」と頭の中で呟きながら、一方で喉の奥で乾いた笑いが出てくるばかりだった。それだけ、ナチ党の行動原理がどうにも理解できなかったのである。敢えて言わせてもらうが、「ナチ党は国家ぐるみの半グレ集団か?」という思いばかりが頭に浮かんだ。それはそれで半グレ集団に失礼だろうか。譬えるなら、言いがかりをつけて壮絶な集団暴力をかましておいてから「先生や親にチクんじゃねーぞ」と息巻く加害者のような精神性を感じるのである。まあ要するに、「めっちゃカッコ悪っ」ということだ。
一通り読んでからまた読み直していって、次第に自分の考えは≪著者が生き延びられた要因は何だったのか≫という点に集中するようになった。
飢餓や病気に対する身体の抵抗力、また著者自身も言及していたようなほんの少しの幸運に何度も恵まれたこともあるのだろうが、それらに加え、彼が状況をつかんで機転を利かせる能力を具えていたこと、馬の世話も含め手足を動かすような何らかの仕事を進んで行なっていたこと、そして、≪ずっと先の、見えない≫未来でなく、≪すぐ目の前の≫未来を見据えて生きていたことが大きかったのではないか。あと数か月、あと1週間、あと1日は生きられるかもしれない、と。小さな目標を積み上げて大きな目標を実現していくようなものだ。
そして何より、今にも消えてなくなりそうな自尊心が、完全には消えなかったこと。ナチ党があれだけ躍起になって手の込んだ卑劣な所業を加えてきても最後まで屈しなかったのは、ひとえに自分が自分でいられたことを立派に証明している。人間の持つ底力というものに圧倒される思いだ。
また自分はこうも思う。この本はむしろ、著者が生き延びた後からの場面がより真価を発揮しているのかもしれない、と。解放されて良かった、という時点で終わりではないのだ。
国家による信じられない暴力、何の罪もない人が尊厳を奪われる様子、勿論それらから目をそらすわけにはいかないが、自由になった人が徐々に人間性を取り戻していく、人生の主導権を手にしていく過程には、非常に心を惹かれた。
そして最終章で、著者は自らを迫害した祖国に、70年ぶりに再び降り立つ決意をする。この場面のために、それまでのすべては書かれたのだと思わずにはいられない。生まれ故郷のケルンの人々を前にして、加害者・被害者双方の≪寛容≫について説いた時、あたかも著者の心の中で止まっていた時計の針がカチリと動いたような、そんなイメージが浮かぶ。
個人的には、この場面に立ち会うために、本書を最後まで読んでほしいと思う。
2024/10/09 22:30
これは「断片」?それとも「ファニア歌いなさい」ですか?
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ニュルンベルク法施行と同時にユダヤ人から家財産を奪っただなんて話は聞いた事がない。あったのは徐々にユダヤ人の持ち物を奪ってからゲットーや強制収容所送りを意味する「東方送り」の直前に今まで住んでいた家からユダヤ人向けの家に移住させた事。1938年にドイツからユダヤ人の出国が禁じられた?アンシュルス後にウィーンへ送り込まれたアイヒマンがユダヤ人から全財産を差し出す事を条件に「移住」を進めたり「水晶の夜」の直後に強制収容所送りとなったユダヤ人が出国を条件に釈放されているのに。マルティーン・ブーバーがドイツからパレスチナに移住したのは1938年でネリー・ザックスがドイツからスウェーデンに亡命したのは1940年なのは嘘なのですか?「アーリア人」は持っている本や「退廃美術展」のような機会を除けば禁じられたユダヤ人の本を刊行したりユダヤ人の作品を公演したりしていた文化同盟は何ですか?P-51ならともかくRAFのホーカー・タイフーンがアウシュヴィッツからブーヘンヴァルトに向かう貨物列車に機銃掃射?作者は戦争初期にRAFがケルンを爆撃した機種を事細かに書いているようにRAFが使用していた機体のマニアにしても、まるでマイダネクにいた事になっているユダヤ人という設定が実は戦後生まれのスイス人が捏造した「断片」にある母親に会わせると連れて行ったというSSの女性看守が身に着けた服装の「事細かな描写」そっくり。あるいは実際にアウシュヴィッツとベルゲン・ベルゼンにいたにしろ自分の立ち位置を誇張した上に嘘を書いて一緒にいたブレスラウ出身のアニタ・ラスカーを怒らせて邦訳書の元になったテキストには「ドレスデン出身の傲慢なドイツ人」に書き換えているファニア・フェヌロンの「ファニア歌いなさい」ですか?今頃「ガス室で殺したユダヤ人の脂肪から石鹸を作った」などという都市伝説をもっともらしく書く本があるとは思わなかった。こんな本はドイツの文芸出版社であるズーアカンプから刊行されたという権威主義で?鵜呑みにしたアメリカのホロコースト博物館や「第三帝国時代のドイツ人は全てナチ」のダニエル・ゴールドハーゲンが太鼓判を押した「断片」のように「ホロコースト否定論」者に塩を送るようなものだ。