電子書籍
魔女の息子
著者 伏見憲明 (著)
ゲイのフリーライター和紀の日常を彩るのは、凄まじくも愛すべきオンナたち。老いらくの恋に燃える母親に接するうち、彼の中で何かがうずき始める……。これはスキャンダルか? プロテストか? 衝撃の内容に業界騒然!
魔女の息子
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紙の本魔女の息子
2004/01/25 12:11
誠実な小説
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:リエイチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「魔女の息子」というから、ファンタジーかと思ったら、いきなり冒頭から男同士の濃厚なファックシーンです。お母さん方、くれぐれも、題名だけ見て、子供に本を与えないように…。
しかし、ここで本を閉じてはいけない。グロイとも言えるセックスシーンを、ポーカーフェイスでやり過ごせば、「生きる」意味にまじめに取り組んだ、稀に見る誠実な小説に出会えることになるのですから。
主人公は、同性愛者であること以外は、しごくまともで、普通の39歳独身男性。酒乱だった父へのわだかまり、父亡き後、新しい恋を謳歌する母親への思い、家を出て、結婚して新しい家庭を築いている兄への違和感—を抱えている。家族との葛藤、という点では、最近増えている中年の独身男性など、身につまされる話ではないだろうか。
家族だけでなく、登場人物全ての人物描写がリアルで、生き生きしていて、それぞれが自分の抱える問題を前向きに決着させようとする展開にどんどん引き込まれる。
父親に遠慮しながら生きてきて、父親の死後、自由と恋愛を謳歌する母親のゆるぎない生き方が特にいい。偽善という派手なスーツを着た女性運動家に、ラストで母親が言い放つ言葉の迫力っていったら!
えげつないだけのテレビドラマより、やっぱり「小説」の方が上等! そう思える一冊だ。
紙の本魔女の息子
2004/04/30 17:48
隣りに体温
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:黒い山羊 - この投稿者のレビュー一覧を見る
70歳を過ぎても女である母と、ゲイの次男坊。
一緒に暮らす二人は一見、マイノリティだ。まして、冒頭から濃厚なセックスシーンときては、キワモノめいた印象を与えかねないだろう。
しかし、この二人の日常生活の繊細なやり取りがいい。何気ない会話から、色色なものが澱のように、浮き上がってくる。
ゲイの息子の、不惑に近づいているのに、揺れ動く恋未満の想いと、体の欲求との不釣合いが炙り出す虚無。モラトリアムが終わりつつある焦燥。結局、肉欲だけでは満たされないのは、誰しも同じなのだ。それは、70歳を過ぎようと、ゲイであろうと、人間が寄り添って生きていく限り、捨てきれない性だろう。
それでも、心を整頓し、毅然とした母親はかっこいいし、40歳が近づいて、友人もなく、当てどなく彷徨う息子は、足場の定まらない人には、他人事とは思えないだろう。
つまり、余計な枝葉を取り除けば、人間の幸福は案外、簡単に転がっているけれど、屁理屈をこねていたら逃してしまう、そういうことなんだろう。シチュエーションは全く他人事に思えるのに、違和感なく読み終えてしまった。
紙の本魔女の息子
2003/11/18 16:39
著者コメント
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:伏見憲明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまでの人生で、小説が僕という人間にとって大切な何かであったことは、一度たりともありませんでした。今もその実感はあまり変わりません。
けれど、この小説は僕にとって、どうしても書かなければならないものでした。そうしなければ人生の後半を生きていくことは叶わないという切迫した思いがあったのです。
それは、これまで書いてきたような評論やエッセイのような形では表現できないような何かでした。たぶん、そうした明確な言葉では語りえないものだからこそ、人生の折り返し地点とも言える年齢になって、表現せずにはいられなかったのでしょう。
僕の切実な思いが、僕の個人的な事情と離れて、まったく知らない誰かとのコミュニケーションを生んでいくことの可能性を、今はただ見守るばかりです。
この作品を完成するのに力をいただいたすべての皆さんに感謝申し上げます。