電子書籍
夏の口紅
著者 樋口有介
『ぼくと、ぼくらの夏』の樋口有介、初期の傑作青春小説
十五年前に家を出たきり、会うこともなかった親父が死んだ。
大学三年のぼく、形見を受け取りに行った本郷の古い家で、
消息不明の姉の存在を知らされ、季里子という美しい従妹と出会う。
一人の女の子を好きになるのに遅すぎる人生なんてあるものか……
夏休みの十日間を描いた、甘く切ない青春小説。
解説・米澤穂信
夏の口紅
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紙の本夏の口紅
2009/09/01 20:44
親の情愛というものは、その形はそれぞれでも、やはり深いものなのです。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mayumi - この投稿者のレビュー一覧を見る
15年前に家を出た父親が死んだと知らされた主人公は、父が暮らしていた家にいく。そこには父が、彼と彼の知らない姉との二人に残した蝶の標本と、初めて会う従妹がいた。
女性の存在感がすごかった。
ケーキ研究家をしている主人公の母親は、元夫が死んだという知らせを聞いて「お祝い」だといい、残したものを引き取りにいくのを、息子に押し付けてしまう。いい意味でも悪い意味でも、純粋培養で育ったお嬢様。邪気も嫌味もなく、ふわふわと生きてる感じが、反対に妙にたくましく見える。
そして、父が再婚した相手の姉<見事に太ったおばさん>。竹を割ったようなと感じの潔さがある。
その、おばさんの娘、口をきかない、でもとっても綺麗な娘、季里子。
父が、母親と結婚する前に付き合っていた女性との間に生まれたという娘=姉を探して、主人公と季里子はお互いの存在を近づけていく。
という、ボーイミーツガールの物語かと思ったら、幻の姉を探すことは、父の足跡を追うことになり…。
子供は、絶対誰かの子供なのだ。そして子供は、親の背中を見ながら成長し、それを追い越していくものなのだろう。
すべては、親の離婚によって離れ離れになってしまった父親からの、最高のプレゼントだったのかもしれない、と思うと自然目頭が熱くなってしまうのであった。
とっても面白かった。
紙の本夏の口紅
2010/08/02 16:46
ノスタルジックな夏の物語
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
ケーキ研究家の母と暮らす大学3年の礼司は
15年前に家を出て行った父が
一週間前に亡くなったことを知ります。
面倒なことを避ける母の代わりに
父が住んでいた家に行ってみれば
父が再婚した女性の姉とその娘がいました。
そして、その娘、季里子は礼司の義理の妹で
10年前に父の再婚相手が亡くなった時に
伯母の養女になったのだといいます。
突然できた義理の妹、季里子は18歳。
口をあまりきかず、変わった感じの彼女は
その伯母によると「病気だから」と
礼司との接触を嫌がります。
しかし、2人は出会ってしまい、
しかし、2人は義理の兄妹。
という前時代的な設定ですが
この小説、約20年前に書かれたものでした。
どうりで、礼司の5歳年上の恋人はイラストレーターで
そこそこ仕事があって、それにしてはセレブっぽい感じ。
2人の関係も恋人ではなく、都合のいい関係という雰囲気です。
どこか懐かしい青春小説と恋愛小説のミックスなのですが
リーダビリティがうまい。
昆虫の研究者だった父が礼司に残した遺産は、新種の蝶で、
二羽のうち、一羽は会ったことのない姉に渡してくれ、というもの。
もちろん、礼司は姉のことなど初耳です。
天然系の母、怖い伯母、変わっている季里子に
アンニュイな年上の恋人といった登場人物も惹かれます。
ちょっと浮世離れした職業の人々で
生活じみたことが全く出てこない雰囲気も懐かしいなあ。
今、こういう小説は書かれない。
でも夏の物語だから、ノスタルジックな空気感がいい感じ。
紙の本夏の口紅
2015/08/14 13:47
青春ミステリ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hiro - この投稿者のレビュー一覧を見る
夏という季節には、独特の感傷や五感を刺激する気候が人間の心理を刺激する。
父親の軌跡を追うことで、一人の大学生が少し成長していく・・・
読後の爽やかで暖かな感じが、この作家の本領発揮。