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不況のメカニズム ケインズ『一般理論』から新たな「不況動学」へ
著者 著:小野善康
長期にわたった景気の低迷に対して、小泉内閣が行った「構造改革」は有効な措置といえるのか。経済学者間の意見は対立し続け、経済学への信頼までも揺らいでいる。ケインズは一九三〇年代の世界不況を目の当たりにして主著『雇用・利子および貨幣の一般理論』を執筆した。本書はその欠陥も明らかにしつつ、ケインズが論証することに失敗した「不況のメカニズム」を提示し、現代の経済政策のあり方を問うものである。
不況のメカニズム ケインズ『一般理論』から新たな「不況動学」へ
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紙の本不況のメカニズム ケインズ『一般理論』から新たな「不況動学」へ
2007/09/06 13:57
乗数効果の否定
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:FAT - この投稿者のレビュー一覧を見る
貨幣愛に起因する不況という理論自体は、ケインズの一般理論にもあることなので、その復活という意味では政策的意義、特に日銀の金融政策に対する意義は大きいが、それ以上ではない。一方、本書の学問的に重要な点は、乗数効果の全面的否定ということであろう。さらにここから含意されるのは、マクロ経済学の財政政策へのツールとしての意義の消滅、少なくとも半減である。著者の言葉に拘らずに、財政政策への含意をまとめると、
「失業があるときには、その失業を埋めるだけの仕事を公共事業として行うことは、資源の浪費・遊休を減少させることとなり、経済的に意味がある。しかし、公共事業の中身は資源の浪費にならないように、精査しなければならない。」
ということかと思う。
新古典派的思考の中和剤にはなると同時に、改めて「公共事業には、その額以上の価値がある」という高度成長期の思考の残滓も払拭するものとなっている。つまり、奇をてらった論理のマジックが消えて、素朴な常識論に戻るということ。
特にマクロ経済学的に重要な点は、乗数効果を全面的に否定していることにあるとするのは前述のとおり。このような過程を経て、日本のマクロ経済学がもう一段、政策科学として進歩することを期待する。
紙の本不況のメカニズム ケインズ『一般理論』から新たな「不況動学」へ
2007/07/17 01:26
「夕張市の失敗」は「彼らの失敗」だったのだろうか。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画好きなもので。タランティーノ監督もいらっしゃって、故石井輝男監督をはじめとするカルトな映画の話をしまくるという「ゆうばりファンタスティック国際映画祭」にいつの日か参加してみたいものだなあ、と思っていた。どうやら関係者の奮闘で、縮小して存続が決まったようで、ほっとしている。
しかしTVで映し出される「夕張市」の「無駄遣い」したお金はどこに行ったのであろうか?夕張のおじちゃんおばちゃんがみんなして、持って行った訳でないだろう。
東京の「代理店」、「プロデューサー」、「コンサル」に膨大な金が流れ込み、それが「ゼネコン」に配分され、札幌あたりの下請けに回されて、ワゴン車で市外から兄ちゃんたちがやってきて、寒い中セメントこねて一生懸命「ロボット博物館」とかを作っていたんじゃない?無論問題はそこに十分に外部のお客さんが来なかったことであるが。
でも、それ本当に「夕張市」だけのせい?たしかに「ロボット博物館」は行く気もしない。しかし本当にそれは「夕張市」が自分で発案したものだろうか。上に挙げた中央の人たちが、十分な収益予想も立てず、うまく「夕張市」をから「コンサル料」とかを引っぱり出して、カニ喰って帰ってそれっきり、今頃どっかで「ロハス」なイベントとか、「あなたも~ソムリエ」フェアとか仕組んでんじゃねえの?という感じを消せないでいる。 市民の税金を委ねられながらだまされる方は勿論悪い。 でも炭坑がなくなった「夕張市」が立てた、「観光振興」(ハードからソフトへ)という大枠では正しいはずの方針に、つけ込んだ人々がいるはずだし(全部の施設・イベントがじゃないと思うけど)、今後「官から民」、「地方の自立」の流れの中で彼らがますます「活躍」するんじゃないか?という懸念が本書を読んで、高まってきた。
前置きが長くなりすぎました。本書は「需要が供給を生む。生産力が向上する中で現代では、需要が不足する事態が発生する。そうすると非自発的失業者が発生する。その余った労働力を吸収・活用するには、「やる意義」のある公共投資が必要である」という、昨今では旗色の悪いケインズの根本テーゼの再評価を試みている。
ケインズの著作自体にある「消費関数」、「乗数効果」や「穴を掘っても意味がある」などの現在では通用しない概念と整理し、「供給が需要を生む。自発的失業者は市場原理によって吸収される」という現在、支配的な新古典派のテーゼと丁寧につきあわせ、「流動性の罠」(低金利政策の元では、資産を「現金」(流動性資産)のまま、持っているほうが、物価の下落と相殺してプラスになるので、充分に「国内」に投資が向かわないか、高金利の海外に流れていくという現象)などの現在の日本の「奇妙な好況」の背後にある現象の分析を通して、近年一般的な「公共投資」=NO、「構造改革」=YESという論調にていねいな、数学的記述をなるべくおさえた(ここは逆につっこまれてしまうところかもしれない)、部外者にもわかりやすい記述で異議を呈し、今現在の日本における「有効な公共投資」の必要性を訴えている。
わかりやすい上に、脚注などを見る限り、理想論者の根拠に無関心な立論とは、距離を取った手堅い一冊である。朝日を読んでも日経を読んでも、それぞれに腑に落ちないモヤモヤを抱えた方にお勧めしたい一冊。
しかし、紙幅の関係であろうか、国際経済への言及が少ない。できれば本書の視点で「グローバリゼーション」を分析した続編を待望します。
紙の本不況のメカニズム ケインズ『一般理論』から新たな「不況動学」へ
2008/12/05 23:07
ケインズ理論にもとづく理解可能な動学をめざしつつ失敗している
7人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
ケインズの「一般理論」は難解だが,この本はそれをできるだけ平易に解説しようとしている.単に解説するのでなく,その「あやまり」をただして,著者独自の「不況動学」をきずこうとしている.小島寛之は Wired Vision の「環境と経済と幸福の関係」のなかでこの本をベタぼめしているし,Amazon の書評などでも評価はたかい.
しかし,ケインズにあやまりがあったとしたら,それは動学的な経済理論のむずかしさゆえであり,おなじような道具でそれにたちむかっている著者がケインズにくらべてとくに有利なところがあるとはおもえない.というわけで,この本にも疑問な点は多々ある.そもそも出発点となっている,ケインズが流動性の罠から投資の限界だけがきまるとしているのに対して「不況動学」ではそれが (投資の限界とは独立に (?)) 消費の限界もきめるとしていることからして理解できない.また,現在の不況との関係を把握したいが,さっぱりわからない.
この理論が「動学」だと主張するためには単に経済の均衡点をしめすだけでなくそこにいたる軌跡まできめられなければならないはずだが,それにはまったくふれていない.金融工学のような精密な論理がなければ,ひとを納得させることはできないのではないだろうか.