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軍神 近代日本が生んだ「英雄」たちの軌跡
著者 山室建徳 著
かつて「軍神」と呼ばれる存在があった。彼らは軍国主義的思潮の権化として意図的に生み出されたわけではない。日露戦争における廣瀬武夫少佐の例をみればわかる通り、戦争によって強まった日本人の一体感の中から、期せずして生み出されたのである。だが、昭和に入ると、日本人が共感できる軍神像は変化し、それは特攻作戦を精神的に支えるものとなる。本書は、軍神を鏡として戦前の日本社会の意識を照射する試みである。
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軍神 近代日本が生んだ「英雄」たちの軌跡
2007/08/12 10:26
そうか、「軍神」は国民が生み出したものだったのか。
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『軍神』という本書の表題を見て、そういえばかつて、そう呼ばれた軍人たちがいた事を思い出した。近いところでは、ハワイ真珠湾攻撃のときに戦死した九軍神が思い出されるが、酒巻少尉が捕虜になっていること、九名は戦死したことを現場の上層部は早くに知っていたことを空母飛龍の乗員だった親戚の人から聞いたことがある。開戦早々、捕虜が出たなど発表できるわけもなく、悩んだ末に九軍神が発表されたものとのことだった。
続々と報じられる陸海軍の大戦果に国民受けする記事を書くことに新聞社は多忙、国民は一人二人の戦死者の差など疑う余地もないほど新しい戦果に夢中だったのだろう。人気番組の視聴率を気にするあまり、放送内容を捏造し、鵜呑みするのと似ている気がする。
幕末、倒幕軍と幕府軍の戦いは圧倒的な戦力差で倒幕軍が勝利した。
このとき、倒幕軍の参謀たちは近代戦においては武器の質もさることながら、兵員の量が勝敗を決することを知っていた。そのため、倒幕軍の中には農民、僧兵、任侠の世界の者までが参加し、人足までもが駆り出されている。
維新政府は徴兵制を敷き、近代的な軍隊を創設した。四民平等とはいえ、かつての武士は士族として存在し、平民あがりの兵隊と士族とが衝突を起こすという事件がしばしば起きている。明治十年の西南の役において旧武士階級の集団と軍隊との戦争は平民の軍隊の勝利に終わった。この結果、軍旗を奪われたとはいえ、乃木希典は近代的軍隊の象徴であり、階級闘争における平民の英雄になったのではと思う。
続く日清戦争において陸軍はラッパ手の木口小平、海軍では「勇敢なる水兵」の三浦虎次郎が国民に知られるようになり、武士階級に支配されていたかつての庶民が、軍人になることで天皇の臣下として直接に扱われることに喜びを見出したのではないか。
そして、敗戦後は仇敵のアメリカと手を結び、国民は経済進出という形で世界に飛び出し名と財をなすことで人種間闘争にも一応は勝利した。
今夏の参議院選挙でイラク支援先遣隊長だった佐藤氏が自民党から出馬し当選したが、出馬の理由は国政を預かる国会議員の現地視察すらないことに憤りを感じたからとのことである。今の自衛隊からは「軍神」は生まれえず、国民も国民が選出した国会議員もそれが分っているから無関心なのだろう。
「軍神」の誕生をひとつひとつ追いかけることでかつての時代を生きた国民の姿が炙り出されたが、敗戦と同時に「平和と反戦」を希求する日本国民に変貌したのは「軍神」を生み出すという庶民のプロジェクトXの終焉宣言だったのではと思う。
これは、国民が求めた英雄たちを検証することで、平和を維持するとはどういうものかを考え直す指針を与えてくれた一冊です。